2025.10.4
ambassador は『英語語源辞典』によると1385年頃の Chaucer による Troilus and Criseyde が初出とされ、「大使」を意味する。また、「使節、代理人」の語義は1604年の Shakespeare による Measure for Measure が初出とされている。
中英語期の語形は主に ambassadour で、(古)フランス語の ambassadeur から借用された。(古)フランス語の ambassadeur は(古)イタリア語の ambasciatore から借用したもので、それは更に古プロバンス語の ambaisador から借用したものである。古プロバンス語の ambaisador は一説によると俗ラテン語の *ambactiātōre(m) から発達したもので、「任務で行く」を意味する *ambactiāre から派生した。*ambactiāre は「任務」を意味する中世ラテン語の ambactia, ambascia から派生し、これは一説によるとゲルマン祖語の *ambaχtaz から借用したもので、ゲルマン祖語の *ambaχtaz はさらにラテン語で「家臣、召使い」を意味する ambactus から借用し、ゴール語で「召使い」を意味する *ambactos に遡る。ゴール語の *ambactos はさらにケルト語の *ambi-ag-to「周りに送られた者」から発達したもので、「周(囲)に、両側に」などを意味する連結形 ambi- と印欧祖語で「追い立てる」を意味する *ag- が組み合わさっている。このように『英語語源辞典』ではかなり詳細かつ複雑な語源が示されているが、OED の語源説明の要約ではフランス語の ambassadour、ラテン語の ambasciator からの借用とされている。
ambassador の語形自体は借用元のフランス語に近いものとなっているが、『英語語源辞典』によると17・18世紀には異形 embassador が多く用いられ、これは embassy「大使館、大使の任務」の影響によるものだという。embassy は古フランス語の ambassee からの借用で、俗ラテン語の *ambactiāta(m)、中世ラテン語の ambactia に遡るため、ambassador と embassy は同根語で、意味も関係している。『英語語源辞典』では、embassador はイギリスでは廃用となったが、アメリカでは語形上の類推から依然として好まれていると記述されている。しかし、OED によるとThe American Dictionary of the English Language を編纂した Noah Webster (1758–1843) は embassy との類推から embassador を好んでいたものの、アメリカ英語では ambassador の語形の方が常に頻繁に用いられてきたという。OED の記述が事実であるならば、Webster の主張が実際のアメリカ英語の一般的な使用とは異なっていたことになる。また、OED では、ambassador の語形が標準となったことについて、フランス語の標準形が ambassadeur になったことが影響を及ぼした可能性が示唆されている。
参考文献
「Ambassador, Em-, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Embassy, Am-, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Ambassador, N. & Adj.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/ambassador_n?tab=etymology#5695325. Accessed 4 October 2025.
“Embassador, N. & Adj.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/embassador_n?tab=etymology#5679465. Accessed 4 October 2025.
キーワード:[analogy] [French] [Latin] [British and American English differences] [Webster]