研究③

ヒ素の毒

2億人がヒ素の毒に曝されている。

「安全な水」の確保が、ヒ素汚染によって妨げられている。

日本では当たり前のように安全で安心な水が手に入ります。しかし、地球全体に目を向けると、むしろ「安全な水」を簡単に入手できる地理的領域は非常に限られています。

安全な水の確保を阻む理由の一つが「ヒ素による水質汚染」です。例えばバングラデシュやインドなどのアジア地域、チリ・アルゼンチンなどの南米地域、そしてアフリカ諸国など、その汚染地域は世界中に存在しています。特に飲用井戸水の汚染は深刻で、地域によっては「その井戸水の半径20km以内には飲用に適する水が存在しない」状況が、その地域に住む人々にヒ素汚染水をやむを得ず飲用することを強制している場合もあります。

多くの場合、「飲んですぐ症状が現れるほどの高濃度ヒ素では汚染されていない」ことが問題を深刻にしています。他に飲める水がなく、飲んでもすぐに具合が悪くならなければ、人々はその水を飲み続けます。その結果「慢性曝露」状態となり、様々な疾病を発症することになります。それらの症状を総じて「慢性ヒ素中毒症」と呼んでいます。

飲用水による慢性的なヒ素曝露は皮膚がん、肺がん、膀胱がん、を含む様々ながんや、出生率の低下、糖尿病や神経疾患を誘発し、人々の健康だけでなく、生命をも脅かしているのです。

慢性ヒ素中毒症を少しでも予防し、少しでも治療するために。

我々の研究室では、この世界規模の環境健康問題について、「予防」と「治療」の両方からアプローチしています。ヒ素誘導性発がん、特に扁平上皮がんや基底細胞がんなどの皮膚がんをターゲットとし、これまでのがん研究のノウハウを利用して、「癌にならないようにする」「癌になっても速やかに治療できる」ことを目標に、「低分子ペプチド」や「低分子化合物」を利用した予防薬・治療薬の開発を行っています。