2025.10.2
aluminium「アルミニウム」は1812年の初出であるが、この19世紀に生まれた元素の名前は初めから aluminium と名付けられた訳ではなかった。
イギリスの化学者 Sir Humphrey Davy (1778-1829) は1808年にこの金属元素を †almium と命名した。almium はネオ・ラテン語(14世紀末以降に古典をまねて作られたラテン語)で、almina「酸化アルミニウム」、そして「ミョウバン」を表す alum の語源であるラテン語の alūmin-, alūmen から派生したものである。しかし、Davy は1812年に aluminum に、そして現在用いられている aluminium に名称を改めた。『英語語源辞典』によると、aluminium への改名は、先に Davy が名付けた magnesium「マグネシウム」、potassium「カリウム、ポタシウム」、sodium「ナトリウム、ソジウム」に倣ったためだという。Davy が自ら作った他の元素名から類推をはたらかせて、-ium の語尾となるように aluminum から aluminium へと語形を変化させた点が興味深い。-ium は塩を作り得る金属または非金属の存在を示す語尾として『英語語源辞典』に記載されているが、その起源は Sir Humphrey Davy が1807年に生み出した magnesium などの元素名とされている。
OED によると、aluminium と aluminum は19世紀の間共存していた。20世紀初頭から aluminum は北米で優位な語形となっていき、1925年にアメリカ化学会 (American Chemical Society) によって、aluminum がアメリカにおける当該金属(元素)の公式名に採用された。一方でその他の地域では aluminium が aluminum に取って代わり、aluminium は1990年に IUPAC(国際純粋応用化学連合)によって国際的な標準の名称として認められた。化学は全くの門外漢だが、専門用語のこの非常に細かな変異を使い分けるのは大変そうだ。何はともあれ、aluminium と aluminum の共存は現代でも続いている。
参考文献
「Aluminium, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「-Ium, Suf.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Aluminium, N. & Adj.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/aluminium_n?tab=etymology#5884046. Accessed 2 October 2025.
キーワード:[analogy] [Latin] [British and American English differences]
後書き
<i, m, n, u> は中世英語の筆記において minim と呼ばれる縦棒で表記された。aluminium は14個、aluminum は13語 minim が並んでおり、しかもaluminium と aluminum の違いは1つの <i> の有無しかないので、この記事を執筆しながら筆者は大変混乱した。ちなみに hellog〜英語史ブログ「#4134. unmummied --- 縦棒で綴っていたら大変なことになっていた単語の王者」における「縦棒で綴っていたら大変なことになっていたはずの単語,ワースト5」によると、aluminium はワースト4位タイだそうだ。