山本一夫 やまもと かずお/教授/先端生命科学研究系
先端生命科学専攻/構造生命科学大講座/医薬デザイン工学分野
Tel:04-7136-3614, FAX:04-7136-3619
e-mail:yamamoto(at)k.u-tokyo.ac.jp
略歴
1979年3月東京大学薬学部卒業
1984年3月東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了(薬学博士)
1984年4月東京都臨床医学総合研究所研究員
1986年8月東京大学薬学部助手
1996年12月東京大学大学院薬学系研究科助手(改組による)
1997年12月東京大学大学院薬学系研究科助教授
1999年4月東京大学大学院新領域創成科学研究科教授(現職)
教育活動
大学院:機能分子設計学、生物製剤・医薬創製学、科学技術倫理論、先端生命科学研究論、地球生命科学論
薬学系研究科:免疫学特論
研究活動
1) タンパク質品質管理における糖鎖の役割
翻訳されたタンパク質が正しく機能するには、ペプチド 鎖を正しく折りたたむこと、正しくフォールディングできなかったタンパク質を分解すること、正しく機能するために局在性のことなる個々のタンパク質を輸 送・選別することが必要である。数千種類といわれるタンパク質は、小胞体内で付加されたN型糖鎖をタグとして、これらの構造の違いを識別するわずかな種類 の糖鎖認識タンパク質(レクチン)を介して、効率よく上記の品質管理が行われている。これら一連の識別を行う細胞内レクチンが、どのような糖鎖構造を識別 してフォールディング、分解、輸送・選別を行っているのか、細胞内レクチンがどのようなメカニズムで糖タンパク質を受け渡すのか、細胞内レクチン間の相互 作用、折りたたみを助けるシャペロン、トランスポーター、酵素の関与などを解析し、普遍的な細胞内での糖鎖の意義を明らかにしようと試みている。
2) 糖鎖認識分子(レクチン)の網羅的機能解析
糖 /タンパク質間相互作用を介して機能するレクチン分子は、500種類を越えると推定されているが、機能の明らかにされたものはわずかに過ぎない。そこで、 これらレクチン分子の発現、生化学的解析、機能解析という一連の解析系を確立し、網羅的な機能解析を通して、進化的にも新しい、細胞外で機能する多様な糖 鎖の生物学的意義の全体像を明らかにしようと試みている。
3) 糖鎖を標的とした抗体医薬あるいはバイオマーカーの応用研究
カーゴレセ プターはレクチンドメインを介して糖タンパク質の輸送・選別を行っているが、これらの糖鎖認識部位や細胞内輸送経路を改変することにより、特定の糖鎖をも つ糖タンパク質を、積極的に細胞外へ運び出すことが可能である。さらに、人工のzinc finger nucleaseを用いたノックイン細胞を用いて、高度な組換え体タンパク質発現系を確立し、ひいては抗体医薬などの組換え体医薬品への応用に繋げること を目指している。一方、糖鎖構造はからだのさまざまな状態を反映し変化することから、癌や生活習慣病のバイオマーカーとしても有用である。これらの質的な 変化と量的な変動を同時に捉えることにより、さらにはこの変化を捉えるイメージングプローブを作製し、高感度な診断技術の確立を試みている。
[文献]
1. N. Kawasaki, et al., Blood (2008) 111, 1972-1979.
2. Y. Kamiya, et al., J. Biol. Chem. (2008) 283, 1857-1861.
3. B. Nyfeler, et al., Blood (2008) 111, 1299-1301.
4. D. Yamaguchi, et al., Glycobiology (2007) 17, 1061-1069.
5. D. Nawa, et al., Glycobiology (2007) 117, 913-921.
6. N. Kawasaki, et al., J. Biochem. (2007)141, 221-229.
7. K. Yamamoto, et al., Methods Mol. Biol. (2007) 381, 401-409.
8. M. Ito, et al., J. Exp. Med. (2006) 203, 289-295.
その他
所属学会:日本生化学会(評議員)、日本糖質学会(評議員)、日本薬学会、日本免疫学会、日本分子生物学会
各 種委員会:厚生労働省薬事・食品衛生審議会専門委員、経済産業省産業構造審議会(前評価委員)、日本生化学会生化学企画委員会、高輝度光科学研究センター 研究委員会(前委員)、マクロファージ分子細胞生物学研究会(運営委員)、日本女性科学者の会(外部評価委員)、持田記念医学薬学振興財団(評価委員)、 病態代謝研究会(評議員)
その他:サミット・グライコリサーチ株式会社取締役
将来計画
ポストゲノムのプロテオーム研究の試みの中で、遺伝子に直接コードされていない糖 鎖の役割を明らかにすることは、最も重要な研究課題と位置づけられている。今年になりヒトゲノムにコードされているタンパク質は3万と下方修正された。しかし、体の中では同一のタンパク質にもさまざまな糖鎖を付加し、別の機能分子として使い分けている例も知られており、はるかに多くの役割を演じている。これら糖鎖の高度な機能(グライコーム)について探究・応用し、次世代生命科学における新しい学問の創成や発展に貢献すべく教育研究を行うことを目標とす る。
メッセージ
生命のしくみを覗けば、そこには40億年という年月を経て進化させたさまざまな工 夫を見て取ることができる。そのすばらしさを知り理解するだけでなく、謎を解き明かす当事者となるには、まさに生命科学の最盛期である今をおいて他にはない。自らの手で生命の神秘に迫り、そのすばらしさを感じ取って欲しい。