*転載禁止
塚田 桜妃さん
❖ 実用英語技能検定 特別賞受賞
(10年以内に英検5級~1級を取得)
❖ Stanford e-Japan Spring 2022 修了
スタートラインを踏みしめて
英検との出会い
この度、日本英語検定協会から英検特別賞を頂きました。英検の5級から1級まで全てを10年以内に取得した人に与えられる賞です。
私が英語の学習を始めたのは小学校5年生の秋、ほかの人より少し早かったけれど、昨今謳われる早期教育と言えるほど早いわけでもない、そんな時期でした。その頃アルファベットも書けなかった私が、日常のあれこれを英語で表現したくなるまで、あまり時間はかかりませんでした。
英検を受験し始めたのは小学校6年生の時です。最初はとんとん拍子で進み、小学校卒業前には準2級に合格しましたが、英語学習における初めての挫折はその次の英検2級のときにおとずれました。受験から2週間で来た不合格通知に、気分はズンと落ち込みました。それでも英語の勉強をやめたいとは思いませんでした。その頃には、英語が同学年の人よりできることが私のアイデンティティになっていたからです。その次の回で2級、そして中学2年生のときに準1級を習得しました。それらはとても誇らしいことでした。しかし同時に、大切なことをひとつ置き去りにしたままにもしていました。
なぜ英語を学ぶのか ――コロナ禍で迷う
それを最初に思い知らされたのはパンデミックの真っ盛り。楽しみにしていた短期留学の予定はお流れになり、私は自分が英語の勉強をする目的がわからなくなりました。学校の英語の授業はオンラインになった上、いわゆる英検1級の壁というものに私はぶつかっていました。するとそれまでは学校のテストや英検のためにガムシャラにやっていけばよかったものが、まるで空虚なもののように思えてきました。これまでの私にとっては海外に住んだ経験がなかったからこそ、高い英検の取得級が英語を学ぶ上での終着地点だったのです。しかし本当は逆でした。英検をとるために英語を学ぶのではなく、英語を学んできたから英検に合格するのです。私は自分のアイデンティティを失いたくないがために、英語はあくまで言語であり、コミュニケーションの道具に過ぎないという事実から目をそらしていました。人より少し道具を上手に扱えるからといって、それは自分の根幹を為すものには成りえません。そこに気が付いて私は、これまでの自分がおこがましく思え、とても恥ずかしくなってしまいました。
新たな挑戦と成長
紆余曲折の末、そんな迷走は私に新しい挑戦をもたらしました。Stanford e-Japan プログラムです。スタンフォード大学が日本の高校生対象にオンラインで実施している、このオールイングリッシュの日米相互理解プログラムは、毎年春季・秋季開催で、応募しメンバーに選ばれるだけでも高い壁でした。それでも挑戦しようと思ったのは、今まで積み上げてきた英語力への自信と、それをより高めつつ、コミュニケーションの道具としての英語をフルに活用してみたいという願望のおかげでした。一度目はあえなく不合格、二度目は学校の先生方の助けもあって、その中に名を連ねることができました。
しかしいざ受講を開始してみれば、そこは魔境でした。まず英語力が違うのです。英語は道具だと上述しましたが、コミュニケーションに有利な道具があれば、それだけでオンラインで繰り広げられるディスカッションにおいて強力なのです。しかし Stanford e-Japan のメンバーたちは単純に英語ができるだけではありませんでした。興味の幅、知識の量、そして学習への姿勢。あらゆることに目を向け、疑問を持ち、それを母国語以外で言語化する。英語を学ぶだけでは持ち得ないプロセスです。私は英語「で」学ぶ必要性を身につまされました。英語で会話できる人間は世界中にいるのです。世界が求めているのは、英語を用いて何か為せる人なのです。これこそが英語を道具にするということの、完成形なのだと思いました。
それに気づいた後は、彼らとの差に絶望している暇はなくなりました。与えられた課題の英文を理解し、それに関する自分の意見を英語で組み立てる。どんなに滑稽で突飛な考えでも、自分の言葉で話すのです。学校の勉強とそれを何週間にも渡って両立させるのは、かなり大変でした。しかしこのプログラムが終わり、最終課題として提出する論文が完成するころには、楽しいとも思えるようになりました。まだまだStanford e-Japan の仲間たちには遠く及びませんが、彼らと時間をともにできたことが、私を思い切り成長させてくれました。
英検1級の合格はスタートライン
Stanford e-Japanの受講中、もう一つ良いことがありました。ようやく英検1級に合格したのです。実は受験前、学校とプログラムの両立に忙しかった私は、英検のための勉強に割く時間がありませんでした。しかしプログラムで刺激を受けていた私は、毎週の英文読解とディスカッションで培われた英語力で無事合格することができました。まさしく英語を学んできたから、英検に合格したのです。長年の目標が叶うことは、とても嬉しいことでした。しかしその結果に狂喜乱舞することはありませんでした。なぜなら英検1級合格は、英語で学ぶことのスタートラインであることを、私は既によく知っていたからです。
Stanford e-Japan修了後、スコアアップのためもう一度1級を受験し、無事合格することができました。それでもまだ私はスタートラインにいます。英語もまだ完ぺきではなく、基礎を見つめなおす必要がある場合が多々あります。英語を用いてアカデミックに学ぶには全く足りません。英語がもっとできれば、私の学びの幅はもっと広がるはずです。それがとてももどかしく、同時に心沸き立たせています。今はスタートラインを踏みしめて、いつかそこからゴールへ向かって歩き始めることができるように、これからも精進していきたいと思います。
(終)