慶應義塾大学大学院 文学研究科 英米文学専攻所属の寺澤志帆のホームページです。
慶應義塾大学大学院 文学研究科 英米文学専攻所属の寺澤志帆のホームページです。
2026.1.6
前回の arraign に引き続き、ar- から arr- の綴字に変化した語を3つ紹介する。
arrange は1375年の初出で、初めは「隊列を組ませる」の意味で用いられた。他の語義が現れるまでにはかなり時間が空いており、1796年に「協定する、了解する」、1802年に「整える、配列する」、1808年に「編曲する」、1865年に「準備する、手配する」の意味が現れた。『英語語源辞典』によると1800年頃までは arrange の使用はまれで、Shakespeare の作品や Authorized Version、Milton による詩や Pope にも用例がない。古フランス語の arangier からの借用で、arangier は接頭辞 a- と rangier「配列する」から成る。中英語期の主な語形は arenge(n) で、古フランス語と同じく ar- で綴られた。『英語語源辞典』は arr- の語形を近代フランス語の arranger と同じく「ラテン語式再構成」によるものとしている。フランス語接頭辞 a- がラテン語接頭辞 ad- を語源に持ち、ad- は後続する r に同化して ar- となることから、arrange も arr- で綴られるようになったと考えられる。
array は1325年以前の初出で、「(軍隊などの)隊列を整える」(1325年以前に初出)、「装う、飾る」(1325年以前に初出)、「整列[配列]する」(?1380年頃初出)、「†(食事などを)料理する、用意する」(1393年以前に初出、1508–13年で廃義)、「陪審員名簿に載せる」(1591年初出) を意味する。array は俗ラテン語で ar- と *rēdāre「…を与える」から成る *arrēdāre を語源に持つ(*rēdāre はゲルマン祖語(フランク語)の *raiðjan「整列させる」からの借用で、一説によると印欧祖語の *reidh-「乗る」に遡る)。俗ラテン語から古フランス語の areer, -oier に発達し、古フランス語に対応するアングロ・フレンチの ar(r)aier から英語に借用された。中英語での主な語形は ar(r)aie(n) で、アングロ・フレンチと同様に中英語期から <r> の数に揺れが見られた。
動詞の arrest は現在「…を逮捕する」の意味で主に用いられるが、初めに英語で用いられた語義は「†とどまる、…にある」(1375年以前に初出、1538年で廃義)であった。1375年に「引き留める」、?1380年頃に「†立ち止まる」(1483年で廃義)、?1383年に「逮捕する;差押える」、1481年に「(手で)捕える、つかまえる」の語義が現れた。ラテン語の ar- と restāre「とどまる、立ち止まる」から成る俗ラテン語の *arrestāre, *adrestāre を語源に持ち、そこから発達したアングロ・フレンチ、古フランス語の arester「立ち止まる」から借用された(ちなみに、現代のフランス語の語形は arrêter で <s> が脱落したが、英語では <s> が保持されている)。中英語期の語形は ar(r)este(n) で、既に <r> の数に揺れが見られる。
『英語語源辞典』には ar- と arr- で揺れが見られた語が加えて数語掲載されているので、次回以降の記事で取り上げていく。
参考文献
「Arrange, V.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Array, V. & N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
「Arrest, V. & N.」寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』研究社、1997年。
キーワード:[etymological spelling] [ad-] [assimilation] [Latin] [French] [Germanic] [Indo-European] [Shakespeare] [Authorized Version]
2025.12.23 RSSフィード生成サービスのドメイン名変更に伴うURL変更のお知らせ
2025.12.1 『英語語源辞典』でたどる英語綴字史の更新履歴を「Update History」に移行しました。
2025.12.1 RSSフィードを変更しました。
2025.10.17 Voicy 「英語の語源が身につくラジオ(heldio)」#1601. 英仏語のアルコール漬けの語源的綴字 --- 「英語史ライヴ2025」より camin さん,寺澤志帆さん,川上さんのラリーに出演させていただきました。
2025.10.14 Voicy 「英語の語源が身につくラジオ(heldio)」#1598. khelf 寺澤志帆さんと allay を語る --- 「『英語語源辞典』でたどる英語綴字史」よりに出演させていただきました。
2025.10.10 Voicy 「英語の語源が身につくラジオ(heldio)」#1594. 続・コーパスとは何か? --- khelf メンバー3名で議論していますに出演させていただきました。
2025.10.9 Voicy 「英語の語源が身につくラジオ(heldio)」#1593. khelf メンバー4人でコーパスを語る --- 「英語史ライヴ20205」よりに出演させていただきました。
2025.10.7 Voicy 「英語の語源が身につくラジオ(heldio)」#1591. 声の書評 by khelf 寺澤志帆さん --- 寺澤芳雄(著)『聖書の英語の研究』(研究社,2009年)に出演させていただきました。
2025.9.29 Voicy 「英語の語源が身につくラジオ(heldio)」#1583. alligator でワニワニパニック --- khelf 寺澤志帆さんと語るに出演させていただきました。
2025.7.7 本日発行のKeio History of the English Language Forum (khelf) 『英語史新聞』第12号 第1面に拙著「星を見ながら語源をめぐろう」が掲載されています。
2025.5.1 新企画「『英語語源辞典』でたどる英語綴字史」を始めました。
RSSフィードのリンク
記事タイトルのみの表示:https://politepaul.com/fd/TI5F8hEvgrRE.xml
更新日+HP名+記事タイトルの表示:https://politepaul.com/fd/TEKpmMa8sK6W.xml