インタビュアー:KIM Minsu (The University of Manchester 修了)
今回キャリアインタビューにご協力いただいたのは、現在UNICEFギニアでPeople and Culture Officerとしてご活躍されている伴場 森一 (ばんば しんいち)さんと、UNICEFケニアでClimate Change Specialistとして力を発揮されている有本 優和 (ありもと ゆわ)さんです。お二人はともに2023/2024 IDDPメンバーであり、イギリスの大学院を修了後、アフリカのUNICEF事務所に勤務しているなど、多くの共通点があります。
伴場さんは人材・組織開発の領域で、有本さんはビジネス・環境領域で、それぞれ国際協力のキャリアを築いてこられました。異なるバックグラウンドを持ちながらも、現在それぞれの専門性を活かしてご活躍されています。本インタビューでは、これまでの歩みや現在の取り組みについてお話を伺いました。
(本記事でのインタビュイー2名の回答は個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません)
伴場 森一 さん
有本 優和 さん
・伴場:2024年10月から西アフリカのギニア共和国にあるUNICEF事務所にて、People and Culture Officerとして幅広い人事関連の業務に従事しています。主な業務は以下の3つです:
採用活動:スタッフ、コンサルタント、UNボランティアの採用活動(求人情報の掲載・書類選考・面接選考・Reference Check等)
研修活動:採用したメンバーに対する研修や能力開発をコーディネート。
人事戦略:UNICEFの組織再編等の人事戦略策定に関わる業務。
・有本:2025年4月から東アフリカのケニア共和国にあるUNICEFケニアに入構し、WASHチーム配下でClimate Change Specialistとして活動しています。背景として、日本政府と国連ボランティア計画の間で、気候変動によるアフリカの水不足や干ばつへの対応を目的としたパートナーシップが締結され、私はその日本政府の援助を受けてUNVとして採用されました。UNICEFは近年、気候変動の取り組みを加速させており、資金や活動を拡大させようとしているフェーズにあります。主な活動は以下の3つです:
組織内の気候戦略の策定および運用:UNICEF内での気候変動対策の計画や気候資金調達、事業の方向性を整えるための戦略策定および運用に従事。
現場でのプロジェクト支援:洪水や干ばつなど気候変動の影響を受ける子どもたちを対象に、水・衛生、教育や医療へのアクセス改善などプロジェクトを実施。また、ユースのスキル開発としてグリーンビジネスやイノベーションを支援し、気候変動にレジリエントな雇用および商品サービスの拡大を目指す。
政府との連携:環境省をはじめケニア政府に対して、子ども視点での気候変動政策の強化を促す。例えばケニアの国家気候変動行動計画に子どもとユースに配慮した条項を組み入れるように提言。政策は強化されつつあるものの、現場での実装にはまだ課題があり、政府との協力が重要。
・伴場:ギニアはフランス語圏で、事務所内でもフランス語及びの英語でコミュニケーションしています。前の上司はセネガルの方で、現在はマリ出身の方です。また、事務所の多くの方はギニア人で、ギニア以外の国出身の職員も上司同様、フランス語圏出身の人が多いです。
業務面では、人事関連の仕事で、HQ(本部)や西・中央アフリカ地域を統括しているRegional Office(地域事務所)とのやり取りも多くあります。また、西・中央アフリカ地域のUNICEF事務所の人事全員が参加するオンラインミーティングで今後の方針をディスカッションすることもあります。
カルチャーに関しては、UNICEF全体に言えることだと思いますが、同僚への「ケア」「リスペクト」「トラスト」等がしっかりカルチャーとして根付いていると、人事として日々感じています。事務所の皆さんは、UNICEFのコアバリューをしっかり持っているということですね。
ちなみに、私は国際機関に勤務している多くの方々にお話を伺っていたので、特に大きなカルチャーショックはありません。ただ、一つ挙げるとしたら、位階に関わらず、皆さんは敬称をつけずに名前で呼び合っているのは少し驚きました。事務所代表でさえ、私たちは愛称で呼んでます。
・有本:私も最初はUNICEFのカルチャーや略語に慣れるのが大変でした。UNICEFケニア国事務所(Country Office)はナイロビにある国連本部の下に位置し、さらにUNICEFの本部機能、東および南アフリカ地域事務所(Regional Office)と連動する三層構造です。そのため、気候変動関連の仕事では国事務所だけでなく、地域事務所との連携もあります。そのため、国や地域全体でどう気候変動に対応していくかという戦略面での視点が重要であり、非常にダイナミックだと感じます。
