2025.6.20
一昨日6月18日に刊行された唐澤一友・小塚良孝・堀田隆一(著)『英語語源ハンドブック』にも掲載されている動詞 add を取り上げる。
『英語語源辞典』によると、add は中英語期の1380年頃に初出し、その語形は adde(n) であった。ラテン語で「人や物を別のものに移す」を意味する addere から借用され、接頭辞 ad- と「与える」を意味する dare を組み合わせたものである。当然ラテン語での語幹は dare の方であるが、中英語に借用された時点で既に adde(n) となっており、さらに語尾が弱化したことにより、現代英語 add では語幹であったはずの dare の影が非常に薄くなっている。『英語語源ハンドブック』の言葉を借りれば「英語では事実上このラテン語動詞[= addere ]の接頭辞の部分だけがとどめられた形になっている」(p. 5)。
ラテン語の dare はさらに印欧祖語の *do-「与える」に遡り、『英語語源ハンドブック』ではこの *do- を語根に持つ英単語が多数紹介されている。ネタバレしすぎない程度に挙げると、donation「贈与、寄付」、donor「寄贈者、ドナー」など「与える」の意味から連想しやすい語から、date「日付」、pardon「許す」、render「返す、描写する」、tradition「伝統 < 時代を越えて与えられたもの」、anecdote「逸話」などそんな語にも含まれているのか!と驚く語まで、1つの印欧祖語から様々な英単語に広がっている(ちなみに『英語語源辞典』の add の項は date にのみ言及している)。まさに『英語語源ハンドブック』のキャッチコピー通り、「基本語から広がり 深まり つながっていく!めくるめく英語の世界」である。『英語語源辞典』と『英語語源ハンドブック』を併用すれば鬼に金棒になりそうだ。
参考文献
「Add, V.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一『英語語源ハンドブック』研究社、2025年。