ネバーネバーツリーに暮らす兄妹、チルチルとミチル。
ここへ来たばかりの頃は、両親と離れ離れになった寂しさから、毎晩泣いているミチルをチルチルが慰めていた。
ある時、子どもたちの間で、青い鳥を飼うと、その家には幸福をもたらされる、という噂が流行りだした。
その鳥がいれば、ミチルが悲しみに暮れることはなくなると考えたチルチルは、青い鳥を探すことにした。
ある日「ミチル!青い鳥を捕まえたぞ!」と、チルチルの興奮気味の声に起こされたミチルは、
布に覆われた鳥かごの中に、小鳥の影があるのを見た。
「この中に、青い鳥さんがいるの…?」チルチルに訪ねると、彼は力強く頷いた。
しかし、青い鳥は人の目に触れると真っ黒に変わってしまうから、姿を見ることは適わないらしい。
「ミチル、これでおれたちは幸せになれる。ミチルがもう泣くこともないんだ」兄の確信に満ちた表情と言葉は、
ミチルの気持ちを安心させ、兄妹はやっと笑顔を取り戻し、皆が羨む幸せな生活を送ることができた。
青い鳥が、姿を消すまでは。
幸福をもたらす青い鳥逃げてしまった。
それをきっかけに、チルチルは全ての不幸は、青い鳥が逃げてしまったからだと思い込み、
心配する妹のことも見えていないかのように、青い鳥を探す日々を送っていた。
いつものように青い鳥を探していたチルチルだったが、ドロシーが現れ、彼女が共に青い鳥を探してくれることになった。
いつも孤独だったチルチルの隣に、明るいドロシーが来てから、チルチルは徐々に、青い鳥を探すという名目で、
ドロシーと一緒に二人きりの時間を過ごすことを楽しみ始めていた。
ミチルが、「お兄ちゃん、最近楽しそうね」と声をかけてきた。
妹の声をとても久しぶりに聞いた気がした。
ある日、ドロシーが一緒に青い鳥を探すことができなくなった。
ヘンゼルが行方不明になったからだ。
ドロシーは、仲間たちと共に、ヘンゼルを捜し始めた。
チルチルは、また1人で青い鳥を探すことになった。
前から、何かとヘンゼルとは喧嘩になっていた。
ヘンゼル本人は、何も気にしていないようだったが、彼は、チルチルにとって気に障ることをよく言ってきた。
いつもヘンゼルのせいで機嫌を損ねていたが、ようやく楽しみを見つけたのに、またヘンゼルのせいでその楽しみを害された。
柔らかくなり始めていた彼の表情が、再び元に戻り、ミチルの声も、また聞こえなくなっていった。
ヘンゼルが、戻ってきた。
だが、彼の姿は、チルチルのよく知る子どもの姿ではなくなっていた。
ヘンゼルはお菓子の家で魔女と過ごし、魔女の力で大人になったのだと、子どもたちの間で噂になっていた。
しかし、そんなことよりも、またドロシーと共に青い鳥探しができるのか、そのことの方がチルチルにとっては心配だった。
憂鬱な朝を迎え、チルチルが起き上がったとき、同時にミチルの部屋の扉が開いた。
だが、部屋から出てきたのは、見覚えのない女性だった。
全く見覚えがないはずなのに、チルチルは、彼女はミチルだと真っ先に察した。
その瞬間、チルチルは混乱と恐怖に支配され、絶叫した。
断片的に覚えているのは、部屋中を舞う青い羽と、振り上げられた銀色の剣。
家の外で、ドロシーの泣いている姿が見えた。
すぐ傍で、ヘンゼルが蔑んだ。
「たった一人の家族さえ不幸にするなんて、やっぱり、君と僕は同じだね」
その日から、ずっと布団にくるまって、外界を見ていない。
食事もしていない。
だが、その日から毎日、ヘンゼルが食事を持ってきてくれていた。
どういうつもりかは分からない。
ヘンゼルの声がする度に、「たった一人の家族さえ不幸にする」という言葉を思い出す。
兄妹が不幸なのは、青い鳥がいないから。
青い鳥がいないからだと、思っていた―