土地の多くは中ノ川の両岸に広がる水田と山林が占めており、津市や鈴鹿市の都市部と比べる緑の多い比較的自然環境に恵まれた地区と言えましょう。
中ノ川の周囲には河川が刻んだ段丘上に、水田や丘陵地が広がる。
春の中ノ川。この地域では森林となった丘陵を侵食して蛇行するため、下流部に比べるとまだ自然が保たれている。
それでも私がこの地に暮らし始めた三十数年前と比べると、現在では見ることができなくなった動植物も多く、かってはこの国のどこにでも存在していた多様な自然環境が日増しに失われてゆくことが残念でなりません。
ここでは私の家の周りで、今も出会うことの出来るできる野生植物の花を中心にした世界を紹介したいと思います。
春
2月も終を迎える頃になると、野山の春は南向きの土手の斜面や日溜まりの田畑からやって来ます。
徐々に日差しが長くなり、地表の温度が上がってくると、冬の間地表に張り付いて寒さに耐えていた冬のロゼッタ葉が一気に成長しだす。
フキは陽の良く当たる湿った土地を好み、葉よりも先に花( フキノトウ )を付ける。フキノトウが花を開けば、もう春だ。
雑草のロゼッタ葉も日毎に大きくなつて日当たりの良い地面にはオオイヌノフグリやホトケノザ、ハコベ、シロバナタンポポと言った春を先駆ける雑草が花を付け始めます。
ホトケノザは冬の花と云う方が良いような気がする。晩秋から開花して日溜まりでは真冬でも花が見つかる。
春の七草に名があるが、七草のホトケノザはこの種ではなくタビラコのことだと言う。
ホトケノザの中には花の色素が抜けて白くなってしまったものも見つかります。ヒガンバナにもこのような株がありますが、除草剤等の影響があるのかもしれません。
イヌフグリも陽だまりでは2月の末には花をつける。陽の当たる南斜面ではホトケノザと共にいち早く地表を覆う
殆どの花は上写真の様な淡い青色だが中には下写真の様に紫を帯びる花色のものがある。毎年同じ場所で見られるから地域的な変種かもしれない
3月も春分の日を過ぎて気温が15度を上回る日が続くと春の野草は一斉に葉を茂らせて枯草が目立った大地を緑で覆い始め田畑の畔や道端に次々と花を付けます。畑ではいつの間にか菜の花が早々と開花して、彩りの少ない世界を黄色く染めます。
菜の花は本来はアブラナ科のアブラナ( 油菜 )を指す名で、私の子供時代1950年代までは早春の田畑は一面この油菜で覆われたものだ。種から菜種油を採ったのだが、近年では菜の花は菜種よりもカブ、白菜、小松菜、野沢菜などの食用野菜の花に変わっている
枯れ草の間から気の早いつくしが顔をのぞかせて、山の麓のあちこちにフキノトウの花が目立ち始め、風の中に土の香りが漂いだして心地よい春がやって来ます。
ツクシやフキノトウを春の山菜として摘んで回るのも春の楽しみ。苦みのあるフキノトウの独特の風味は春の恵みの一つ
子供達にとってツクシ摘みは春の楽しい遊び。良い場所に巡りあえば摘み放題だ。
気温が上がりツクシが一斉に背を伸ばし始めると、それまでは田畑でひっそりと咲いていた早春の野花が一気に最盛期を迎えます。
春の色と言えば桜に代表される淡いピンク。けれども早春の野山の花の多くには赤紫や白が目立つ。上は乾田のホトケノザ群落。
こちらはヒメオドリコソウの群落。どちらも春先の農道や路肩に可愛い花をつける
ことに作付けを待つ水田や畑、農道の周囲は肥料分が多いため、春先の暖かい日が続くと畑は見る間にホトケノザやナズナの群落で覆われ、水田はタネツケバナの白い花で彩られます。