また、UNICEFは自らが直接プロジェクトを現場で実施するのではなく、現地のNGOや政府機関などのパートナーを選定して実施を委託する仕組みを取っています。そのため、現地ケニア人との関わりは特にこうしたパートナー機関を通じて築かれることが多く、現場の知見や地域コミュニティのニーズ、またそれに応じたプログラムをデザインをするために必要なことを学ぶ大切な機会になっています。
旧フランス領のギニアと比べ、ケニアは旧イギリス領のため英語が広く使われています。現地の言語はスワヒリ語なのでケニア人との同僚はスワヒリ語が混じることがありますが、基本的には英語で不自由なく生活、仕事ができています。スワヒリ語は日本人にとっては発音しやすい言語だと感じており、例えば水はスワヒリ語でマジというため、覚えやすいです。
・伴場:この国を一言で言うと、日本人にとってはフロンティアですね。UNICEFギニア事務所の日本人は私だけで、それも十数年ぶりの日本人だそうです。また、ギニア全体でも日本人は約30人程度です。また、2024年度のJETROの資料によれば、日本企業もありません。自動車会社等の代理店はありますが。
日本人が経営する日本食レストランはなく、日本の輸入品さえ見かけることはあまり多くはありません。見かけるのは味の素やキッコーマンの醤油、キットカットなどです。また、スーパーの選択肢が限られるため、物価はロンドンに留学していた時より高い印象です。ヨーロッパから来た同僚は、「スーパーの物価はジュネーブ並みだね。」と言っていました。
・有本:ケニアの首都ナイロビは大都会で、ショッピングモールやレストランも多く生活は便利です。国際機関に勤務している日本人も60名ほどおり、タテヨコの繋がりもつくりやすいです。ケニアはアフリカのITハブとも言われており、生活の中でもその利便性を実感します。特に有名なのが携帯電話を使ったモバイルマネーの仕組みMPESA(エムペサ)で、銀行口座を持っていなくても携帯番号さえあれば送金や支払いが簡単にできます。
街中のほとんどのお店やレストラン、タクシーでも使えるので、現金を持ち歩かずに生活できるのは安心です。日本でいうQR決済に近い感覚で、友人同士の割り勘や家賃の支払いまでMPESAで済ませられます。
一方で、都市部とスラム街が隣接しており、たった数メートル移動するだけで景色や生活環境が大きく異なります。ナイロビにはアフリカ最大のスラムといわれるキベラスラムがあり、その格差の大きさに驚かされることも少なくありません。都市の発展が進む一方で、支援を必要とする人々の存在を間近に感じる機会も多く、こうした現場の状況からは支援の難しさやジレンマを実感させられることがあります。
UNICEFギニア事務所内「世界子供の日」イベントにて(伴場さん)
UNICEFケニアのサポートする気候イノベーションプログラムの審査の様子(写真右端が有本さん)
・伴場:日本の大学進学の際には幅広く国際関係に関する知識を身につけたいと思い、国際関係学部に進学しました。振り返ると、その学部では教授の中に国際機関・外務省・JICA勤務経験のある方々が多数いらっしゃったことに加えて、高い頻度でそれらの組織に勤務している方々がゲストとして講演に来られていて、国際開発という仕事がそれほど遠いことではなかったことを覚えています。在学中、アフリカに行ったわけではありませんが、恵まれない子供や困難な状況に置かれた人々の存在を知り、将来はそうした人たちを支えたいという気持ちが芽生えていきました。
また、国際機関で働くには修士号が必要だと知り、社会に出る前に取得した方が良いのではないかと考えました。そこで、国際機関はパブリックセクターに分類されること、また、パートナーとして現地政府は勿論、日本政府とも協力することもあると知り、より幅広くかつより深く公共政策を学びたいと考え、国内の大学院に進学することにしました。
・有本:私は幼少期の11年間を東南アジア(シンガポールとマレーシア)で過ごしました。小学生の時、マレーシアのカンポン村にホームステイした経験があり、都市部と農村部の格差を肌で感じたことを今でも鮮明に覚えています。私が暮らしていた都市部と比較して道路やインフラが整備されていなかったり、停電が頻発したりと、都市の生活との違いに強い印象を受けました。幼い頃から経済社会の格差を目の当たりにしたことから国際開発への関心をもつようになりました。
その後、UNDP(国連開発計画)駐日事務所でのインターンを経験し、民間企業の資金や技術をいかに開発分野に活用できるかという観点から、企業とのパートナーシップに関する広報業務に携わる機会がありました。公的セクターはどうしても資金や技術面で制約がある一方、プライベートセクターは独自の強みやイノベーションを活かしてサステナビリティや社会課題に取り組むことが可能です。その視点に触れる中で、企業との協働によって開発課題の新たな解決策を生み出せる可能性に面白さを感じ、国際協力への関心は一層深まりました。
