2025.9.24
almoner は1303年頃の初出で、「†気前よく施し物をする人」(1874年に廃義)、「(修道院・王家などの)施し物分配係」(1325年以前に初出)、「(病院の)医療福祉係」(1896年に初出)を意味する。中英語期には主に aumener の語形が用いられ、古フランス語の a(u)mo(s)nier, almo(s)nier から借用された。これらの古フランス語は俗ラテン語の *almosināriu(m) から発達したもので、後期ラテン語の eleēmosynārius に相当する。そして、eleēmosynārius は、alms の語源である eleēmosyna「施し物」から派生したものである。借用元であるフランス語で <l> を含む語形と含まない語形が併存していたように、OED によれば中英語でも <l> を含む語形と含まない語形の両方が見られたようだが、最終的に語源に沿った <l> を含む綴字が標準となった。
「施し物」を意味する alms は古英語期から用いられ、『英語語源辞典』によると almoner とは異なる経路で英語に入ってきた。古英語での語形は ælmesse, -mysse で、ゲルマン祖語の *alemos(i)na から発達したものである。このゲルマン祖語は俗ラテン語の *alemosina から借用したもので、後期ラテン語の eleēmosyna が変形したものである。そして、 eleēmosyna はギリシャ語で「哀れみ、慈悲」 を意味する eleēmosúnē から借用されたもので、eleḗmōn「哀れみをさそう」、éleos「同情」まで遡ることができる。『英語語源辞典』はゲルマン祖語から英語に発達する前にラテン語から取り込んだ語と考えているようだ。また、語源が示す通り alms は単数形であるが、-s で終わることから複数形であると捉えられ、『英語語源辞典』によるとしばしば(とくに17世紀末頃から)複数として扱われた。
さて、古英語での語形は ælmesse, -mysse であったが、中英語期には almes(se), amesse に発達した。<l> が脱落した異形が見られるように、/m/ の前で /l/ の音が落ち、それを補って母音が /ɑː/ と長化した。最終的に綴字は語源に沿って <l> を含むものが標準となった一方、OED を見るとイギリス英語では /l/ を含まない発音がなされるのに対し、アメリカ英語では /l/ を発音するものと発音しないものの両方が見られるようだ。
参考文献
「Almoner, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Alms, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Almoner, N. (2)” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/almoner_n2?tab=forms#6289902. Accessed 24 September 2025.
“Alms, N.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/alms_n?tab=pronunciation. Accessed 24 September 2025.
キーワード:[etymological spelling] [spelling-pronunciation gap] [spelling pronunciation] [Latin] [French] [Germanic] [Greek]