ナズナ( ぺんぺん草 ) 上写真とタネツケバナ下写真は共にアブラナ科の雑草だがタネツケバナは水分の多い水田に多く、ナズナはより乾燥した農道や畑を好んですみ分けている
花が終わるまで田畑を耕しさえしなければ、ホトケノザやタネツケバナは田畑一目に大群落を作る。蓮華、タンポポ、ハハコグサなど春の野草の多くが条件さえ合えば田畑一面の群落に成長する
同じタネツケバナ( だと思うのですが )でも上写真の様に畑の日当たりが良く乾燥気味の場所と、下写真の湿気が多く日当たりの悪い場所では同じ種類でも株の形がかなり異なってまるで違う種類の様に思われるものがあります。
タネツケバナは籾種をつける頃(稲の発芽促進のためで我が家では三月末)開花する。白い可愛い花は地味だけれど無数に群れると感動すら覚える。
この時期、道端で白い小花をつける植物には、その他にもハコベやノミノフスマ、ミミナグサなどがあります。ハコベやミミナグサなども成長が早く数日暖かい日が続くと見る間に増えて土地を覆います。
上はハコベ。葉は柔らかく春先の野菜が少ない時期にもよく増えるので春の七草のひとつになっている。下はハコベに似たノミノフスマ。ハコベよりは全体に繊細な感じ。
上はオランダミミナグサ。名の様にヨーロッパからの帰化植物。日当たりの良い場所でハコベ同様に良く増える。
花のなかには、山の北斜面の切通のように、日当たりの悪いジメジメした場所を好んで春を迎えるショウジョウバカマの様な花もあります。ツクシやフキノトウ同様真っ先に春を告げてくれる花です。
猩猩袴の咲く環境は日当たりの悪い西斜面のせいで人間にとって魅力が無いためあまり変化しない。しかし農業人口が老齢化して人が農道や山裾の草刈りを放棄してしまうと逆に環境が悪化して株が絶えてしまうことがある。
同様に林間の日陰を好む花にイワカガミがあります。桜と共に開花し4月末頃迄咲きますが、ショウジョウバカマよりもより林間を好む様子で、散歩道の林道にあるこの自生地は30年来変わりません。
イワカガミもショウジョウバカマも環境や開花日数に応じて花色に微妙な変化がある
桜の開花
春の彼岸も過ぎ道端や庭先にめっきり花の種類が増えだすと周囲の里山や西の山麓では山桜の開花が始まります。この時ばかりはこれほどの桜の木々が山にあったのだろうかと思うものです。
布引山地西端・摺鉢山麓の山桜が白く霞む。3月末から4月の中頃まで山地はその高度に応じて山裾から山頂に向かって桜が開花する
中ノ川丘陵の里山のあちこちに桜が映える。種類や場所によって開花の時期が異なり彩りも千差万別だ。
山桜の花は染井吉野ほどには密集せず、開花と共に赤い新葉で木を彩る。一方、染井吉野の葉が伸びるのは満開が過ぎてからだ。
この辺りで最も早く開花するのは日当たりの良い山の南斜面に咲く山桜です。早い年は三月の二十日過ぎから開花し始め、つづいて染井吉野などが四月半ばまで山肌を白く染めます。
4月に入ると町や野の至る所で染井吉野の開花が始まり、桜の品種の多くが染井吉野に合わせるように庭先や野山で次々に花をつけて春本番です。
桜も染井吉野から新緑の葉と共に開花する白色のカスミザクラに代わり、カシの花が山を覆う5月末、ウワミズザクラが最後に花を開くと春もお終いです。
カスミザクラは4月中旬より開花する。花は白く花と同時に葉を茂らせる。場所によっては5月初旬まで咲いている。
5月の連休も過ぎ、初夏の太陽が輝き始める頃、里山の山頂部を白く染めるのがウワミズザクラ(上溝桜)この桜は花を見ても桜の仲間とは思えそうにない。
