2023年11月のとある日…
世界遺産の“沼”にハマってしまった5人の生徒たちが、図書館で熱く語り合った!なぜ彼女たちは世界遺産が好きなのか?
前編に引き続き、後編では「推し世界遺産」と、世界遺産の“本質”について迫ります!
※記事内に登場する世界遺産名から、UNESCOの世界遺産紹介ページへ飛ぶことができます。
座談会参加者のプロフィールは前編へ
💡世界遺産検定とは?
新美先生:それではいよいよ、本日のハイライトに行きましょう! みなさんの“推し世界遺産”を教えてください。
北宮先生:どんなマニアックな話になるか、楽しみですね~!
Sさん:私は、今は国立西洋美術館と富岡製糸場が推しです。
Kさん:あれ、前は違わなかったっけ?
Sさん:推し変したの! 中2の途中くらいまではイギリスの『英国の湖水地方』っていう『ピーターラビット』の舞台になった世界遺産が好きで、それから先はイタリアの『アルベロベッロのトゥルッリ』を推していたんだけど。
新美先生:アルベラ…ベロ…トゥロ…え?? 発音できないんですけど(笑)
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Tさん:カワイイ~!この屋根は石?レンガっぽさもあるね。
Sさん:石を積み上げた屋根で、分解できるの。
Tさん:え?屋根取れるの!?
Sさん:そう。屋根があると「家」だと判断されて、徴税の対象になるっていうシステムだったらしいよ。
北宮先生:だから、税金の取り立て人が来るってわかったら、みんなブワーって屋根を壊して、「屋根がないので家ではありません!」て言って乗り切っていたんだって(笑)。帰るとまた一つ一つ石を積み上げて屋根をつくり直すっていうね…
Tさん:その間に雨降ったらどうするんだろ(笑)。でも、地中海性気候だから大丈夫なのか。
一同:あ~
新美先生:それで、現在推している国立西洋美術館っていうのは、たしか設計した人が有名な建築家でしたよね?
Sさん:そうです。ル・コルビュジエっていうフランス人が設計したんですけど、「国立西洋美術館」単体ではなく、複数の大陸に分散しているコルビュジエの建築物を一つの世界遺産として登録しているところが珍しいんです。
各地に点在する建築物を一緒に守って行こうっていう考え方が、世界遺産の理念そのままで素敵だな~って感じます!
※正式名称は、『ル・コルビュジエの建築作品:近代建築運動への顕著な貢献』
新美先生:なるほど。でもコルビュジエは、まさか自分の作品がいずれそうなるとは思わなかったでしょうね。
💡豆知識① “複数の大陸にまたがって存在する世界遺産”
Rさん:私が好きな世界遺産は、『ワディ・ラム保護地域』です!
新美先生:え~、どこの国だろう?名前から察っすることが難しい…
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Tさん:…ヨルダンですって。
Rさん:見た目は単なる砂漠のようですが、ここには大きい岩がたくさんあるんです。それで、2021年の東京オリンピックに「クライミング」が種目として入りましたよね?その影響で、ワディ・ラムの崖を素手で登ろうと、クライミング客が増えてしまったんだそうです。
北宮先生:崖のような岩が林立しているから、クライミングにちょうど良いんでしょうね…
Rさん:でも私が気に入っているところは、「複合遺産」だということなんです。実は岩に壁画のようなものが大量に残っていて、人々がこの自然の中で文化を持って生きていたことがわかっていて。ロマンチックですよね!
Tさん:ただの砂漠じゃないんだね!
新美先生:「複合遺産」っていうのは何ですか?
Rさん:自然遺産と文化遺産の両方の価値を持っている世界遺産です。
北宮先生:日本には、今のところまだ複合遺産はないんですよ。
Oさん:私は、シンガポールの「ボタニックガーデンズ」が一番好きです。小さい頃シンガポールに住んでいたんですが、友達と遠足で行ったときの印象がとても強く残っていて。
※日本語での正式名称は、『シンガポール植物園』。
北宮先生:想い出の世界遺産だなんて、ステキ!
Oさん:そのあと家族とも行ったので、家族との想い出の場所でもあります。
北宮先生:良いですね!でもよくよく考えると、現役の植物園が世界遺産ってすごくないですか?
Oさん:そうですよね。植物園が世界遺産であるというのも珍しいし、何よりシンガポールで唯一の世界遺産なんです。
新美先生:ちょっと行ってみたいな~!
💡豆知識② “現役で活躍する世界遺産”
新美先生:じゃあ次はKさん。豪華絢爛中の絢爛な世界遺産をどうぞ!
