慶應義塾大学大学院 文学研究科 英米文学専攻所属の寺澤志帆のホームページです。
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2026.7.6
「384. bear「産む」についてさらに深堀り」に続き、『英語語源辞典』の読み解き解説として、今回は beast を取り上げる。
『英語語源辞典』の beast の項目は次のように始まる:
beast n.⦅?a1200 Ancrene Riwle⦆動物;獣;野獣.♦︎ ME best(e) ▭ OF beste (F bête) < VL *besta(m) = L bēstiam beast.
beast の初出年が括弧内に示されており、定かではないが1200年以前(a は ante (= before) を意味する)の Ancrene Riwle という作品が初例とされている。その後に語義「動物;獣;野獣」が示されている。♦︎マーク以降は語源を説明している。beast は中英語期から見られる語であるため、まず中英語の主な語形 best(e) が掲載されている(ただし、中英語期は特に様々な異綴りが見られた時代であり、ここに示されているのはその中の一例であることに注意が必要である)。「▭」は借入を意味し、中英語の best(e) は古フランス語(OF = Old French、800年から1550年頃の(中央)フランス語)の beste から借用された。フランス語でも語形が変化しており、古フランス語の beste の後に近現代のフランス語の語形 bête が掲載されている。「<」は音法則的発達を意味し、古フランス語の beste は俗ラテン語(VL = Vulgar Latin)の *besta(m)(「*」は例証された語形ではなく、ここではラテン語からフランス語やイタリア語などの各ロマンス語に発達していく上で理論的に再建された語形であることを意味する)から発達したことが分かる。そして「=」は対応関係を表し、俗ラテン語の *besta(m) はラテン語(L = Latin、ここでのラテン語は紀元前75年から紀元後200年頃に用いられた古典ラテン語を指す)の bēstiam に対応する。語源についてはさらに注(♢の後)で、ラテン語の bēstia は印欧祖語の *dhwes-「息をする」にさかのぼる説があるものの不詳であることが述べられている。
『英語語源辞典』は一般的な学習用英和辞典とは異なり、語義が古い順に掲載されている。beast の語義は「動物;獣;野獣」の順に並べられており、初めは動物全般を表すために用いられていたことが分かる。「動物」を表す語は英語史上 deer → beast → animal と変化しており、『英語語源辞典』は beast について次のように解説している:
「動物」という広い意味では、語源的関係も一部に想定されている本来語 OE dēor ‘deer’ に代わって使われるようになったが、その後 ModE では animal に取って代わられ、用法が限定された:cf. man and beast, wild beast. AV では animal は用いられず、beast が人間以外のすべての生物に対する一般的名称だが、同時に wild beast の意にも用いられている。なお、animal の原義も「息をするもの」である。
語形について、『英語語源辞典』には中英語の語形として best(e) が掲載されているが、OED によると他にも beist(e), beyst, beest(e), beast(e) などの語形が中英語期に見られた。この中から <ea> を持つ綴字 beast が最終的に標準となった。<ea> の綴字は中英語では一般的に /ɛː/ の発音を表したと考えられており、大母音推移(Great Vowel Shift)を経て /ɛː/ → /eː/ → /iː/ へと変化し、現在の綴字と発音の関係になった。
参考文献
「Beast, N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Beast, N. & Adj.” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/beast_n?tab=forms. Accessed 6 July 2026.
キーワード:[yomitokikaisetsu] [semantic change] [Great Vowel Shift] [French] [Latin] [Indo-European] [Authorized Version]
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