2025.6.12
「(努力して)獲得する、得る」の意味を表す動詞 acquire は中英語期の1450年以前から acquere(n) の語形で用いられ、古フランス語の aquerre から借用された。aquerre は俗ラテン語の *acquaerere から発達したもので、ラテン語の acquīrere に相当し、接頭辞 ac- と「手に入れるために求める」を表す quaerere が組み合わさった語である(同じくラテン語の quaerere を語源に持つ語には quest などがある)。
中英語の acquere(n) と現代の acquire を比べてみると <e> から <i> に綴りが変わっていることが分かる。中英語の <e> の綴字は借用元のフランス語 aquerre から受け継いだものだが、<i> を持つ綴字は語源であるラテン語の acquīrere に含まれている。『英語語源辞典』に16世紀にラテン語にならったものと注記されているように、<i> を持つ綴字は語源的綴字と考えてよいだろう。
実は acquire には <i> の他に、定着はしなかったものの別の語源的綴字が用いられていた時期があった。OED によると、16世紀には adquire の語形があり、また『英語語源辞典』には acquire の派生語 acquisition は中世ラテン語の adquīsītiō(n-) から借用され、中英語では adquisicioun と綴られていたことが記されている。この <ad-> の綴字は、ラテン語接頭辞 ac- が元は ad- であり、/d/ が後続する /c/ の音(今回は<q>で綴られている)に同化したものであるために、大元の語源 ad- を反映させたものだと考えられる。結局綴字上でも d が同化した <ac-> が標準となったが、16世紀頃には2種類の語源的綴字が含まれていた点で興味深い。
参考文献
「Acquire, V.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Acquire, V.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/acquire_v?tab=forms#24016987. Accessed 12 June 2025.
キーワード:[French] [Latin] [etymological spelling] [ad-] [assimilation]