2025.5.4
「どぎまぎさせる、恥じ入らせる」を意味する動詞abashは、中英語期からaba(i)she(n)、abe(i)se(n)の形でアングロ・フレンチのabaiss-から借用されて用いられている。アングロ・フレンチのabaiss-は古フランス語のe(s)baiss-に相当し、「~を非常に驚かす」を意味するe(s)baiss-の原形e(s)bair は、「外に、外へ」などを意味する接頭辞ex-と「あくびをする、口を大きく開ける」を意味するbaier、baerから成る。
借用元のフランス語では-ss-の形を取っているが、英語では-sh(e)の形に変化している。これについて、『英語語源辞典』ではpushを参照するように指示があり、pushの項には接尾辞-ish (2)を参照するようにとの指示とともに「-ss-の口蓋化」であると記述されている。
-ish (2)はフランス語系の動詞語尾で、finishやperishなどに見られ、元のフランス語の-iss-は原形に-irの語尾を持つ動詞の現在分詞や現在複数語幹として現れる。そして、口蓋化(palatalisation)とは、長音位置が(硬)口蓋に近づき、ここでは歯茎摩擦音の/s/が(硬)口蓋摩擦音の/ʃ/ に変化したことを指す。『英語語源辞典』によれば-ss-の口蓋化は1400年ごろまでに完了したという。また、口蓋化しなかった形はスコットランド方言で保たれ、16世紀に-eis(e)を生み出したと付け加えられている。
参考文献
「Abash, V.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Push, V.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「-Ish (2), Suf.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
キーワード:[palatalisation] [-ish] [French] [suffix]