2025.11.26
形容詞・代名詞の any は古英語から「どんな…も;いくらか[も]…」の意味で用いられており、1526年から「どれほど…でも」、1866年から「どんな…でも」の意味でも用いられる。ゲルマン祖語の *ainiȝaz, *ainaȝaz を語源に持ち、更に印欧祖語の *oinikos, *oinokos に遡る。これらの印欧祖語は「一つの、唯一の」を意味する *oino- から派生したもので、『英語語源ハンドブック』によると、同じ印欧祖語に基づく英語本来語には one や不定冠詞の a, an があり、またラテン語の unus「一」に由来する uni- を含む unite「一つにする」、union「団結」、unique「独特な」、unity 「単一性」、unicorn「ユニコーン、一角獣」、universe「宇宙」、university「総合大学」も同根である(p. 17)。
any の古英語における主な語形は ǣniġ で、OED によると母音 ǣ は āniġ から i-mutation を起こしたものである。『英語語源辞典』によると、古英語の ǣniġ は中英語では方言により eni(南部)、ani(中部)、ony(中・北部)などの形に分岐した。このように中英語では語頭の母音の綴字と発音が方言によって異なっていたが、OED および『英語語源ハンドブック』によると、綴字は中英語で広く使われた a- が、発音は南部方言の /e/ が定着した(南部方言の綴り eny は16世紀頃に廃れた)。any における語頭の母音の綴字と発音に差が見られるのは、中英語期の方言ごとの綴字と発音のヴァリエーションから、異なる方言の綴字と発音がそれぞれ標準として定められたことによるのだ。
参考文献
「Any, Adj. & Pron.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Any, Adj., Pron., N. & Adv.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/any_adj?tab=etymology. Accessed 26 November 2025.
唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一『英語語源ハンドブック』研究社、2025年。
キーワード:[spelling-pronunciation gap] [dialect] [i-mutation] [Germanic] [Indo-European]