2025.7.10
advocate は名詞としては1325年以前から用いられ、「擁護者;代弁者」、「弁護士」を意味する。また動詞としての用法は1599年が初出で、「支持する」、「†弁護する」(1641年初出、1872年までで廃義)を意味する。古フランス語の advocat またはラテン語の advocāre の過去分詞 advocātus から借用され、advocāre は接頭辞 ad- と「…を呼ぶ」を意味する vocāre から成る(vocāre はさらに voice の語源でもある vōx に遡る)。中英語期にはこれらの <d> を持つラテン語・フランス語から借用された advocat の語形が既に用いられていた。しかし、『英語語源辞典』によると、初期の例では古フランス語の <d> を持たない avocat から借用した avocate が用いられており、14世紀半ばからラテン語と、ラテン語の影響を受けた古フランス語の影響で、<d> を持つ綴りが取り入れられた。英語に借用された時から古フランス語で <d> の有無に揺れがあったことが影響しているものと考えられるが、主に16世紀の現象とされてきた語源的綴字の中では比較的早くに起こった語と言えるだろう。
advowson は1300年頃に初出した名詞で、「牧師推薦権、聖職禄授与権」を意味する。中英語での語形は avou(e)son で、古フランス語の avo(u)eson から借用された。これはラテン語の advocāre から派生した advocātiōnem から発達したものである。つまり、advowson と advocate の派生語 advocation は二重語ということになる。advocation はラテン語から直接中英語期に借用されたため、英語では常に <d> の綴字を持っていた一方で、フランス語を経由した advowson は15世紀からラテン語の影響で <d> が挿入された。
ここまで13回にわたり、ラテン語接頭辞 ad- に関連して <d> が挿入された語源的綴字を取り上げてきた。多くは15・16世紀に <d> を含む綴字が用いられるようになったが、advocate のようにそれ以前から語源的綴字が用いられていた語、administer のようにラテン語および語源的綴字を用いたフランス語からの借用と、英語内部で起きた変化としての語源的綴字との境界が曖昧な語、また advance のようにラテン語には ad- がないにもかかわらず <d> が挿入された語や、admiral のようにラテン語の時点で語源にはない <d> が挿入されていた語など、<d> が挿入される時期や過程は語によって様々である。他の種類の語源的綴字についても調査することで、現象全体としての語源的綴字がどのように英語に取り入れられ、英語においてどのような意義を持っていたのかが明らかになるだろう。
参考文献
「Advocate, N. & V.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Advowson, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
キーワード:[etymological spelling] [ad-] [Latin] [French] [doublet]