・伴場:大学院在学中に、パブリックセクターに進む前に一度は民間のロジックを学ぶことも重要だと考えました。国際開発の世界でも、プライベートセクターの役割がますます大きくなっていると理解したからです。そこで、アフリカでのビジネスに強みを持つ商社に就職し、主に西アフリカ諸国との商取引に携わりました。
ただ、実際に働いてみて、現場から遠いという感覚を持ちました。そこで、次により裨益者に近い立場で働きたいと思い、NPOに転職しました。NPOではベトナムの方々を対象にした職業訓練や人材開発のプロジェクトに携わりました。入職してひと月以内にベトナム出張に行く機会があったり、裨益者に近い仕事をすることができました。具体的には、人材開発プロジェクトのコーディネート、国際人材を雇用している企業向けの人事コンサルティング、そしてNPO内のマネジメントなど、幅広い業務を経験しました。
その後、国際機関での勤務を見据え、よりHRに関して体系的な知識をつけたり、使えるツールを増やしたいと考え、二つ目の修士号を検討したのです。
・有本:私はまず富士通に入社し、Business Producer(営業職)として働きました。自動車業界向けに、製造プロセスのカーボンニュートラル化や生産効率化に関するビジネス提案・推進を担当していました。
その後、社内異動でサステナビリティ推進本部に移り、ESGの中でも特に“Social”の領域に特化したコミュニティ連携業務を担当しました。具体的には、NGOや国際機関とのパートナーシップを通じて、富士通の資金、デジタル技術および社員のスキルを無償で提供し、各国の環境課題や教育課題の解決を支援するプロジェクトに携わりました。世界各リージョンの同僚と密な連携を図りながら、全社のサステナビリティ戦略およびKPIの策定する業務にも従事しました。
その中で特に関心を持つようになったのが環境分野です。環境問題は解決策がまだ確立されておらず、誰も答えを持っていない領域です。模索しながら新たなアプローチを試行しながら解決策を見出していく過程に大きな魅力を感じました。その結果、企業・ビジネスの視点から環境・社会課題にアプローチする国際開発の領域をより深く学びたいという思いが強くなり、サバティカル休暇を活用して大学院進学を決意しました。
NPOの送別会の様子(手前の左から二番目が伴場さん)
・伴場:進学先として、London School of Economics and Political Sciences (LSE) “MSc Human Resources and Organisations (International Employment Relations Stream)”を選択しました。かなり長いですよね(笑)。
大学院留学を検討し始めてから、国際機関での人事職にも関心があったため、国際機関に勤務している知人に人事の方を紹介してもらい、相談したこともありました。目指す人材像と当時の自身のギャップを客観的に把握したいと考えたためです。その方には、“Organisational Behaviour” や “People Analytics” が国際機関での業務に役立つとアドバイスをいただき、それらを学べる大学を探しました。
日本では修士課程でHRにフォーカスして学べる大学が数えるしかなく、かつ国際開発のコンテクストで学びたいと考えていたため、国際開発の研究に強みがある英国に目を向けたのです。各種の大学ランキング、修了した人たちの就職先、ネットワーキングの機会、在学生の国籍の割合等、様々な情報を調べました。
ただ、出願当時は英国でも国際開発のコンテクストでHRを学べるところやPeople Analyticsを学べる大学は数えるほどしかなく、念のため幅広く出願しようと、最終的にLSE、UCL、Edinburgh、Manchester、Durham、Leedsの六大学に出願しました。幸い、すべての大学からオファーをもらい、ベストプレイスとして、LSEへの進学を決めました。LSEは、私がこれまでインタビューした修了生の方々や、担当したLSEの留学レポートにあった通り、理論と実践のバランスが取れた大学だと思います。
実際、UNICEFで勤務している現在、前述の国際機関の人事の方の助言通り、“Organisational Behaviour”と“People Analytics”、それ以外のHRに関する理論や学んだツールは役に立っています。