春の黄色
桜のように華やかでは有りませんけれども、田畑の畦や路肩に咲く花々も、足を止めてよく見てみるとそれぞれ趣があって可愛いものです。五月連休の前後ともなれば気温も20度近くに上がり、野草の株も一気に広がって大地を覆います。
上は西洋タンポポ、嘗ては耕作されていた田畑も農業人口の高齢化と共に放棄されるようになり一時野花の茂る花畑に変わる。
畑を覆うハハコグサの群落。下は乾田のオオジシバリ。周囲にはスギナが育っている。
ゴールデンウィークの乾田を覆うキジムシロの大群落。中には蓮華・カラスノエンドウ・スイバなども混じる。
先に春の花は黄と赤紫が目立つと書きましたが、4月に入ると水田を中心とした自然環境では、菊の仲間の黄色い花が多く見られるようになります。彼らに交じって蓮華や鷺苔も鮮やかに花開きます。多くの花が五月連休を過ぎても見られるので初夏の花とも言えるのですが、花期の細かな区分は大した意味がないので無視します。
5月連休の前後、田畑の野草は開花の最盛期となる。キジムシロやジシバリの黄と紫サギゴケの薄紫が映える畦道。草の間から細長いオオバコの花や白爪草、スイバの赤っぽい花も見られる。
湿気の多い畦には黄色いジジバリ、オニタビラコ、キジムシロ、ヘビイチゴ、コウゾリナ、ニガナや薄紫のサギゴケなど湿地を好む様々な花が開く。上写真右は麦畑と接する畔に咲くオオジシバリ
4月も後半に入り5月連休も近くなると、野花の数も種類も一気に増して路肩や農道・休耕田畑は緑で覆い尽くされ、様々な野草が争って花をつけて早春を彩ったホトケノザやイヌノフグリ等はこれらの野草に座を奪われて行きます。中でもジシバリ、キジムシロ、ハハコグサ、ヘビイチゴ、紫サギゴケなどが田畑の畦や休耕田の主役で、多くは五月の末初夏に入っても花をつけ、一時期ですが畦一面を花で覆ってくれます。
オオジシバリ。よく似たジシバリの葉は丸いがオオジシバリの葉は細長い楕円形をしている。下はサギゴケと咲くジシバリ。オオジシバリに比べてジシバリの葉は丸い
タビラコはジシバリの花を二回りも小さくした黄色い小花を田畑や野道に咲かせます。地に張り付いている様な花は小さいためあまり人目につきませんが、四月も半ばとなり株が成長すると乾田一面を小花で覆い尽くすこともあります。
タビラコ ( コオニタビラコ ) 草丈が低く早春の水田や農道の表面を這うように広がる。春の七草のホトケノザは本種だと云う。
こちらは地表にへばりつく様にして地面を覆う蛇苺。気温の低い春先は花も葉もなるべく風に当たらないよう丈を低くして寒さに耐える。
五月連休の頃には道端のあちこちで蛇苺の赤い漿果が見られる。食べられるようだが小さいのでまず口にすることはない。5月以降にはより実の大きい藪蛇苺が実をつける。下は蛇苺より実が一回り大きい藪蛇苺。名前の通り田畑よりは林の縁辺に育つ。下は明小の西、牛谷の入り口の藪に生える藪蛇苺
数え上げてゆくと、春に咲く黄色い花はまだまだたくさんあるのですが、ここでは四月初旬から開花する、もっぱら草丈の低い花を取り上げています。
庭先や道端の比較的乾燥した場所を好むカタバミ。放置しておくと地を這うようにしてどんどん増えてゆく
コゴメツメクサの茂る五月の路肩で。シロツメクサの仲間だが黄色い小花が無数に群れる。
マンネングサの花を路肩に見かけるようになるともうじき初夏だ。乾燥に強く道路や石垣に張り付いて花をつける。
