分子ロボティクスによる糖尿病モデルマウス血糖値制御法の研究
リポソームそのものに感覚,知能,運動の機能を付加するために、リボソーム凝集体の作成、小動物における/in vivo/蛍光イメージ、リポソーム凝集体の評価、グルコース応答性有機分子の合成、膜透過性調整法の確立、DNAハトメ構造の設計、リポソームシミュレーション、可視化シミュレーションを行った。リポソーム凝集体の作成に関しては、インスリンを内包し、血清共存下での膜破裂、血管網を模した/in vitro/評価において血流速度でのマイクロ流体デバイス内部での滞留を確認した(豊田)。小動物における/in vivo/蛍光イメージに関しては、/in vitro/のジャイアントベシクル凝集体に蛍光標識用量子ドットを導入し、量子ドット由来の鮮明な蛍光を確認した(湯川)。リポソーム凝集体の評価に関しては、/in vitro/評価に用いる糖尿病モデルマウスを作成し、膵島移植により血糖を改善できることを確認した(野口)。グルコース応答性有機分子合成に関しては、グルコースに応答して親水-疎水バランスが変化する新規のボロン酸誘導体を設計した(池田)。膜透過性調整法の確立に関しては、タンパク質ゲルを内包したリポソームの形成法およびリポソーム内に封入したペプチドホルモンの膜透過性調整技術について検討した(柳澤)。DNAハトメの創成に関しては、DNAハトメ前駆体のコレステロールによる脂質膜上への固定法ならびに平面脂質膜上におけるDNAハトメ前駆体の拡散・反応による凝集の観察実験を行った(川又)。リポソームシミュレーションに関しては、コンパートメントが3つの場合について数値シミュレーションを行い,実験を再現するための形状と膜面に働く張力との関係について調べた(梅田)。可視化シミュレーションに関しては、超分子設計支援環境を整備しDNAオリガミ構造体ならびにリポソームの原子モデルを作成した(小長谷)。
実ニーズに基づく分子ロボット開発
イノベーションにはシーズが不可欠ですが、ニーズと結び付かない開発は魔の川(研究と製品に結び付く開発とのギャップ)を渡れません。分子膵島ロボット開発では1型糖尿病という実ニーズのペインを解決するためのソリューションを目標に分子ロボット技術の開発を進めています。
ブラックボックスがないナノシステム構築
iPS細胞や合成生物学のように既存の細胞を遺伝子レベルで改変する方法論では細胞分裂や環境適応という細胞の本来的な機能がブラックボックスとして残ります。分子ロボットの方法論では、細胞と同じようなナノシステムを生体分子をボトムアップに組み立てて創成(bottom up fabrication)するため、機能は限定的ですがブラックボックスがないナノシステムを構築することが可能です。
プログラマブルな情報伝達分子の活用
DNA/RNA/ペプチドのような生体分子は配列情報を変えるだけで異なる機能を持つ分子を創成できる点に特徴があり、生物はこれを遺伝子(プログラマブルな情報伝達分子)として活用しています。分子ロボットではこの情報伝達分子の概念をさらに発展させ、DNA配列をタグとして付加した分子やDNAオリガミのような複雑な形状のナノ構造体を用いて分子間相互作用をプログラミングすることで、自然界にはないナノシステムを構築したり、生化学反応を明示的に制御したりすることを可能にしています。
3本の単鎖DNAからなるY-motifを活用して膜の裏打ち構造を創成。
Kazutoshi Masuda, Miho Yanagisawa. Programming Nonlinear Interfacial Mechanics of Synthetic Cells: Lipid Geometry and DNA Nanostructures, Small Science, 6 (6) June 2026 e70321. (open access)
https://doi.org/10.1002/smsc.70321
直径10マイクロメートルの巨大リポソームをさらに凝集させることで膵島と同程度の大きさのリポソーム凝集体製造技術を開発しました。
2019年6月8日:一般公開シンポジウム「分子ロボティクスの創薬応用への可能性」(第58回日本生体医工学大会、沖縄コンベンションセンター)
DNAナノ技術により、部分的な相補配列を持つ3本の単鎖DNAを組み合わせたY-motifを創成。Y-motifをさらに組み合わせることで網目状のDNA構造体を形成。
小長谷明彦
分子ロボティクスを用いた分子人工膵島細胞の実現を目指して
Precision Medicine, 2(5), pp.69-73 (2019).
https://cir.nii.ac.jp/crid/1523669555941849856?lang=en