2025.11.18
「アリ」を表す ant は古英語から用いられているが、古英語での語形は ǣmet(t)e で、現代とは語形が異なる。古英語の ǣmet(t)e は西ゲルマン祖語の ǣmaitjōn から発達したもので、「…から離れて」を意味する *ǣ- と「…を切る」を意味する *maitan(印欧祖語の *mai-「…を切る」から派生した *maid- に遡る。mite「ダニ」も同じ印欧祖語に遡る)から成る。『英語語源辞典』の「Ant, N.」の項には ant は emmet と二重語とあるが、emmet は古語・方言で「アリ」を意味する語として現代にも残っている。
『英語語源辞典』によると、古英語における語頭の強勢のある音節の ǣ は中英語では短縮されることが頻繁にあり、古英語の ǣmet(t)e は12–13世紀に方言によって āmet あるいは ēmete となった。さらに āmete は語間の母音を失い(syncope)、amte (ampte)、ante を経て ant になった。ampte の語形は -mt- の子音を発音する際にわたり音(glide)の p が挿入されたもので、empty (< OE ǣmettiġ) などにも見られる。また、m から n への変化は、後続する子音 t への同化(assimilation)によるもので(OED, “Ant, N. (1)”)、OED によると現在の ant の語形は後期中英語から見られる。
参考文献
「Ant, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Emmet, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Ant, N. (1)” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/ant_n1?tab=etymology. Accessed 18 November 2025.
キーワード:[doublet] [syncope] [glide] [assimilation] [Germanic] [Indo-European]