玉橋から林町へ抜ける津関線沿いにも、毎年4月末から5月にかけてマンネングサの黄色い花が咲きます。他の雑草が敬遠する舗装の隙間や路肩の僅かな隙間に根を下ろして綺麗な花を咲かせる生命力には感動するものです。コゴメツメクサやマンネングサ、ミヤコグサが花をつけるようになるともう春も終わり初夏といえます。
ミヤコグサの群落。ある程度乾燥した場所を好む様子で田の畔で見かけることはなく地を這うように広がって地面を覆う。鮮やかな黄色で花咲くミヤコグサは、アザミやチガヤと群生しており春よりも初夏の花と言うべきか。
春の紫
私は春の野花といえば真っ先にレンゲが思い浮かびます。私の子供の頃は田植え時期が六月前後と遅かったこともあって、春の乾田にはアブラナや窒素固定のためレンゲを植える農家が多く有りました。
このため、五月ともなれば田畑は黄色と桃色のモザイクでで美しく覆わたものですが、今では余り見ることの出来ない光景になってしまいました。
そんな中で毎年畑にレンゲを咲かせてくださる農家がある。
今年も五月連休に長女と散歩に行って写真を撮ったが子供の頃にレンゲ畑で転げ回って遊んだことが懐かしく思い出された。
早春の田畑で紫の花といえばムラサキサギゴケでしょう。水田があればまず何処の畦にも見られる花ですが、湿気の多い農道や路肩によく見かける、なかなか個性的な形の美しい花で時には休耕田で大きな群落を作ります。
乾田に広がったムラサキサギゴケの群落。草丈が低く地を這うようにして広がる。4月から5月の田園を代表する花の一つ
キランソウはムラサキサギゴケに比べると小さくあまり目立ちませが、花の少ない3月の始めころからオオイヌノフグリなどと一緒に地表に張り付いて可愛い花が見られます。
草丈が低く花も地に張り付いたロゼッタ状で開花する。葉には強い薬効があるようで薬用植物としても知られている。
早春を彩る紫~赤い花色の花は先に上げた仏の座や踊子草が一番に上げられますが、カラスノエンドウやキュウリグサも四月初旬から目立たない花を咲かせます。四月も半ともなると、野道はカラスノエンドウ、スズメノエンドウ、カキドオシ、ヤエムグラなどが一斉に繁茂し始め五月連休の頃には、これらの花に変わってマツバウンランやカキドオシ、タツナミソウ、ヒメハギなどが姿を見せるようになります。
花期が終わると地表を匍匐してどんどん広がるカキドオシ。この草に限らず、ヤエムグラやカラスノエンドウ、スズメノエンドウなど繁殖力の旺盛な野草は多い
四月に入り気温が上がるとどんどん葉を茂らせ肥沃な土地では一時地表を覆い尽すカラスノエンドウ。花は葉に隠れてあまり目立たない。下は色素の抜けたアルビノ
上はカラスノエンドウを二回りも小さくした花をつけるスズメノエンドウ。実のエンドウもカラスノエンドウに比べると一回りも二回りも小さいがヤエムグラ等と共に四月中旬にはたちまち地表に広がる。
四月に入ると道端や乾田にキュウリグサが小さな花をつける。直径数ミリの花はよく見ないと見落としてしまう。
キランソウ
カラスノエンドウ
カキドオシ
ムラサキサギゴケ
キュウリグサ
ヒメハギ
ヒメオドリコソウ
マツバウンラン
タツナミソウ
四月も二十日を過ぎた辺りから、新玉橋の先にある津関線沿いの切通の斜面などでヒメハギの小さな花が目につくようになります。株が小さいせいか、他の雑草の成長が悪い、日は当たるが栄養分の乏しい赤土の法面で目にする機会が多い様ですが、気温が上がり周りの草が成長しだすとたちまち雑草に埋もれてしまいます。
