肩こりと不正咬合
❐肩こりと咬み合わせ
咬み合わせや歯のせいで肩がこるようになったと訴える患者さんが近年多くなっています。そのような患者さんへの歯科的対応は、患者の既往歴、病歴、生活環境等のバックグランドの把握を十分に行い、安易に歯を削ったり、詰め物や被せもの、入れ歯を作り直すような不可逆性の歯科治療を行ってはならないことが鉄則です。
●肩こりとは
肩こりとは、首から肩にかけて感じられる筋肉の緊張感や不快感、鈍痛などをさす症候名です。僧帽筋、菱形筋、棘上筋を中心に、肩甲帯あるいは後頸部の筋群に緊張、収縮、硬結、疼痛、圧痛などの症状が存在します。原因は、一般的になで肩、猫背など体格や姿勢、またストレスや筋肉の過緊張などに起因するとされ、治療法として圧痛のある筋肉には伸展、収縮といった運動による血流の回復や温湿布や熱気浴などの温熱療法、体操、理学的療法(超音波や鍼灸)などが行われます。一方で、肩こりには、内科的疾患(高血圧、低血圧、狭心症、胆石、胆のう炎、がんの転移など)の関連痛として、また整形外科的疾患(頸椎疾患、胸郭出口症候群、肩関節疾患)、精神科的疾患(ストレス、うつ、心身症)、眼科、耳鼻科、歯科口腔外科的疾患(顎関節症)、婦人科的疾患(更年期障害)など各診療科による治療が必要な疾患の症候性の症状として現れる場合もあります。
歯科との関連においては、咬み合わせを改善することでその症状が回復したとする臨床的報告がなされ、咬み合わせと肩こりについて昨今注目が集まっていますが、一方で、その関連性を否定する報告も多くあります。現在のところ、それらの関連性に関する報告は断片的なものがほとんどであり科学的根拠に乏しいものです。
歯のせいでひどく肩がこるのかもしれないと考えていらっしゃる患者さんへの歯科的対応は、十分な問診および検査を行い、その潜在的原因を見極めるなど慎重な対応が望ましく、不確定なままに不可逆的な治療を行うべきではないし、受けるべきでもありません。
~肩こりのない欧米人~
「肩がこる」という言葉の生みの親は明治の文豪、夏目漱石と言われています。明治42年に発表した代表作「門」の中で「頸と肩の継目の少し背中へ寄った局部が、石の様に凝ってゐた。」と、肩に対して“こる”という言葉を公の書物に初めて登場させ、これ以後日本中に広まったとされています?。一方で、日本人のいう「肩」は、欧米では肩関節の周りをさすため「肩こり」と言う言葉は存在しないことになります。しかしながら実際には、neck stiffnessやneck tensionなど首の凝りと呼んでいるようです。
References
1) 関 直樹:専門医がやさしく教える肩こり PHP研究所, 東京, pp37-60, 1999
2) G.Perinetti, et.al : Dental occlusion and body posture: No detectable correlation. J Contemp Dent Pract 8 : 60-7, 2007
3) C.Tardieu, et.al : Dental occlusion and postural control in adults. Neurosci Lett 450 : 221-4. 2009
4) B.A.Hanke, et.al : Association between orthopedic and dental findings : what level of evidence is available? J Orofac Orthop 68 : 91-107, 2007