熱帯雨林の野生動物たちは、食物連鎖や種子散布などを通じて森の豊かな生物多様性を支えています。一方で森に暮らす人々にとっては、野生動物の狩猟は貴重なタンパク質と現金収入をもたらす生業であり、地域固有の社会規範と世界観を育む文化多様性の源でもあります。しかし、過去数十年の間に熱帯雨林地域の狩猟圧は急速に高まり、野生動物の大幅な減少が報告されるようになりました。この問題は「野生肉危機」として国際社会の関心を集め、各国政府は保護区の設置と厳しい狩猟制限を進めましたが、その結果として地域住民の自給的狩猟までもが制限され、保全機関と住民の間に軋轢が生じています。
さらにこの問題の根底には、科学的な保全生態学を背景とする研究者や保全行政と、経験に基づく地域知を重視する狩猟者や住民との間の、知識のあり方に対する不和があると考えられます。生物多様性保全と狩猟文化維持を両立させ、野生肉危機を真の解決に導くためには、科学の専門家と地域知の専門家との対等な対話に基づく「共同製作研究」が不可欠です。私たちはコンゴ盆地・アマゾン・東南アジアの各熱帯雨林地域において、両者の知識に基づく野生動物モニタリング法を提案します。その上でカメルーンとコロンビアの主要2サイトにおいて、多様な地域アクターの誰にとっても公正で持続的だと考えられるような、自給的狩猟を積極的に組み込んだ狩猟マネジメントの構築を目指します。
カメラトラップで撮影されたピータースダイカー。中部アフリカ熱帯雨林の主要な狩猟対象種のひとつ。
自給的狩猟にもとづく野生動物モニタリング法のイメージ。イラスト:いずもり・よう
2024年度(PR)
これまでの研究を通して、保全機関(生物多様性の保全)と地域住民(狩猟文化の維持)の関係には、サイトごとに大きな違いがあることが明らかになりました。同じ熱帯雨林地域でも、保全が文化に対して優位にあるサイト(カメルーン、ガボン)、反対に文化が保全に対して優位にあるサイト(コロンビア、コンゴ民)、そして保全と文化の間に相互不信が生じ関係が希薄になっているサイト(ボルネオ)があります。したがって、各サイトでの研究活動を記述・比較することで、異なる条件下での共同製作研究の有効性と課題を検証することが可能となります。
2025年度(FR1)
フル・リサーチ初年度だった2025年度には、これまで数多く提案されていた研究テーマを6つの活動項目に分け、プロジェクト計画の枠組みを練り直しました。それら6項目のうち、人類学的調査と生態学的調査の2つの調査活動に関して、若手研究者や大学院生らが中心となってフィールドワークを開始しました。たとえばカメルーンでは、「伝統的な植物罠の知識に関する住民との共同実践」や「野生肉の食文化」、「狩猟残滓(捨てられた内臓や腐敗した死体)の腐食連鎖や土壌栄養分への影響」に関する調査を開始しました。コロンビアでは、「地域住民が野生動物に抱く価値観に対する観光業の影響」や「狩猟対象哺乳類の多様性と個体数の推定」に関する調査を行いました。今後これらをもとに、より共同製作研究的なアプローチに近づけていく予定です。また、およびボルネオ・サバ州(マレーシア・サバ州大学)とガボン(国立科学技術研究センター)の協力研究機関の間に協定書を結び、コロンビアのサイトの先住民組織とも協力書を結びました。
カメルーン・サイトの狩猟採集民バカのハンターといっしょに設置したカメラトラップ。
コロンビア・サイトでの先住民組織(ATICOYA)との会議の様子。プロジェクトの目的を説明し、住民の意見や要望を聞いた。
重点サイト
カメルーン共和国、東部州、ブンバ・ンゴコ県
コロンビア共和国、アマソナス県、プエルト・ナリニョ
展開サイト
マレーシア、サバ州
ガボン共和国、ウォロウ‐ンテム州、ミンブル
コンゴ民主共和国、ツアパ州、ワンバ