※Kさんの世界遺産の専門ジャンルは「豪華な城と宮殿」。詳しくは前編へ!
Kさん:…と思うじゃないですか。
新美先生:うんうん! え、まさか違うの!?
Kさん:実は…庭なんです。『シェーンブルン宮殿と庭園』っていう世界遺産の庭園が好きなんです。庭園の部分ね。
Tさん:え、でも宮殿の庭だから豪華なんじゃない?
Kさん:それがね、なんと日本庭園があるんですよ!
一同:えー!
新美先生:待って待って、まずどこの国にあるんですか?
Kさん:オーストリアですね。あの有名なマリア・テレジアが改築してつくった宮殿です。
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Kさん:ここ!この写真の下にね、小さく「日本庭園もある」って書かれているんですよ。
北宮先生:すごい!こんなところまで注目して勉強しているのか!
Tさん:あ、パソコンで調べたらホントにある!なんか東屋みたいなのがあるよ。
新美先生:(パソコンの画面を見て)ホントだ。ここだけ見て「京都です」なんて言われたら信じちゃうね。苔むした感じとか。
Kさん:というわけで、宮殿あってこその庭なのでキラキラの豪華絢爛さも大事なんですけど、このギャップがたまらないんです(笑)
Tさん:いや~、みんなすごいなぁ。私は、ノルウェーのブリッゲンが好きなんです。まるでアニメに出てきそうな建物が並んだ町なんですよ!
※正式名称は、『ベルゲンのブリッゲン地区』
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新美先生:あれっ!?私ここ行ったことあるわ。写真見るまで思い出さなかったな(笑)
一同:(笑)
北宮先生:建物一つ一つがカワイイですよね! たしか、『アナと雪の女王』のアレンデールの街並みは、ここをモデルにしているって聞きましたよ。
Tさん:そうなんですか!?さすが世界遺産…! それで、この町は港湾都市として発達したので、この建物はもともと倉庫だったんです。今は別の用途で使われているようですが、やっぱり「人の営み」が感じられるところが良いな~と。
※Tさんの世界遺産の好きなジャンルは「人の生活が感じられるもの」。詳しくは前編へ!
Tさん:しかも、全部木造でこんなに密集して建っているから、ちょっと火事があるとみんな燃えちゃうので、何回か復元されているんですって。何度燃やされてもその度に復元されてまた人々が暮らすっていう、へこたれない精神もすごいし、なんだか愛おしい~💖って思うんです!
北宮先生:愛おしさを感じるなんて、オブザーバー参加のTさんもすでに世界遺産の沼にハマっていますね!(笑)
新美先生:北宮先生はどの世界遺産が推しなんですか?
北宮先生:私は、ノルウェーの『リューカン・ノトッデンの産業遺産』がお気に入りです。ここは、1900年代初めに空気中の窒素を取り出して合成肥料を作っていた世界遺産です。
何がアツいかというと、地理科目では、ノルウェーというとまず「水力発電がさかんな国」として学ぶんですよね。水力発電は安価だから、電気が大量に必要な工業に利用されるんです。それがこの窒素固定という工業なんですね。で、この合成肥料を生産していた会社は、今では世界的に有名なアルミニウム製造企業として活躍しているんですよ~!
新美先生:あ~アルミニウムをつくるのも電気を使いますよね。
北宮先生:しかもね、その合成肥料をつくる過程で「重水」っていう水が出るんだけど……(話が止まらない)
新美先生:推し世界遺産とは別に、一生に一度は行ってみたい世界遺産はあるんですか?
Sさん:『フィリピンのコルディリェーラの棚田群』です! 棚田の世界遺産が世界に3件しかなくてとても珍しいことと、「文化的景観」という価値が認められているので。
Kさん:一時期、Sさんからそのワードめちゃめちゃ聞いたな~(笑)
北宮先生:私たちも稲作民族なので、棚田を見ると魂が揺さぶられますよね(笑)。とても有名なので、地図帳にも載っているんですよ!
Kさん:私は、アルゼンチンの『ロス・グラシアレス国立公園』ですね。名前がカッコよくないですか?
Tさん:氷河って年月が経つと、どんどん白だけじゃなくて青い光を反射するっていいますよね。
北宮先生:そうそう、空気が抜けていくので真っ青に見えるんです。
Tさん:私はイタリアのヴェネツィアに行ってみたいな~
北宮先生:昔行ったけど、良かったですよ! 仮面舞踏会が有名だからか、いろんな仮面のお土産があって。
実は少し前にサウジアラビアで行われた第45回世界遺産委員会で、『ヴェネツィアとその潟』は危機遺産に指定されるのではないかと言われていたんです。あまりにオーバーツーリズムが酷すぎるということで。
Sさん:でも、結局は危機遺産入りを回避して、経過観察になりました。
新美先生:それは、「めでたしめでたし」ってことなんですか?
