2025.10.1
altar は「祭壇」を意味し、後期古英語から現代と同じ altar の綴字で用いられている。altar は後期ラテン語の altāre から借用され、ラテン語の altāria(複数形)「祭壇、燔祭(祭壇上で獣を焼いて捧げる生贄)」に対応する。altāria は一説によると「生贄に燃やす」を意味する adōlere から派生したものとされるが、ラテン語で「高い」を意味する altus と「祭壇」を意味する āra(印欧祖語の *as-「…を燃やす」に遡る)を組み合わせたものとする説もある。また、古英語では一般的には wēofod, wīġbēod(wīh「偶像」+ bēod「台」)が用いられ、altar は特にキリスト教の「祭壇」を表すのに用いられた。したがって、altar は古英語期にキリスト教の布教に伴って借用されたラテン語語彙の一つと言える。
古英語期にラテン語から借用された altar であるが、中英語期には古フランス語の auter(この古フランス語は後期ラテン語の altāre から借用したもの)から借用した、フランス語化した語形の auter も用いられた。altar と auter が併存した後、『英語語源辞典』によると16世紀には現在の altar の語形が確立した。altar は古英語期にラテン語から借用した語形を現代まで留めていることになるが、中英語期にフランス語化した auter と(どの程度かは詳しく調査する必要があるが)競合し、イングランドにおけるルネサンス運動の最盛期である16世紀にラテン語の語形に近い altar に軍配が上がった点で、語源的綴字に通ずる過程や動機があるように思われる。
参考文献
「Altar, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
キーワード:[Latin] [French] [etymological spelling] [Christianity] [Indo-European]