私たちの体は常に外界からの病原体の侵入ならびに内なる敵ともいえるがんの発生の危険にさらされています。これらを排除するため、私たちの体には免疫システムが備わっています。免疫システムは、獲得免疫と先天性免疫に分類されますが、ナチュラルキラー(NK)細胞は先天性免疫で中心的な役割を果たす細胞です。NK細胞は、約30年前に、ある種のがん細胞を自然に(生まれながらに)殺す能力を持つ細胞として発見されましたが、長い間、その標的細胞特 異性がどのように決定されているかは謎のままでした。ここ約10年で標的細胞特異性を担うレセプターの一部が同定され、その一部がようやく明らかになってきました。私たちの研究グループでは、NK細胞レセプターとそれらが認識するリガンドを明らかにし、さらにその生体における機能を明らかにすることにより、NK細胞による標的認識機構の全貌を解明しようとしています。
主な研究テーマ
1.オーファンNK細胞レセプターが認識するリガンドの同定
NK細胞上には、活性化のシグナルを伝達する活性化レセプター群と活性化を阻止する抑制シグナルを伝達する抑制性レセプター群の双方が発現しており、標的 を認識した際、これらのレセプターを通じて細胞内に伝えられる活性化/抑制シグナルのバランスにより、NK細胞の活性化は決定されます(図1)。後述する Ly49やCD94/NKG2のようにリガンドが明らかにされているものもありますが、これらのレセプターの中にはリガンドが未知の“オーファンレセプター”が数多く残されています。これらのリガンドを同定し、その機能を明らかにすることがこのテーマの目的です。既に後述するKLRG1のリガンドを同定することに成功しました。
2.古典的カドヘリンをリガンドとするKLRG1の生理的機能の解明
KLRG1はNK細胞およびT細胞の一部に発現する抑制性レセプターであり、ウイルス感染等の強い免疫学的刺激により、その発現が誘導されることが知られています。私たちは、最近、KLRG1がE, N-, R-の3種のカドヘリンを認識することを世界で初めて明らかにしました。マウス個体レベルでの解析により、その生理的意義を明らかにして行きます。
3.MHCクラスIを認識するNK細胞レセプターのリガンド認識とその応用
NK細胞上にはMHCクラスIを認識する抑制性レセプターが発現しており、NK細胞による自己・非自己の識別を担っています。私たちは、これらのレセプターのうち、Ly49およびCD94/NKG2が認識するMHCクラスI分子上の領域を明らかにすることに成功しました(図2)。また、Ly49による MHCクラスI認識を阻害するLy49阻害ペプチドを作成し、それがNK細胞によるがん細胞障害を増強することを明らかにしました。Ly49阻害ペプチド の有効性をマウス個体レベルで解析します。
4.NK細胞の自己寛容機構の解明
NK細胞は、MHCクラスIを認識する抑制性レセプターを用いて、自己と非自己の細胞を識別します。しかしながら、NK細胞の中には自己MHCクラスIを 認識するレセプターを持たない細胞も存在し、それらの細胞は自己寛容の状態にあると考えられています。このNK細胞の自己寛容の機構について明らかにします。