Sさん:良いことではあるのでしょうけれど、個人的には議論が棚上げされてしまっただけな感じもしますね…。
Rさん:私はやっぱり、『イエローストーン国立公園』のあの色を実際に間近で見てみたいです!
北宮先生:写真で見るあの色が、本当にそう見えるのか気になるよね~。
Oさん:私は『プラハの歴史地区』です。本当は行く予定があったんですけれど、コロナで行けなかったからリベンジしたいなと!
北宮先生:ぜひともリベンジしよう! そうそう、「行ってみたい世界遺産」ではなく「みんなに行ってほしい」世界遺産なんですが、エストニアの『タリンの歴史地区』。もうね、行ったらビックリ! 城門と城壁があって、石畳で馬車が走っていて、第一印象は「ゼルダの伝説(RPGゲーム)」みたいだって思ったのよ!(笑)道一本はさむと近代的な都市なのに。
新美先生:最後に素朴な質問が浮かんじゃった。世界遺産って、どうやって守っているんですか?
Sさん:「世界遺産条約」を結んでいる国で国際的に援助し合っているんです。専門家を養成したり派遣したり、「世界遺産基金」というものがあって資金面の援助をしたり。
新美先生:そういうシステムがあったんですね! でも、そもそも世界遺産って誰が運営しているんですか?
Sさん:はじめは、1960年代にエジプトのアブ・シンベル神殿がダムで水没してしまうのを、ユネスコが世界の国々に協力を求めて、何十メートルか上まで移設したというプロジェクトがきっかけでした。この成功から「人類共通の宝物」という概念が生まれて、「世界遺産条約」ができたんです。
※アブ・シンベル神殿の世界遺産としての正式名称は、『ヌビアの遺跡群:アブ・シンベルからフィラエまで』
新美先生:なるほど~。ベースはユネスコなんですね。あの有名なエジプトのアスワン・ハイ・ダムがきっかけだったとは!
いや、ホントにみなさんの世界遺産好きがいっぱい伝わってきましたね。ぜひ最後に、推しへの愛を一言ずつ!
Oさん:世界遺産の一番の感動ポイントは、みんなで頑張って守ろうとしたり、壊れたものは直そうとしたり、国境も人種も宗教も全部越えて、みんなが協力して世界遺産を未来に繋げようとしているところだと思います。
Tさん:世界遺産はその国の象徴の一つでもあると思うから、それを知ることで自分の心が豊かになるなあと思いました。世界遺産に限らず、自分の興味関心を幅広く持つことって良いな、大事だな、と思わせてくれることの一つが、世界遺産というか。
北宮先生:二人とも、深いな~!
Rさん:例えば友達とケンカしてしまったときって、相手の気持ちを理解できていない部分があるからケンカになるのかなと思っているんです。それを世界遺産に置き換えてみると、相手の国の人々が大切にしているものを学ぶことや、戦争で壊さないようにするっていうことは、世の中から争いを少しでも減らすことに繋がるのではないかと。
Kさん:ユネスコ憲章前文の「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中にこそ平和のとりでを築かなければならない」というのが好きなんです。「心の中に平和のとりでを築く」、その「とりで」が世界遺産であると思うと面白いですよね!
Sさん:国や人種や宗教が違っても、みんながその世界遺産に触れると感動する、共通点のようなものがあるところが良いなと思います。すべてを理解できなくても、このポイントでは仲良くなれる!という感じがして、本当に「平和のとりで」ですよね。
あと、世界遺産を入口にして色々な世界を知ることができたのが良い経験になりました。世界遺産に興味がなかったら、おそらく興味が湧かなかったことも多いと思うし、自分の視野が広がったと思います。
北宮先生:世界遺産に限ったことではないけど、世界遺産を知っていればどこの国の人とも仲良くなれると思うんですよね。例えば遠くの国に住む外国人から「白川郷って渋くてカッコイイよね~」って言われたら、「え、知ってるの!?」って嬉しくなるじゃない? 世界遺産を学ぶっていうことは、少なからずその国の文化や辿ってきた歴史の端々を理解しなければならないわけで。みんなの言葉を借りて言うと、世界遺産を学ぶというのは、間違いなく平和への一歩であると言えますよね!
新美先生:なるほど~! 今日は面白いお話をたくさん聞きましたね。本当に、ありがとうございました!
(終)