ヒメハギの花は面白い形で、両手を開いたように見えるガクの真ん中に筒状の花弁がありその一部は珊瑚状に枝分かれした不思議な形をしている。雄蕊・雌蕊はその奥に隠れていて見えない。
この辺りに咲く春の野花の中では、深い紫色のスミレ ( 種名 ) は最も美しい色合いを持つ花ではないかと思います。日当たりの良い暖かな場所では、稲の植え付けの準備が始まる4月初めから咲き始めます。遅い花は雑草の草丈が一斉に伸び始める5月始めまで見られます。
スミレの小さい花はあまり目立たないが、どれもよく見ると美しい。休耕地にできた大群落に行き会ったりすると嬉しくなる。
環境によって花色が大きく変わり、濃い紫から薄い紫まで様々で、鮮やかな真紫色のスミレに出会うと嬉しくなる
この辺りでスミレの生える場所は限られているため、毎年路肩の雑草の中から僅かに丈をもたげた深い紫の花を見つける度に今年も巡り会えたとの思いに打たれる。
スミレ属の仲間は桜の開花前に咲き始める野地菫が最も早く、続いて菫、姫菫、小菫、有明菫、立壺菫等が次々に開花します。場所や時期をずらせて次々に開花するスミレ属は、どの花もそれぞれに趣があり春の散歩の楽しみの一つとなっています。
スミレを一回りも二回りも小さくしたようなヒメスミレ。日溜まりの道端などに多くみられ、スミレとともに4月初めから花をつける。
三月の末にはノジスミレが菫の花を薄めた様な薄紫の花をいち早く開花させます。早咲きのためか舗装路面の路肩のように日当たりの良い場所を好みますが、日当たりの良い家の庭先にも結構花を咲かせます。
三月下旬から日当たりのよい道端に咲き始めるノジスミレ。種で増えるが宿根草なので株を放置しておくと同じ場所で毎年花をつける。家の庭でも株が成長して毎年5月にはツマグロヒョウモンが産卵に来る。
スミレ属には菫とほぼ同時期に開花するタチツボスミレがあります。菫の花と葉を丸くして花色を淡い薄紫にした艶やかな花で、他の草に先駆けて、まだ雑草が大きく育たない4月初め頃には開花した群落がみられます。
サクラの開花時期に合わせる様に花を開くタチツボスミレの小群落。この辺りでは新玉橋から林町へ通じる津関線沿いや普門寺裏手に群落がみられる。
タチツボスミレの花は菫より丸みを帯びて柔らかな美しさがある。葉も菫のような長葉ではなしに丸みを帯び、野に咲くスミレ属の女王を思わせる
スミレ属にはこれ以外にも道端を好む白地にムラサキの筋が美しいアリアケ菫や、湿った地を好むより小さいツボスミレなどがあります。十数年前には牛谷の里山の林縁に白いエイザンスミレの自生地がありましたが、周囲の耕作地が放棄されるとともに雑草に埋もれて絶えてしまいました。
4月の道端に多いアリアケスミレ。牛谷の坂道にも沢山花をつける
アリアケスミレより一回り小ぶりな花のツボスミレ。田圃等の湿った地を好む様で小さい花だが草丈は結構大きい。
菫の種類も多いので私には良く分からない種もあります。これは他の植物や昆虫でも言えることですが、同じ種でも環境や時期によって花色や葉の形に微妙な差が出たりするので種の同定には難しいものがあります。
4月の訪れと共に里山や山野の林辺にはたおやかなアケビの花が開花します。味わい深い白と紫のアケビと共に、赤紫の花をつける三葉アケビと五葉アケビも独特の花を開きます。
アケビの花には白っぽい雄花と薄紫で一回り大きい雌花があります。雄花の数は雌花に比べて多く、時にはほとんど雄花ばかりの枝も見かけます。
上写真薄紫で大きい花が雌花。下写真花弁が白い小ぶりの花が雄花で、下の写真の株は雄花ばかりで雌花は見つからない
