2025.11.27
aperitif は「食前酒」を意味する一方、aperitive は形容詞で「†拡張性の」、「通じの効果のある」、名詞で「拡張剤;下剤」を意味する。語形の上では語尾が -if か -ive かの違いしかないが、2つの語の意味は随分異なる。しかし、この2語は二重語(doublet)の関係にある。
aperitif は1894年にフランス語の apéritif「食欲をそそるもの」から借用された。一方の aperitive も15世紀前半頃に同じく(古)フランス語の apéritif から借用されたが、『英語語源辞典』によるとここでの apéritif の語義は「開いている、(ひとみ・血管などが)膨張している」である。aperitif と aperitive の語義の違いは、フランス語からの借用時期とフランス語 apéritif の意味の違い(あるいは意味変化)によるものと考えて良さそうだ。なお、フランス語の apéritif は中世ラテン語の aperītīvus から借用され、ラテン語で「開く」を意味する aperīre に遡る。aperīre は「(…から)離れて」を意味する接頭辞 apo- と印欧祖語で「…を覆う」を意味する *wer- から成る。aperitive は体内の排便に関する部分が「開く」のに対し、aperitif は食欲が「開く」ということなのだろう。
『英語語源辞典』によると、aperitive はフランス語の apéritif から借用されると、中英語では apertif の語形で用いられたと記されているが、OED によると aperitive は apertive「下剤」(フランス語の apertif, -ive から借用)の、近代フランス語の語形の apéritif, -ive に倣った異形と説明されており、OED では英語としての apertif の語形は記録されていない。また、フランス語の -if, -ive の違いは文法性によるもの(-if は男性形容詞語尾、-ive は女性形容詞語尾)であるが、『英語語源辞典』や OED では -ive は英語の接尾辞として見出しになっているのに対し、*-if は見出しになっていない。『英語語源辞典』によると形容詞語尾 -ive はフランス語の -if, -ive またはラテン語の -ivus (男性), -iva (女性), -ivum (中性) からの借用とされており、中英語では -if, -ive の両方の語形が見られたようだが、ラテン語の影響もあって英語では -ive の語形で定着したのかもしれない。したがって、あくまでも仮説であるが、後期中英語期に形容詞・名詞として借用された aperitive は -ive の語尾を持つ一方、後期近代英語期に借用された aperitif は料理に関する語彙として、また aperitive との差別化が図れることもあって、フランス語の語形に沿ってそのまま -if の語形が用いられているのかもしれない。
参考文献
「Aperitif, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Aperitive, Adj. & N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「-Ive, Suf.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Aperitive, Adj. & N.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/aperitive_adj?tab=etymology. Accessed 27 November 2025.
“Apertive, Adj.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/apertive_adj?tab=etymology. Accessed 27 November 2025.
キーワード:[doublet] [suffix] [French] [Latin] [Indo-European]