2025.7.29
†agazed は「驚いて」を意味する形容詞で、『英語語源辞典』によると1425年以前に初出したとされ、1600年に廃語となった。中英語で「…を怖がらせる、驚かせる」を意味する動詞 agaste(n) の過去分詞 agast に由来し、agast から agas’d、agased に変形し、さらに agaze「凝視して」の影響で今の形になったものとされている。agaste(n) は強意の接頭辞 a- と古英語で「…をおびえさせる」を意味する gǣstan から成るのに対し、agaze は ‘on’ を意味する接頭辞 a- と「凝視する」を意味する gaze (一説によると古ノルド語で「…に注意を払う」を意味する gá を語源に持つ)から成るため、agazed と agaze に語源的な関係はなく、OED では gaze の agazed への影響を “folk-etymological association” と説明している。
中英語の agast から現代英語に残っている語として、「胆をつぶして」を意味する形容詞 aghast がある。こちらには語源にはない <h> が綴字に含まれているが、『英語語源辞典』によると <h> は15世紀前半にスコットランド方言で現れ、ghastly や ghost などの影響で1700年以降に一般化したという。ghastly「†恐怖を起こす;恐ろしい」「死人[幽霊]のような、青ざめた」は agast の語源の一部でもある古英語の gæstan を語源に持つ。ghastly の <h> は『英語語源辞典』によると Edmund Spenser の Faerie Queene (1590年) からで、現在の語形と「死人のような」の語義は ghost の影響によるという。ghost の古英語の語形は gāst、gǣst で、 gǣstan は gǣst から派生した。『英語語源辞典』では ghost の <h> はフラマン語(Flemish、ベルギー北部のフランドル地方で使用されているオランダ語)の gheest の影響である可能性が示されており、Caxton に初出し、16世紀末頃に一般化した。
中英語の agast から発達した agazed と aghast は、一方は語源とは関係ない agaze からの影響を受け、他方は同根語の ghastly や ghost と共に語源的ではない <h> が挿入された形で一般化した結果、どちらも中英語・古英語の語形とは離れてしまった。
参考文献
「†Agazed, Adj.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Aghast, Adj.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Gaze, V. & N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Ghastly, Adj. & Adv.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Ghost, N. & V.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“†Agazed, Adv. (& Adj.)” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/agazed_adv?tab=etymology#8655371. Accessed 29 July 2025.
キーワード:[folk etymology] [analogy] [Old Norse] [Flemish] [Caxton]