2025.10.13
『英語語源辞典』には2つの amice が別個の語として見出しに立てられている。amice 1 は「聖餐式に司祭が首から肩にかける白い麻布」を指し、中英語では amit, amis などと綴られていた。一説によると古フランス語の amit, amist の複数形 amis から借用したとされている。古フランス語の amit, amist はラテン語で「上着」を意味する amictum から発達したもので、「周囲に」を意味する am- と「…を投げる」を意味する jacere を組み合わせた amicīre「周りに投げる、巻きつける」に遡る。もう一つの amice 2 は「(聖職者用の毛皮で裏うちした)肩ぎぬ」を指し、中英語では amyse などの語形だった。古フランス語の aumuce から借用され、aumuce は中世ラテン語の almūcia から借用したものである。almūcia は『英語語源辞典』によると一説にはアラビア語の定冠詞 al- と mústaqah (ペルシャ語の mushtä「毛皮の外套」からの借用) から成るが、OED によると定冠詞 al のついたアラビア語の語根は確認されていない。
OED によると -ce の語形は amice 1 では中英語期から、amice 2 では16世紀から見られる。どちらも衣類を表し、宗教に関する語であるのに加え、語形も似ているため、両者の語形が混同したり、区別が図られたりしてきた。『英語語源辞典』によると、amice 1 における -s の語形は古フランス語からの借用である可能性に加え、amice 2(中英語では amis )との混同によるとする説もある。また、『英語語源辞典』によると amice 2 は amice 1 と区別するために、中世ラテン語に由来する almuce の語形も用いられ、OED によると色を表す形容詞(grey が付くことが最も多い)が amice 2 に伴うことで区別されることが多いという。あまり一般的でない2語であるが、このまま同音同綴異義語であり続けるのか、それとも綴りを違えていくのか、気になるところだ。
参考文献
「Amice (1), N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Amice (2), N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Amice, N.(1)” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/amice_n1?tab=etymology#5199282. Accessed 13 October 2025.
“Amice, N.(2)” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/amice_n2?tab=etymology#5200390. Accessed 13 October 2025.