令和5年3月29日の大学・地域共創プラットフォーム香川アンケートによれば県内就職率が低い業種として、情報通信業(15.2%)、サービス業(28.6%)、建設業(30.0%)、製造業(36.5%)が挙げられている。これらの業種は観光産業にも関わる分野であり、新型コロナウィルスの第5類位置付けにより、今後県内観光産業が復帰すると共に各業種の回復も見込まれる。同アンケート『香川県での就職希望者を増やす取組み』として『「県内企業等が給与等を増やす」で全体の44.9%、次いで「県等が魅力的な企業を誘致する」(35.7%)、「小学校~高校の段階で、県内企業を知る機会を増やす」(30.8%)』があるが、注目すべきは『県内企業を知る機会を増やす』である。
また、『就職時期の県外転出の主な原因』として、女性は「若者が楽しめる場所や活躍できる場所が少ないから」「自分らしさを表現しづらい・古い価値観が残っていると思うから」という回答も得られている。逆に『県内就職/県外就職を決めた理由』としては、「全体の90%が香川県に愛着を感じる」という点に注目したい。地元に根付く人材は地元に愛着を持っている、もしくは嫌悪感がないことが前提であると言える。
また産業的な需要予測として、NRI※1によれば2024年4月にはインバウンド効果はコロナ禍前に回復すると予想されており、産業回復と共に人員確保が課題となる事は明らかであり、若者流出(都市部集中)は、地方のみならず日本全体の将来的な経済バランスへの影響を及ぼしかねないと申請者は考えている。香川県においては瀬戸内国際芸術祭を代表に「アート県」と認知されている事から、ポストコロナでは観光産業の需要増大が十分に考えられる。しかしながら観光サービス業における経済効果の見込みを人材不足によって、観光産業の新たなサービス展開の鈍化や展開自体ができなくなり、大きく下回ってしまう事が予想される。
一度県外流出してしまうと県内へUJIターンするには仕事情報の取得が重要である。申請者も千葉県からのIターン移住者であることから、その重要性を感じている。香川県自体は東京事務所・大阪事務所という窓口を持ち、香川・愛媛せとうち旬彩館も都心部に持っている。しかし、都市部及び周辺に居住している人がこれら施設窓口を利用する際は「地元香川に戻るUターン」「新たな居住を四国で検討するJ・Iターン」という動機付けが前提であり、これら2点の動機付けには、先に記載した「香川に愛着を持っている、もしくは嫌悪感がないこと」が前提である。
少し視野が大きくなるが、2000年以降のアメリカの人口流動の観点からいえば「クリエイティブクラスの世紀(R.フロリダ著:2007)」を参考とすれば、クリエイティブクラスの流動が地域の魅力向上に寄与する事が挙げられる。このような人材の出入りがある地域は3T(Talent,Technology,Trelant)の要素が必要であると言われている。
私たちは、この要素が地域再生・活性へつながると考えている。香川県内で言えば、三豊市がその条件には当てはまりつつあり、観光産業がなかった地域から観光産業振興が生まれてつつあると言える。アメリカでは1990年代から徐々に醸成されてきた。日本ではポストコロナで一気にインバウンドが進行すれば、受け入れ地域に3T(特にTrelant:寛容性)があれば、同様の現象を期待できる。
UJIターン促進には以下の要素が必要であると考える。魅力的な事業活動をしている事業者の存在が県外からある特定の人達(クリエイティブクラス)を惹きつけ、魅力的なライフスタイルのお手本となるロールモデルがあれば女性の出入りが激しくなる。特に現在の若者Z世代は体験型・参加型消費を重視し、このような取り組みが関係人口構築に貢献する。※4
本学では、2020年より「みとよMaaSプロジェクト」と称し、三豊市との連携活動を行ってきた。三豊市の新たな産業創出の鍵となる人物に焦点を当て、観光事業やモビリティに関するまちづくりの専門家による講義、ポスターデザインコンテストを行った。これら活動は、三豊市が開催した「令和2年度三豊市活性化プロジェクト意見交換会」においても報告した。
翌年2021年では、上記連携事業に参加した学生らが「観光庁大学生観光コンテスト2021 ニューノーマルステージ」のプロジェクトを発足し挑戦した。結果入賞には至らなかったが学生達への自信に繋がり、県への愛着を増した。また参加した学生らは「地元企業、県内に支店を持つ企業、隣接県への3年次編入進学」とそれぞれの道を歩んでいったが「香川に戻る」という意思を聞いている。
同年6月には本学と三豊市の間で包括的連携・協力協定を締結し、2022年度には新たな科目「地域学」を経営情報科に設けた。地域学の対象地域は、宇多津町と三豊市としており、特に三豊市は観光産業の掘起しがされ「地域でイノベーティブな活躍をする企業・人材」が多彩である。三豊市の市長をはじめ、食産業、観光ビジネスに関わる事業者による講義とフィールドワークを実施するとともに依頼する講師の半数が女性経営者であり、次世代の主たる働き手として期待する女子学生のライフプランの参考事例が聞ける機会でもある。2022年度の活動に参加した学生からは、「具体的事業案があるので、起業したい」、「自分らしく生きて良いんだという自己肯定感がでてきました」という声を多く聞いている。
このような活動の結果、2022年度の活動実施後のアンケートでは受講学生全員が「新たな地域の発見と共に、新たな自分自身を発見している」と回答している。
課題として以下の点を挙げる。
現地・現場での講義できる人数と回数、及び場所の確保
予算に伴い、地域事業活動の視察が不十分
「市の政策」「観光ビジネス」「観光交通ビジネス」「女性(経営者)としての生き方」をポイントとした講義を行ってきたが、本学予算のみでは講師依頼人数が限られてしまう。その為「地域と食」に関する講義と実習が不十分である。
継続的に県内外の若者の可能性を具現化する取組
新たな発想を香川にて具現化できる雰囲気作りが重要であると考えている。
より多くの事例を多くの学生へ見せる仕組
県内短期大学と連携し、三豊市以外の食ブランドをターゲットと考えている。
上記課題に対して学生による「交流拠点作り」は大きな労力と時間を要する。その為、既にある交流拠点において地域づくりを行っている事業者と意見交換し、外部の関係人口との交わりを行っていく事で、特色と魅力ある産業と、地元学生が地元での就職や起業が可能である事を認識してもらう。さらには広報活動を通して高校生へその魅力を伝える事を目的とする。
作者「イトーヒガシ」
作者「akyuuuu」
高松短期大学
西岡達哉(Tatsuya Nishioka)講師
せとうち観光専門職短期大学
石床渉(Wataru Ishitoko)准教授
香川短期大学
岩倉洋平(Yohei Iwakura) 講師