2025.8.30
alewife は「ニシン科の魚」を意味し、1633年の初出とされている。OED によると元は北アメリカ大陸で使われた語のようだが、その起源は不明である。『英語語源辞典』によると、†aloofes や方言の allowes (pl.) から変形したものの可能性があり、フランス語で「ニシンダマシ(shad)」を意味する alose からの借用で、alose は後期ラテン語の alausa から借用し、さらにケルト語に遡ると説明している。現在の語形 alewife はこの魚の膨れた腹を女将のビール腹にたとえて、ale と wife の複合語で「居酒屋の女将」を意味する alewife (「ニシン科の魚」を意味する alewife とは別語源)の影響を受けたものだとされている。語源が定かではない alewife だが、魚の腹の様子から女将のお腹が連想されて語形が変化したのであろうこと、また居酒屋で女将が魚の alewife を出していたのだろうかと想像が膨らんで面白い。
話は逸れるが、現在「エール」を意味し、古英語から使用が見られる ale と同じく古英語から存在する beer の使い分けの変遷について、『英語語源辞典』では詳細に説明がなされている:
ale と beer は15Cに Low Countries から England にホップの栽培が導入されるまでは同義語であった(MED, OED).その後16Cまではホップの入ったものを beer と呼んで,入らない ale と区別したらしい.今では ale を含む総称として beer を用い,とく炒(い)らない malt を用いた色の淡いものを ale と呼ぶ場合があるが,区別は明確でない.Gmc 諸語では英語とアイスランド語・フェロー語だけに ale と beer の両方が残り,島嶼を除く北欧語では ale の同族語,それ以外では beer の同族語が用いられている.(p. 29)
ale と beer の両方が残っているのは3言語しかないこと、その中にale と beer の微妙な使い分けをしてきた英語が含まれているのが興味深いと思うとともに、なぜこの3言語では両方が生き残り、他のゲルマン諸語ではどちらか片方だけになってしまったのかが気になるところだ。
参考文献
「Alewife (2), N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Alewife, N. (1)” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/alewife_n1?tab=etymology#7382410. Accessed 30 August 2025.
“Alewife, N. (2)” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/alewife_n2?tab=etymology#7169139. Accessed 30 August 2025.
キーワード:[folk etymology]