執筆:2024年11月
担当:伴場森一 (London School of Economics修了)
初めまして!有本優和と申します。2023年9月から1年間、サセックス大学、英国開発学研究所(Institute of Development Studies、以下IDS)にてMA Globalisation Business and Development を専攻しておりました。
これまでの経歴についてご説明します。私は日本生まれですが、幼少期の11年間をシンガポールとマレーシアで過ごしました。この頃から、漠然と社会の役に立つ国際的なキャリアに憧れていました。
高校受験前に日本に帰国し、日本の公立高校を卒業後、上智大学の国際教養学部に進学しました。国際教養学部では授業はすべて英語で行われ、この4年間でアカデミックな英語力が磨かれたと今振り返って実感しています。1年次は、大学が提供するインドネシアでのグローバルリーダーシッププログラムや、ワシントンD.C.への派遣など短期プログラムに参加をしました。2年次の秋学期から1年間オランダに交換留学をし、文科省のトビタテ留学JAPANの7期生として奨学生としても活動していました。
留学後、国連開発計画(UNDP)の駐日事務所でインターンをする機会をいただき、将来開発分野でのキャリアを目指す原点になりました。UNDPが日本企業のSDGsビジネス推進を支援していることを目の当たりにし、国際開発における民間企業の重要な役割を実感しました。特に印象に残ったのは、UNDP、富士通、東北大学が共同で推進する防災プロジェクトです。富士通のテクノロジーがあらゆる社会課題の解決に活用されていることに感銘を受け、自社の技術とリソースを通じた社会貢献に興味を抱きました。
大学卒業後、富士通に総合職として就職し、大手自動車企業のお客様にビジネスプロデューサーとして勤務しました。その後、社内異動制度を利用し、同社のサステナビリティ推進本部に異動し、サステナビリティ経営の戦略企画と事業管理に従事しました。世界中の社員と日々連携を図り、グローバルで一体となってサステナビリティに関わる事業を推進し、世界17カ国にある20以上のNGOへの助成を行うプログラムの推進を担いました。富士通でビジネス推進とサステナビリティ経営の両面に関わったことが、ビジネスを通じた開発課題の解決に関わりたいというキャリアビジョンに繋がりました。
3年半のキャリア経験を積んだ後、企業の役割に焦点を当てた持続可能な開発を追求したく、イギリスの中でも数少ない「開発×ビジネス」に特化したサセックス大学 IDSのMA Globalisation Business and Developmentに進学しました。
本コースでは、グローバル化の時代において、ビジネスが地域、国家、そして世界が直面するさまざまな開発課題にどのように貢献できるかを探求します。開発学の視点を基盤に、ビジネスの役割、可能性、限界について多角的に学び、批判的な考察が求められます。近年、開発援助分野では公的セクターのみならず、民間セクターの役割が重要性を増しており、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成を支えるビジネスや、そういったビジネスへの投資が増加しています。その結果、ビジネスと開発は切り離せない関係となっています。
さらに、本コースではビジネスの役割を考える際に、政策との関連や市場の観点を含むシステム全体を俯瞰する視点も重視します。これにより、各国・地域の経済成長や急速な技術革新が貧困や不平等にどのように影響を与えているかを深く理解し、課題を分析する能力を養います。
秋学期
「Globalisation, Business and Policy」(必須科目):グローバル化の主要な原動力に焦点を当てながら、その概要を理解し、途上国・新興国への影響や、ビジネスがもたらす影響について考察します。また、貧困削減や不平等の視点からグローバル化をより良い方向に導くために必要な政策について議論します。
「Economic Perspectives on Development」(選択科目):経済学の視点から開発学を学び、経済学の概念とその応用について基礎的な理解を深めます。各講義では、主要な経済学の概念を学び、それを現代の開発に関する議論の文脈で応用します。
春学期
「Business as a Development Actor」(必須科目):ビジネス活動が開発に与える影響を考察します。ビジネスと開発に関する政治経済学の視点を学び、市場システムやバリューチェーン、ビジネスの本質や責任など、開発促進のための主要な戦略を探求します。取り上げるトピックには、「民間セクターの開発」「包摂的ビジネス」「金融包摂とマイクロファイナンス」「デジタル経済」などが含まれます。
「Theory and Practice of Impact Evaluation」(選択科目):開発プログラムのインパクト評価の手法とアプローチについて学びます。評価管理の実践的課題も含め、評価設計の構築方法をグループワークを通じて習得します。実際の開発プログラムを題材に、インパクト評価の提案書を作成するプロセスを体験的に学びます。
