2025.6.8
私が幼少期から愛する映画の一つに、スヌーピーで知られる Peanuts 初の長編映画 A Boy Named Charlie Brown (1969年公開) がある。主人公の少年チャーリー・ブラウンが、出題された英単語のスペルを口頭で答えるコンテスト Spelling Bee に向けて勉強しているときに、スペリングのルールについて歌うシーンがあるのだが、その歌は “I before E except after C.” で始まる。アメリカの英語教育でよく知られているスペリングのルールなのだろうが、今回取り上げる achieve はこの “I before E” に該当する語である。
『英語語源辞典』によると achieve は中英語期の1380年頃から acheve(n) の語形で用いられ、(古)フランス語の achever から借用された。ここまでの語源説明で、「中英語でもフランス語でも <ie> ではなく <e> ではないか!」と疑問が生じるが、更に読み進めていくとフランス語の achever は古フランス語で「頭(=終わり)に(やって来る)」を意味する (venir) à chief からできた語で(ラテン語にも同様の表現 ad caput venīre がある)、ラテン語接頭辞 ad- を語源に持つフランス語接頭辞 a- と chief が組み合わさったものであると説明されている。chief の語形の変遷を確認する必要があるようだ。
chief の中英語期の語形は chef であり、(古)フランス語の chef、古フランス語の chief から1300年頃に借用された。これらは俗ラテン語の *capu(m) から発達したもので、ラテン語の caput に相当する。中英語やフランス語の語形から見て取れるように、chief と chef はラテン語の caput から発達した二重語である(「コック長」を表す chef は1842年に初出した)。『英語語源辞典』によると、古フランス語の -ie- はアングロ・フレンチで12世紀に -ē- となり、この /eː/ の音が中英語に借入されて(大母音推移を経て)近代英語で /iː/ の発音となったが、綴字にはもとの <ie> が残ったという。chief における <ie> の綴りは古フランス語に由来するものと考えて良いだろう。Upward and Davidson によると、chief をはじめとする語で、英語において <ie> を含む綴字が見られるようになったのは16世紀とのことで(p. 105)、ラテン語やギリシャ語ではなく古フランス語(つまり、ノルマン方言ではなく中央のパリ方言)を参照したものではあるが、より権威がある言語・方言の語源の綴字を反映させるという点で語源的綴字と共通の動機があるように考えられる。
chief が古フランス語の綴字を参照して <e> から <ie> に変化したことは分かったが、achieve の(古)フランス語での綴字は『英語語源辞典』には <i> のない achever しか掲載されていない。OED の語源記述には “Anglo-Norman and Old French, Middle French achever, achiever, achiver” とあるので、古フランス語でも <ie> の綴字はあったと考えられるが、初期近代英語期に <ie> の綴字を持つ対応するフランス語を参照したのか、それとも英語における chief や他の <ie> で綴り直された語の影響で <ie> と綴るようになったのかは明らかではない。
参考文献
「Achieve, V.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Chief, N. & Adj.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Chef, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Achieve, V.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/achieve_v?tab=etymology#29281646. Accessed 8 June 2025.
Upward, Christopher, and George Davidson. The History of English Spelling. Wiley-Blackwell, 2011.
キーワード:[French] [Latin] [Great Vowel Shift] [doublet] [ad-]