2025.10.6
ambiguous は「曖昧な、多義の」を意味する形容詞で初出は1485年頃とされている。ラテン語の ambiguus「不安定な、はっきりしない」から直接借用され、ambiguus は「…について議論する」を意味する ambigere から派生した。ambigere の原義は「…の周りをまわる」で「周(囲)に、両側に」を意味する連結形 ambi- と「追い立てる」を意味する agere から成る。
中英語期から現代と同じ ambiguous などの綴字が用いられたが、借用元のラテン語の綴字は上記の通り ambiguus である。なぜラテン語の -us から英語の -ous に変化したのだろうか。
OED では ambiguous をラテン語の ambiguus から借用し、且つ英語の接尾辞 -ous と組み合わせたものと捉えており、ambiguous における -uous は類推によって、「…の性質の、…から成る」の意味を伴ってラテン語の語幹につく英語の語形成として用いられた(“by analogy employed with the sense ‘of the nature of, consisting of’ in a few English formations on Latin stems” (“-Uous, Suf.”) )ものとしている。-ous は「…の多い、…性の、…に似た、...の特徴を有する、…の癖のある」の意味を伴う形容詞語尾で、ラテン語の接尾辞 -ōsus に由来する。OED によるとラテン語の -ōsus における長母音 ō はフランス語では /oː/ → /o/ → /ou/ に発達し、主に -os, -us と綴られた(フランス語では -ous はあまり一般的ではなかった)が、英語では古英語・中英語の長母音 ū と同一視され、-ous と綴られたという(“-Ous, Suf.”)。『英語語源辞典』にも「L -ōsus 以外にも英語ではラテン語系借入語の形容詞語尾、さらに英語内造語の形容詞語尾として広く用いられている」(“-Ous, Suf.”)とあるように、-ous はラテン語に由来する接尾辞であるものの、英語における語形成要素として広く用いられている点で英語化していることが分かる。したがって、ambiguous もラテン語からの直接借用語ではあるが、ラテン語の ambiguus の語形をそのまま用いるのではなく、類推をはたらかせ、英語化した接尾辞 -ous を用いることで現在の語形になったと考えられる。
参考文献
「Ambiguous, Adj.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「-Ous, Suf.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Ambiguous, Adj.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/ambiguous_adj?tab=etymology#5545612. Accessed 6 October 2025.
“-Uous, Suf.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/uous_suffix?tab=meaning_and_use#16155524. Accessed 6 October 2025.
“-Ous, Suf.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/ous_suffix?tab=etymology#33091057. Accessed 6 October 2025.
キーワード:[analogy] [Latin] [suffix] [word formation]