2025.8.27
alcohol は日本語にも取り入れられている「アルコール(飲料)」を表す語だが、この語義を獲得したのは1753年とされており、それ以前は異なる意味で用いられていた。alcohol の初出年は1425年以前とされており、語義は「金属の細かい粉末」であった(1819年に廃義)。その後、1543年から1812年まで「(粉砕・昇華によって生じた)微細な粉末」、1672年から1794年まで「精留して得たエキス」の意味でも用いられていた。1つ目・2つ目のような「細かい粉末」を表す語義はアラビア語の語源 al-kuḥl に関係している。al-kuḥl は「まぶたを着色する粉」を表し、アラビア語の定冠詞 al- と kuḥl から成る。kuḥl は英語にも kohl として借用されており、アラビアの女性などがまぶたを染めるのに用いるコール墨を表す。
英語を学習して初めて alcohol に出会ったとき、綴りも発音も「アルコール」ではなく h が入るのかと驚いたことを今でも覚えているが、この h はアラビア語の語源に遡ることが分かる。しかし、アラビア語から借用した中世ラテン語やそこから派生したロマンス語、そしてラテン語から借用した英語には複数の異形が見られた。『英語語源辞典』によると中世ラテン語の語形は <h> を含む alcohol であったとのことだが、OED によるとその他に alcool, alcol, alcofol などの語形が見られた。『英語語源辞典』によると中英語期の語形は alcofol で、<h> ではなく <f> が用いられているが、OED によると13世紀に見られたスペイン語の †alcofol, †alcofoll、あるいはカタルーニャ語の alcofoll の影響によるという。OED の語形欄によると <h> を含む綴字は16世紀から用いられている一方で、<h> のない綴字も17世紀まで見られ、<h> の有無で揺れながら現在の語形に定まっていったようだ。
参考文献
「Alcohol, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Alcohol, N.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/alcohol_n?tab=etymology#7409703. Accessed 27 August 2025.