上は三葉アケビ、下は五葉アケビ。葉柄につく複葉の数に3葉か5葉の違いがあり、五葉アケビはアケビとミツバアケビの雑種と云う。
自宅裏手にはアケビ、五葉アケビ、三葉アケビの三種類が混在する群落がある。どの花の紫もそれぞれに味わい深い。
アケビが花咲き始めると、気温の上昇と共にそれまでは冷たい北風から身を守る様に地表に張り付いていた野草も徐々に草丈を伸ばし、山野には蕨や薇がみるみる成長して山菜摘みの楽しみをあたえてくれます。
蕨や薇は林縁や山道の道端に育つが、人手によって除草管理された場所も多いので注意が必要
四月も後半に入り気温が20度を上回る日々が続くと、荒れ地の雑草は一気に葉を茂らせて地面を緑で覆います。ヨモギ、ムカシヨモギ、スイバ、スギナ、ハルジオン、カラスノエンドウ、スズメノエンドウ、カキドオシ、ヤエムグラ、セイタカアワダチソウ、その他イネ科の雑草などが一斉に繁茂してたちまち足も踏み込めないようになります。
この時期には春の雑草と初夏以降に背丈を伸ばすクサマオ、アレチノギクやセイタカアワダチソウ等が同じような草丈で繁茂しているが5月以降は暑さに強い初夏~夏の草に置き換わる。下は新芽を伸ばし始めたヨモギ。
四月半ばから五月連休が終わる頃になるとヨモギ・ムカシヨモギ・アレチノギク・スイバ・クサマオ・オヒシベ・メヒシベなど丈の高い雑草が成長しだし、これらの草に交じってキジムシロ・ハルノノゲシ・コウゾリナ・ニガナ・ハルジオン・キツネノボタン・スイバなど花茎の長い花が最後に春の野道や乾田を覆うようになります。
5月連休の畔に咲く黄色い花の代表種キジムシロ。気温と共に花茎を伸ばしてジシバリや蛇苺、紫サギゴケに比べると草丈がどんどん高くなる。
上はキジムシロと紫サギゴケの混群、下写真には可愛いキュウリグサが混じっている。
上は細い花茎を伸ばして小さい花をつけるニガナ。下のコウゾリナやオニタビラコ、ハルノノゲシなども背丈の高い花をつける
オニタビラコ。先のタビラコに比べると花の草丈が遥かに高い。
競い合うように花茎を伸ばして花をつけるオニタビラコ。その名にそぐわず可愛い散状花を多数つける。
ハルノノゲシは気温と共にどんどん草丈を伸ばし1m以上にもなる。他種との競争にも強く夏場にも花が見つかる。
5月連休の前後は春の野草の最盛期。マツバウンランが道端にひょろひょろした花茎を伸ばして一斉に花を開き始めるとそろそろ初夏が訪れます。
四月半ばから一斉に花茎を伸ばして薄紫の花を咲かせるマツバウンラン。近年に日本に入った帰化植物で私の記憶では40年ほど前までは自宅周辺で見かけたこともなかった。
四月も後半に入るとマツバウンランと共に乾田や農道の周囲の雑草もどんどん成長するので、葉陰から花茎をのばすキツネノアザミやスイバ、ハルジオンといった花が見られるようになります。
連休前後、放置された田畑にはキツネノアザミやコウゾリナ、スイバ等が目立つ。これらの花も6月には高温に強い夏の野草に置き換わって行く。
五月も半ばになるとマツバウンランなど五月連休を彩った花も盛りを過ぎて徐々に他の野草にその場所を譲ります。これは春花をつける植物に多く見られる現象で、初夏以降日差しが強まるとともに春の野草が占めていた場所は、高温に強く繁殖力も大きい夏の野草にとってかわられます。
この時期道端でよく見かけるハルジオン。花弁が針の様に細いのが特徴でよく似たヒメジョオンでは花弁がもう少し太い。中にはあいのこの様に中途半端な株もある。
