慶應義塾大学大学院 文学研究科 英米文学専攻所属の寺澤志帆のホームページです。
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2026.1.27
『英語語源辞典』には2つの ash が見出し語となっており、どちらも古英語から用いられている英語本来語である。
1つ目の ash は「トネリコ」の意味で現代まで用いられているのに加え、古英語期から1700年まで「†トネリコ製の槍の柄;槍」の意味も表した。『英語語源辞典』には、後者の語義は古英語の叙事詩 Beowulf に初出例が見られて以降、OED では Shakespeare の Coriolanus 第4幕第5場108行目に至るまで約600年間の空白があったことが記されている。印欧祖語で「トネリコの木」を意味する *os- から *osko- に派生し、ゲルマン祖語の *askiz, *askaz に派生したと考えられている。ゲルマン祖語から発達した古英語の語形は æsċ, æscas で、古英語の <sc> は口蓋化(palatalisation)と歯擦化(assibilation)を経て [ʃ] の発音に変化していった。中英語期には assh(e), asse の他に、『英語語源辞典』には has の異形が掲載されている。
2つ目の ash は古英語から「灰、燃え殻」、「ちり、土」の意味で用いられ、13世紀頃から「(遺体を焼いた後の)灰、遺骨」、14世紀末から「[複数形で](顔面)蒼白」の意味で用いられている。印欧祖語で「燃える」を意味する *as- から *asg- に派生し、ゲルマン祖語の *askōn, *azgōn に派生したと考えられている。ゲルマン祖語から発達した古英語の語形は æsce, asce, axan で、中英語期には asshe, esshe, ask(e) などの語形が用いられた。OED によると中英語の aske の語形はイングランドの北部で用いられ、おそらくノルド語であるという(英語と同じくゲルマン祖語から発達した古ノルド語は aska)。
「トネリコ」を意味する ash と「灰」を意味する ash はそれぞれ異なる印欧祖語・ゲルマン祖語から発達したと考えられているが、古英語から既に語形が類似しており、中英語から近代英語にかけて同じ語形が標準として定着したことで同音異義語(homonymy)となった。
参考文献
「Ash (1), N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Ash (2), N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
“Ash, N. (1)” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/ash_n1?tab=meaning_and_use. Accessed 27 January 2026.
“Ash, N. (2)” Oxford English Dictionary Online, www.oed.com/dictionary/ash_n2?tab=etymology. Accessed 27 January 2026.
キーワード:[homonymy] [palatalisation] [assibilation] [initial <h>] [Germanic] [Indo-European]
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