バイオマスは、数十億年という進化の過程で生み出された“自然が創った究極の素材”です。合成高分子では再現できない特異な物性や機能を備えていますが、人類はいまだその可能性を十分に引き出せていません。私たちは、生物が生み出すバイオマスの“思い”を理解し、その構造と機能を科学的に解き明かしたうえで、有機化学・高分子科学・材料学・加工プロセスを融合し、賢く活用する研究を行っています。
環境省提供
木材から抽出される「ナノセルロース」は、髪の毛の1万分の1という極細形状と鋼鉄並みの強度を併せ持つ革新的素材です。これをプラスチックに複合化することで軽量・高強度化を実現し、自動車部品に応用しています。燃費向上とCO₂排出量の削減を両立することを目指し、京都大学を代表とする22の大学・企業が参加したプロジェクト「NCV(Nano Cellulose Vehicle)」において、ナノセルロース部材を随所に搭載した未来型自動車が完成しました。
(株)マリンナノファイバー
カニ殻などの廃棄資源から抽出される「ナノキチン」は、ナノセルロース製造技術を応用して得られた海洋由来のバイオマス素材です。分野横断的な共同研究を通じて、「肌に塗ってよし、食べてよし、植物に与えてよし」という多彩な機能を明らかにしてきました。代表的な効果として、創傷治癒・育毛・皮膚炎の緩和などが挙げられます。これらの成果をもとに、ナノキチンを配合した化粧品やペット用ヘルスケア製品などが次々と実用化されています
木材は本来、水分を運び、幹を支える重要な役割を担っており、そのために精緻な組織構造を備えています。私たちは、その構造の秘密を解き明かし、自在に制御することで、自然の仕組みを活かした新たな加工技術の開発を進めています。例えば、押出加工、圧延加工、水撃含浸などが挙げられます。
木材はセルロースを基盤に、リグニンやヘミセルロースが結合・充填した天然の複合材料です。カニ殻はキチンとタンパク質によるらせん状複合体の間隙を炭酸カルシウムが石灰化した天然のハイブリッド材料です。これらの高分子が自己組織的に集合して階層的な構造体を形成しています。自然の設計原理に学び、界面科学・超分子科学・有機化学の知識を融合させ、森と海の恵みを活かした持続可能なものづくりを展開しています。