2025.7.8
前回の記事で advance と advantage の <d> はラテン語の語源にはなく、ad- を語源に持つと誤解された結果挿入されたことを取り上げたが、英語には<adv-> で始まるラテン語の語源に沿った綴字も多く見られる。今回はそのうちの2語を取り上げる。
adventure は名詞での用法で1200年以前に初出したとされており、「†出来事」(1699年までで廃義)、「運」(1300年頃初出)、「危険」(1300年頃初出)、「冒険」(1300年頃初出)を意味する。中英語での語形は(古)フランス語から借用された aventure で <d> はなかったが、語源としては俗ラテン語で「起ころうとしていること」を意味する *adventūra、そしてラテン語で「…に来る」を意味する advenīre の未来分詞 adventūrus に遡る。advenīre は接頭辞 ad- と「来る」を意味する venīre が組み合わさったもので、同じ advenīre に遡る語には「降臨節」、「キリスト降臨」などを意味する Advent がある。『英語語源辞典』には <d> が挿入された語形は15世紀から16世紀にラテン語にならったフランス語の adventure の影響によるものであると説明されており、英語における語源的綴字はラテン語の語源だけでなく、フランス語における語源的綴字も関係していることが読み取れる。
advertise は1425年以前に初出とされており、「注目する」(1606年までで廃義)、「通知する、知らせる;周知させる」(1426年初出)、「警告する」(1490年初出)、「宣伝する」(1750年初出)を意味する。中英語からすでに advertise(n)、avertise(n) と <d> の有無に揺れが見られるが、借用元の古フランス語で「知らせる」を意味する a(d)vertir、およびその語幹 a(d)vertiss- でも <d> の有無で揺れていた。a(d)vertir は俗ラテン語の *advertīre から発達したもので、ラテン語で「注目する」、「言及する」を意味する advertere に相当する。advertere は英語の advert の語源でもあり、接頭辞 ad- と「回す、向きを変える」を意味する vertere が組み合わさったものである。『英語語源辞典』には、古フランス語の <d> を持つ語形はラテン語の影響によるものであると説明されており、古フランス語で語源的綴字が用いられつつもまだ揺れが見られた状態で英語に借用されたと考えられる。
「通知」(1426年初出)、「公示;宣伝」(1582-88年初出)を意味する名詞 advertisement もまた、『英語語源辞典』によると <d> に揺れがある(古)フランス語の a(d)vertissement から借用され、中英語での語形は a(d)vertis(e)ment であった。さらに、OED によると17世紀に <avertiment> の語形が見られ、イタリア語の avvertimento から借用されたものである可能性が示されている。
参考文献
「Adventure, N. & V.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Advert, V.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Advertise, V.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Advertisement, N.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/advertisement_n?tab=etymology#9717243. Accessed 8 July 2025.
キーワード:[etymological spelling] [ad-] [Latin] [French]