岡山理科大学の鬼塚政一です。私は、常微分方程式の定性的理論を中心に研究を行っています。以下では、難しいと思われる言葉について丁寧に説明していきます。未知関数y(x)に加え、y'(x)やy''(x)などの導関数を含む方程式を微分方程式といいます。例えば、y'(x)=y(x)は簡単な微分方程式の一つです。2次関数などとは違って、解が関数であることが特徴といえます。微分方程式は、数理モデルとして様々な現象を記述し、その解の挙動を調べることで、未来の予測や現象の理解に役立つことが知られています。例えば、xを時間、y(x)を個体数とすると、微分方程式の解は個体数の変動を記述します。特に、独立変数が一つの微分方程式(例: y'(x)=y(x) は独立変数 x が一つです)は常微分方程式とよばれます。また、定性的理論とは、解の具体的な形を求めずに、解が時間とともにどのように変化するのか、ある一定の状態に落ち着くのか、あるいはいくつかの状態を繰り返すのかといった、解の性質や振る舞いを調べる理論のことです。
これまで以下のような定性的理論の研究を行ってきました。
リヤプノフ安定性: 解が時間とともに特定の点や状態から離れないか、あるいは近づいていくかといった、解の安定性に関する概念です。安定性には、安定、一様安定、漸近安定、一様漸近安定、指数漸近安定など、様々な分類があります。
ウラム安定性: 近似解の近くに真の解が存在することを保証する概念です。ハイヤーズ-ウラム安定性ともよばれます。(力学系の概念であるリプシッツ擬軌道尾行性と同義であることが分かっています。特定の種類の微分方程式においては、構造安定性や双曲性、指数二分性といった概念とも関連しています。)また、近年になって条件付きウラム安定性とよばれる新たな概念が誕生しました。
振動性・非振動性: 解が sin(x) や cos(x) のように無限に多くの点で値が0になる(これらの点を零点とよびます)かどうかを調べます。
有限長性・無限長性: 微分方程式の解の曲線(または、解の軌跡)の長さは有限かどうかを調べます。
解軌跡のフラクタル次元: 解の軌跡がもつ複雑さを数値的に表す指標です。解の軌跡の長さが無限大になる場合に次元が1よりも大きくなることがあり、次元が大きいほど、解の軌跡はより複雑であると考えられます。
最近特に力を入れているのがウラム安定性の研究です。これは、数理モデルが現実の現象をどれだけ正確に捉えられるかの指標となります。もし、数理モデルがウラム安定でない場合、どんなに精密なコンピューターシミュレーションを行っても、計算結果が実際の現象と大きくかけ離れてしまう可能性があります。そのため、ウラム安定性は数理モデルそのものの信頼性を示す重要な性質といえます。
現在の目標は、ウラム安定性の度合いを数値的に表す最良ウラム定数を見つけ出し、その結果を実際の数理モデルに応用することや、力学系理論の発展に貢献することです。