概要

なぜこの研究をするのか

 ダイカー、サル、ワニなどといった熱帯雨林の野生動物は、食物連鎖や種子散布などを通じて豊かな生物多様性を支えています。その一方、森に暮らす地域住民にとっては、野生動物の狩猟は貴重なタンパク質と現金収入をもたらす生業であり、地域固有の社会規範と世界観を育む文化多様性の源でもあります。しかし、過去数十年の間に狩猟圧が急速に高まり、野生動物の大幅な減少が熱帯雨林各地で報告されるようになりました。この問題は「野生肉危機 wildmeat crisis」として国際社会の関心を集め、各国政府は保護区の設置と厳しい狩猟制限を進めました。その結果として、地域住民の自給的狩猟までもが制限され、保全機関と住民との間に軋轢が生じています。野生肉危機は、グローバルな価値(野生動物保全)とローカルな価値(自給的狩猟の維持)との摩擦を背景とする、環境問題の典型例といえるのです。

 さらにこの問題の根底には、野生動物マネジメントをめぐる科学と地域知との間の相互不理解がある、と考えられます。科学と地域知は、現場での実践においては共通点も多いものの、根本的な思想や志向性に大きな違いがあるため、一方の知識体系にのみ基づく手法や意思決定は、他方からは持続可能で公正だとはみなされません。野生肉危機の真の解決には、科学と地域知が相互理解を深め、自給的狩猟を積極的に組み込んだ地域主体型の野生動物マネジメントの構築が不可欠です。 

ピータースダイカー。カメルーン熱帯雨林における生業的狩猟の主な対象のひとつ。写真:Projet Coméca

コンゴ民主共和国で取引される野生動物の肉。撮影:横山拓真

プロジェクトの目的

 このプロジェクトでは、世界3大熱帯雨林の5サイトにおいて、公正で持続的な狩猟マネジメント・システムの導入を目指します。そのために、地域住民・保全行政・研究者が対等な立場で調査を立案・実施・評価する「共同製作研究coproduction research」アプローチを採ります。生態学者らの主導による科学的手法と、熟練狩猟者が提案する地域知的手法を協同で検証し、両者の知を集めた野生動物モニタリング法を提案します。また、すべてのステークホルダーが対等にマネジメントの意思決定に関与するプラットフォームを、主要サイトのカメルーンとコロンビアに構築します。

 地域知と科学との対等性を念頭におくアプローチによって、「守りながら利用する」という共通の目標をもった五者五様の管理システムが各地域につくられるでしょう。地域の固有性に対応した狩猟マネジメントを製作する各地域のプロセスを記述し比較することで、地球環境問題における共同製作研究の有効性を検証します。

コンゴ民主共和国・ワンバ村における地域住民との会合の様子。 撮影:松浦直毅

自給的狩猟にもとづく野生動物モニタリング法のイメージ。  イラスト:いずもり・よう

研究サイト