早い時期の花は花色が桃色がかっているが普通は白い花を見かけることの方が多いハルジオン。ハルジオンが長い花茎を伸ばして一斉に咲き始めると春ももう終わり
五月に入ると津関線などの路肩には、近年急速に広まり始めたツボミオオバコの花が一斉に咲き始めます。北アメリカからの帰化植物とのことで目立ち始めたのはここ10年位かと思います。
オオバコは真夏の草だがツボミオオバコは春に花をつけ、その姿形もオオバコよりは柔らかでいかにも春の花らしい。
道路沿いには、ツボミオオバコの様に車によって運ばれて分布を広げる帰化植物が多く咲きます。次にあげるイヌコモチナデシコやマンテマもそんな帰化植物の仲間で津関線沿いの路肩などで普通に見つかります。
道路沿いに多いイヌコモチナデシコ。小さい花であまり目立たないが津関線沿いには普通にみられる
帰化植物は明治になって開国すると牧草や園芸種として入ったり海外からの荷に交じって種子が持ち込まれたり、様々なルートで日本に帰化するのですが、シロツメグサ (クローバー) もそんな帰化植物の一つで、出島オランダ貿易の時代にヨーロッパから陶器の詰め物に使われて入り込んだそうです。牧草にも用いられ、戦後私の父が伊賀上野にあった県畜産課の飼畜場勤務の頃、場内の牧草として大量に植えられていた記憶があります。
5月の野を覆う白爪草 ( クローバー ) この時期空き地や農道に群落をつくるクローバーも気温の上昇と共に夏草にとってかわられる。下の写真ではクローバーにまじってシロバナマンテマが開花している。
道路沿いの比較的乾燥した場所に多いシロバナマンテマ。名前からも想像できるがクローバーとともに江戸末期ヨーロッパよりの帰化植物とのこと。マツバウンラン同様子供の頃は目にしなかった花で、戦後道路交通の発展と共に各地に広まったようだ。
津関線など舗装道路の周辺に多いシロバナマンテマ。名前からして帰化植物と分かる
春の野草の最後は五月に入って美しい花を咲かせるタツナミソウです。農道の周辺で見かけますが、人間の手で草刈りを行うことで生育環境が維持されているような植物で適時草刈りがなされないと絶えてしまう感じです。ウツボグサやサクラタデなどもそう云った植物の様で、人間が地上の支配者になる以前は、鹿、兎、野生馬など草食獣によって維持されていた草原に生息環境を求めていたのではないかと思います。
タツナミソウが路肩に花をつけ始めると五月連休も終わりすぐ初夏が訪れる。
春の野花の終わりを告げる様に、草丈を伸ばし始めた野草の中からタツナミソウが花茎を伸ばして美しい紫の花を咲かせ始める頃には、山野の草木の装いも徐々に初夏へと移って行きます。
大地に霜の華が咲き、空から雪の華が舞う季節は植物たちにとって辛いものでしょうが、この寒さを耐えてこそ春に新たな目を結び花を咲かせることも叶うのでしょう。
一日ごとに日差しが強まり気温の上がる春は、自然に生きる植物のみならず動物も含めたほとんどの生物にとって、新たな命を芽吹き育み育てることのできる世界の到来であり何事にも代えがたい喜びであろうかと思います。
春から初夏へと移り変わる五月連休は、植物たちにとっても一つの区切りとなりそうなので、二月末から藤が開花する四月末から五月までを春の季節としたいと考え、五月中旬頃から六月一杯を初夏の区切りとしたいと思います。
勿論、春と初夏とでは季節花咲く期間が重複する野草も多くありますが、これも自然のことですから細かく考えずに、目に写った周囲の自然 ( 植物 ) の装いを描いて見たいと考えています。