「Aid and Poverty」(選択科目):開発援助の歴史的背景とその貧困削減への可能性について批判的に考察し、特に新しい援助の枠組みや脆弱国家の状況に焦点を当てます。また、援助がもたらす国家間の関係性への影響やBRICS諸国の役割、緊急支援後の課題など、多角的な問いに取り組みます。
「Research Design」(必修科目):修士論文の研究と執筆に備えたモジュールであり、このモジュールを履修する時期から自身の修士論文のテーマとリサーチクエスチョンを考え、授業の内容と結びつけることが期待されています。社会科学分野の研究における方法論と手法を全般的にカバーし、リサーチデザインの基礎を学びます。
※基本的に全てのモジュールは、授業(指導教員によるレクチャー)が2時間、セミナー(少人数でのディスカッション及びグループワーク)が1時間半の構成となっています。
夏学期 - 修士論文の研究&執筆
概要:修士論文は10,000字で、コースに関連する内容であれば研究テーマを自由に設定できます。3月頃までに自身の研究テーマを固め、スーパーバイザーを決定するスケジュール感です。5月には「Research Design」モジュールの一環として3,000字のリサーチプロポーザルを提出し、そのフィードバックを基に6月から8月の3か月間で研究と執筆を進めます。多くの学生は文献を中心に研究を行いますが、フィールドワークを実施してデータを収集する学生も一定数います。スーパーバイザーとの対面ミーティングは月に一度の頻度ですが、メールやオンライン会議でのやり取りも可能で、頻度や形式は学生やスーパーバイザーによって異なります。ただし、基本的にスーパーバイザーが主導することは少なく、自分から積極的にアプローチする姿勢が求められます。
私の研究について:「ICT×ジェンダー」をテーマに、バングラデシュとセネガルにおけるモバイル対応の農業サービスの事例を比較し、女性農家の参加がジェンダー平等を促進する可能性を研究しました。特に参加型デザイン(ユーザーがモバイルサービスの設計プロセスに関わる手法)と女性のエンパワーメントに焦点を当て、女性のスキル開発や家庭・地域社会での男性との関係性の変化を評価しました。途上国の農村地域ではジェンダー格差が顕著であるため、ICTを活用した包括的なアプローチと女性の視点を重視した慎重なデザインが必要であることを示しています。
サセックス大学はイングランドの南部の港町ブライトンから電車で10分ほどのFalmerに位置する総合大学です。キャンパス大学として知られており、広大な敷地内に学部、図書館、学生センター、学生寮、ヘルスセンター、薬局、売店、食堂、スポーツセンターなど各種施設が集約しています。国際色豊かで、多様な留学生が在籍し、手厚い学生サポート体制が特徴です。中でもInstitute of Development Studies(通称IDS)は開発学の分野においてQS大学ランキングの世界一(2023年まで8年連続)となっており、国際開発の名門校として知られています
課外活動ではサセックス大学のジャズバンドに所属し、ベーシストとして年に数回、学内と市内のパブなどで公演をする機会がありました。勉強漬けだと精神が滅入るため、週に数時間、自分の好きな音楽に没頭できる時間は貴重でした。
また運動のために、学内のジムが提供するヨガやピラティス、ワークアウトのクラスに空き時間に参加していました。一日中図書館や自宅にこもるのではなく、体を動かす時間を意識的に作ることで、ストレス解消にもなり、より集中して学業に取り組むことができました。
また、サセックスはSouth Downs国立公園に囲まれ、とても自然が豊かな地域なので、たまにトレッキング、ウォーキングをしにいっていました。IDSの教授が定期的にイベントを企画してくれ、それに参加していました。イギリスの国立公園ではその辺に牛や羊が放牧されており、非常にのどかな雰囲気で心身が癒される幸せな時間でした。おすすめはSeven Sisters と Devils Dikeです!
海外の大学・大学院では、課題やリーディングに追われながらも、友人と充実した時間を過ごしたり、外でさまざまな活動に参加したりと、限られた時間の中でのタイムマネジメントやオン・オフの切り替えが非常に重要です。その中で最も大切なことは、自分が留学する目的を明確にすることだと思っています。目的や軸が定まっていれば、目の前にやるべきことややりたいことが多くても、自然と優先順位をつけられるようになります。すべてはできないことを前提に、その中で自分が本当に優先すべきことは何か、手放してもよいことは何か、を冷静に考えることが大切です。
IDSの最大の魅力は、世界中から集まる多様な学生との関係を構築できることです。アフリカや南アジアなど途上国出身の学生も多く、大学やコースを通じて出会った友達との会話やディスカッションから学ぶことが多くあり、毎日がとても刺激的でした。
また、特にイギリスでは、冬場の日照時間の短さや天気の悪さに苦労する人が多く、メンタルヘルスを保つことが難しいこともあります。勉強に没頭する一方で、息抜きとなる趣味や課外活動に取り組むことは、心身の健康を保つために勉強と同じくらい重要だと思います。皆さんの挑戦が実り多いものになるよう、心から応援しています!