2025.6.26
admiral は12〜13世紀頃の初出とされており、初めの意味は「サラセン軍指揮者」(OED では “In Arabic and some other non-European countries: a ruler, military commander, or prince”)であった。その後1429年から「海軍指揮者、提督」、1588年から「旗艦」の意味が生まれた。『英語語源辞典』によると「旗艦」の語義はエリザベス朝で指揮官の位によって旗艦を Admiral、Vice-Admiral と呼んだ習慣に由来するそうだ。
中英語期から <d> を含む admiral と <d> を含まない amiral が使用されていたが、『英語語源辞典』によれば中英語期は amiral が優勢で、15世紀以降は admiral が定着した。ここまでを見ると admiral は昨日取り上げた administer と同様に接頭辞 ad- が含まれている語源的綴字のように感じられるが、実は admiral の語源に ad- は含まれていない。admiral の語源は『英語語源辞典』によればアラビア語の amīr-al(-bahr)「(海軍の)司令官」、OED によればアラビア語の amīr にラテン語の -ālis(フランス語を経由し、英語では -al となる)を組み合わせたもので、admiral の第1義と関連する。アラビア語から中世ラテン語に借用されると、ラテン語の admīrābilis(「賞賛すべき」を意味する admirable の語源)との類推によって、admirālis の語形になり、古フランス語の admiral を経由して中英語にもたらされた。ちなみに、『英語語源辞典』によると、17世紀の英語では「賞賛すべき」の意味を表す admirable の同義語として admiral も用いられたとのことで、それぞれの言語で admiral と admirable は近い関係であったようだ。なお、中英語における <d> を含まない amiral は、『英語語源辞典』によるとアラビア語から借用した古フランス語の amiral から借用したものとされている。
したがって、admiral に含まれる <d> はラテン語における admīrābilis からの類推、民間語源に由来することになる。英語において amiral から admiral に主流の綴字が変化したことはラテン語を参照したためであると考えられる点から、語源的綴字の範疇に入るとも考えられるが、<d> を持つ綴字は語源的に正しいものではない。しかし、中英語期から初期近代英語期の人々が、アラビア語の語源を知っていてなおラテン語を参照したのか、アラビア語の語源を知らずにラテン語を参照したのかは判明しておらず、調査する必要があるだろう。いずれにせよ、語源的綴字の中に admiral を位置づけるとしたら、何と呼ぶべきか悩ましいところである。
参考文献
「Admiral, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Admirable, Adj.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Admiral, N.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/admiral_n?tab=etymology#11281521. Accessed 26 June 2025.
キーワード:[folk etymology] [analogy] [Arabic] [Latin] [French] [etymological spelling] [ad-]