2025.6.14
「(におい・味が)強く鼻[舌]を刺す」、「辛辣な」の意味を持つ形容詞 acrid は1712年に初出し、ラテン語の ācer の女性形 ācris と接尾辞 -id が組み合わさったものである。ācer は ‘sharp, bitter’ の意味で、印欧祖語で ‘sharp’ の意味を表す *ak- に遡る(同じ印欧祖語 *ak- を起源に持つ語には、他に「⦅古英語で⦆(刃物の)刃」や「縁、へり」を表す edge などがある)。
-id はラテン語の動詞または名詞の語幹につけて状態を表す形容詞を造る接尾辞で、fluid、horrid、morbid などに見られ、フランス語の -ide またはラテン語の -idus (男性形)、-idum (中性形)、-ida (女性形) から借用された。しかし、acrid はラテン語やフランス語ではなく英語において-id が付けられた語である。『英語語源辞典』では acrid の語形になったのは acid の語源であるラテン語の acidus との類推によるものであると説明されている。また、OED によると -id そのものは14世紀末からフランス語やラテン語からの借用語を通して英語語彙の中に見られるようになったが、 acrid をはじめとする英語において -id を付加した語は16世紀頃から見られるようになった。後の時代にも nervid、polyplacid、rheid など英語における語形成として本来語やギリシャ語・ラテン語由来の基体に -id を付けたものが見られるが、英語における語形成として -id を使用するのは借用語を通して現れるよりも稀な事象であるようだ。acrid は acid からの類推でできた語形であり、接尾辞 -id を用いた数少ない「英製羅語」の一つであると言えそうだ。
参考文献
「Acrid, Adj.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「-Id (4), Suf.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“-Id, Suf. (1)” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/id_suffix1?tab=etymology#1106885. Accessed 14 June 2025.
キーワード:[analogy] [suffix] [Latin] [French] [Indo-European]