2025.8.17
air は1200年以前に初出したとされており、英語の語彙としては800年以上の歴史を持つ。『英語語源辞典』によると air が持つ語義は名詞だけでも10個挙げられている:
†1⦅?a1200 Ancrene Riwle⦆–⦅1446⦆汚れた空気.2⦅c1300⦆空気.3⦅c1300⦆(四元素の一つとしての)空気.†4⦅a1398 Trevisa⦆–⦅1821 Byron⦆息.cf. Shak. WT 5.3.78.5⦅1595–96 Shak. MND 1.1.183⦆(音楽の)曲.6⦅1596–97 Shak. 1H4 4.1.61⦆外見,様子.7⦅1601–2 Shak. TN 3.4.132⦆流布.8⦅1660⦆気取り.9⦅1917⦆航空交通;空軍.10⦅1927⦆電波送信媒体,ラジオ[テレビ](放送).(p. 26)
語義によって元となる語源も異なっており、1–4、9、10の語義はギリシャ語の aḗr からラテン語に借用されて āerem, āēr となり、フランス語の air に発達したものが中英語期に air(e) として借用された(あるいは、古フランス語の aire を 俗ラテン語の *arjam の発達とし、最終的にラテン語の āērと結びつける説もある)。air の語形は借用元のフランス語に由来していることになる。
第5義「(音楽の)曲」はイタリア語の aria, aere からの借用で、「アリア、詠唱」の意味を表す aria と同語源である。また、イタリア語の aria は俗ラテン語の *arja(m) から発達したもので、ラテン語で「空気」を意味する āēr の対格 āēra に遡る。したがって、ラテン語の語源は「空気」をはじめとする 1–4、9、10の語義と共通する。ただし、『英語語源辞典』によると、air の「(音楽の)曲」の語義は古フランス語の aire の影響で ‘quality, nature, manner’ の意味をもった時点でドイツ語の Weise ‘manner; tune’ との類推が生じたことで発達した可能性もあるという。
第6義「外見、様子」は ‘place, disposition, quality’ の意味を表すフランス語の air と古フランス語の aire から借用されたものに由来し、これらはラテン語で ‘territory’ を意味する agrum, ager から発達したものである。したがって、その他の語義とは語源が異なっている。また、この語義でのシェイクスピアにおける例では、1st Folio 版、5–6th Quarto 版では heire、4th Quarto 版では heaire となっているため、現行版でも hair と読むことが多い(『英語語源辞典』「Air, N. & V.」)。OED によると借用元であるフランス語(アングロ・ノルマン)にも heir, heyr, heyre など語頭に <h> が付いた語形があったようだが、ラテン語以前の語源には <h> はなく、語源に基づかない綴字ということになる。
参考文献
「Air, N. & V.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Aria, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Air, N. (1)” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/air_n1?tab=etymology#7946639. Accessed 17 August 2025.
キーワード:[French] [Latin] [Greek] [initial <h>]