・有本:私はUniversity of Sussex “MA Gloalisation, Business and Development”を進学先に選択しました。詳細については留学レポートにも記載していますが、前職の経験から企業の役割に焦点を当てた持続可能な開発を追求したく、イギリスの中でも数少ない「開発×ビジネス」に特化したサセックス大学 IDSの該当コースで学ぶことにしました。プログラムでは、企業のテクノロジーを活かして環境に強靭な農業を推進したり、女性のエンパワーメントを支援するなど、さまざまなケーススタディを通じて、ビジネスと開発の関わりを実践的に学ぶことができました。
特にインパクト評価のコースは前職富士通のサステナビリティの業務および開発プロジェクトに密接に関係する内容であり、実際にインパクト評価の手法を体系的に学ぶことができました。現在のユニセフの業務でも各プロジェクトで必ずResult Framework(国際開発やプロジェクト評価で使われるの手法の一つ)を考える必要があるため、直接役に立っています。
・伴場:LSEの修士課程の後は、JICAに入構しました。パブリックセクターでの経験があれば国際機関への応募時に有利になると仮説を立てていたのですが、まさに修了する少し前にJICAベトナム事務所からの、ODAとしての人材開発のプロジェクトについての幅広いステイクホルダー(行政機関・NGO・民間企業・大学等)との調整を行うポストの募集を見つけたのです。私は前職でベトナムと関わりがあるほか、人材開発やステークホルダーマネジメントの経験もあり、求められていた職歴年数も満たしていたので、応募を決めました。修士論文の追い込みの時期に並行してJICAの選考の準備したのは大変でしたが、幸いオファーをもらいました。ここでは、前述の経験を積むだけではなく、アジアの中でも特に大きなJICAの在外事務所で、JICAの様々な事業に対する理解を深めることができました。
その後、JICA在籍中、UNICEFが募集していたポストの中に私のこれまでの全ての経験が活かせそうなものを見つけました。西アフリカのギニア事務所での人事ポストです。国内の大学で学んだ国際関係学、修士課程で得た公共政策の知識、プライベートセクターでの西アフリカ業務の経験、NPOでの人事経験や受益者に近い現場での経験、LSEで学んだHR理論、JICAでのフィールド経験とパブリックセクターでの勤務経験。国際機関、特にそのUNICEFギニア事務所のポストに挑戦するために必要な武器はすべて揃っていると感じていました。そのため、そのUNICEFの募集にも徹底的に対策して応募したところ、これもオファーをもらいました。そして、今に至るというわけです。
・有本:大学院修了後は、在ジャマイカ日本国大使館で草の根人間の安全保障無償資金協力の事業管理と推進に携わりました。草の根・人間の安全保障無償資金協力は、開発途上国の地域住民やコミュニティが直接恩恵を受ける小規模かつ即効性のある開発・福祉プロジェクトを支援する、日本のODA無償資金協力制度の一つです。通常の二国間無償資金協力が政府間で行われるのに対し、本制度は現地のNGOなどを直接支援できる点に特徴があります。農村部での環境や教育・医療保健事業に関わる中で、初めての途上国でのフィールド経験や二国間援助のあり方を学ぶことができました。その後、気候変動に特化したUNICEFのポジションに応募し、現在のキャリアに至っています。
LSE学生寮のパーティーの様子(手前の左から三番目が伴場さん)
サセックス大学IDSのキャンパス前にて(有本さん)
・伴場:大学院進学であれ、就職・転職であれ、私は選んだ道を正解にするよう努力することが大事だと思います。進路を選ぶ際、A、B、Cと複数のプランで悩むことがあると思います。前提として、徹底的に情報収集をし、その上でベストなプランで進めるべきです。しかし、仮に当初、Aがベストだと思ってそのプランで進めても、後になって「Bの方が良かった」「Cが良かった」と思うことがあると思います。しかし、仮にBを選んでも、「Aが良かった」「Cが良かった」と思っていたかもしれません。どの選択をしようと、後で振り返ったときに「あの選択で正解だった」と未来の自分が納得できるよう、選んだ道を進み、そこで最大の努力をすること。それが私が伝えたいことです。
・有本:私が皆さんにお伝えしたいのは、どんな経験も無駄にならず、「点として積み重なり、やがて線としてつながっていく」ということです。例えば、UNDPのインターン中に富士通とのパートナーシップ活動の広報業務を経験したことが、その後の富士通でのサステナビリティ関連業務に直結しました。また、ジャマイカでのフィールド経験やイギリス大学院での学びも、現職のUNICEFでの仕事に活かされています。
その時点ではこれが将来どうつながるか、役立つのか分からないものです。ですが、振り返ってみると一つひとつの経験が必ず役立ち、自分のキャリアを支える大切な要素になっています。だからこそ、正解はすぐには見えなくても目の前のことに真摯に全力で取り組むことの積み重ねが、自分のキャリアを形作る上で最も大切だと思います。その積み重ねが必ず自身の道を形づくり次の扉を開いてくれます。