研究テーマ

陸上植物と節足動物の関係性について研究しています。特に、その関係性を介在する植物の化学物質のふるまい・役割に着目して研究しています。

研究材料

カブやブロッコリーなどのアブラナ科植物、ホソムギやヘラオオバコなどヨーロッパの半自然草原に生育する草本、コガネムシやハスモンヨトウなどの植食性昆虫、ミミズなどの大型分解者など

Keywords

アブラナ科植物、誘導防御応答、グルコシノレート(からし油配糖体)、コガネムシ上科、植物と植食性昆虫の相互作用、植物と土壌の相互作用、植物の食害応答、バイオマーカーとしての脂肪酸


研究の詳細

1. 陸上植物の化学防御戦術の評価

 植物の成長や生殖などに必須な化合物を合成することを一次代謝といい、光合成に代表されるように、体外から取り入れた無機物・有機物から生命維持に必須な化合物が作り出されています。一方、一次代謝以外の化合物を合成することを二次代謝といい、その植物が環境に適応するために必要な化合物が二次代謝により合成されています。植物はさまざまな化学物質を合成し、さながら化学工場として機能しています。

 アブラナ科植物が作り出す二次代謝産物・グルコシノレート(からし油配糖体)は、マスタードやワサビの風味として、我々の食卓を賑わせてくれる化合物です。このグルコシノレートは、野外では病気や害虫から自身の身を守るために働いています。天敵に襲われても移動して逃げられない植物特有の身を守る術です。だとしたら、グルコシノレートを大量に生合成すれば、病気や害虫に負けない最強の植物になるのですが、そのような植物はこれまでに報告されていません。それはおそらく、一次代謝と二次代謝の間にトレードオフの関係があり、二次代謝産物を多く作ると、その分成長できなくなるという本末転倒なことになってしまうからです。そこで植物は、二次代謝産物の生合成量をほどほどに抑えて、その使い方をうまくやりくりしています。そのやりくりの仕方は、例えば、最適防御分配だったり、誘導防御応答だったりして、その詳細について研究しています。

関連研究

Touw, A.J., Mogena, A.V., Maedicke, A., Sontowski, R., van Dam, N.M. & Tsunoda, T. (2020) Both biosynthesis and transport are involved in glucosinolate accumulation during root-herbivory in Brassica rapa. Frontiers in Plant Science, 10, 1653

Tsunoda, T., Grosser, K. & van Dam, N.M. (2018) Locally and systemically induced glucosinolates follow optimal defence allocation theory upon root herbivory. Functional Ecology, 32, 2127-2137

Tsunoda, T., Krosse, S. & van Dam, N.M. (2017) Root and shoot glucosinolate allocation patterns follow optimal defence allocation theory. Journal of Ecology, 105, 1256-1266

2. 環境保全型農業における生物の役割の評価

 持続可能な開発目標(SDGs)で多くの目標が掲げられたように、気候変動緩和や生物多様性保全に対応することが、さまざまな事業活動に求められる時代になりました。農業活動における慣行的な管理は、炭素排出を促進し生物多様性を減少させるものでした。しかし、その管理手法を改めることにより、農地管理が気候変動緩和や生物多様性保全に寄与し、解決策となる可能性があります。農地の管理は土壌における複雑なプロセス(母岩・気候・土壌生物など複数要因が相互作用する複雑なプロセス)を理解する必要があるので、その土地での研究が求められます。

 植物の二次代謝産物の中には、人間の健康に直接的に作用するものもあります。例えば、グルコシノレートの仲間ではスルフォラファン・グルコシノレートに抗癌作用が見られます。二次代謝産物は、上述の通り病気や害虫への防御手段なため、栽培環境によって濃度や組成が変化します。一般的に、農地の生物量が多いと考えられる有機栽培で、二次代謝産物の濃度は高くなります。つまり、気候変動緩和や生物多様性保全に寄与する農地管理は、人間の健康により良い作物の生産にも貢献できるかもしれず、この可能性・メカニズムについて研究しています。

関連研究

金子信博, 井上浩輔, 南谷幸雄, 三浦季子, 角田智詞, 池田紘士 & 杉山修一 (2018) 有機リンゴ圃場の土壌動物多様性—慣行リンゴ圃場および森林との比較—. Edaphologia, 102, 31-39

Tsunoda, T. & van Dam, N.M. (2017) Root chemical traits and their roles in belowground biotic interactions. Pedobiologia, 65, 58-67


土壌動物が土壌を改変する様子

フトミミズの仲間(画面左)とコガネムシの仲間(画面右)の土壌改変機能の違い。一時間ごとに撮影した画像をつなげ、3週間程度の変化を可視化した。フトミミズは表面の落ち葉(土壌有機物)と土壌を混ぜ合わせ、土壌団粒(土壌のつぶつぶ構造)を著しく発達させた。ミミズが作り出す団粒は、土の中の炭素貯留量を長期的に増加させるとともに、植物の成長を促進する機能があることが知られている。一方、コガネムシの仲間が活動する範囲は、主に土壌有機物ないにとどまっており、団粒構造や炭素貯留量への影響がどの程度あるかはよくわかっていない。土壌を耕す慣行農法では、耕されることによりミミズは排除されてしまうため、耕さない農地の管理手法でのみ、土壌団粒を作り炭素を土壌に蓄えるミミズの生態系機能を利用できる。

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3. 森林の管理手法の違いが炭素貯留と食物網に与える長期的影響の評価

 日本の国土の3分の2は森林に占められています。このため、樹木が森林に炭素を貯留する役割は、国内の炭素収支を理解する上で無視できません。日本の森林が受ける主要な撹乱は台風による風倒で、風倒が生じた森林では、慣例的に倒木が搬出されてきました。しかし、この管理は森林の炭素プールを減少させたり、そこに生息する生物に影響したりしている可能性があります。倒木のような大きな生物遺骸は、長い時間をかけて分解されるので、倒木の搬出の影響を理解するには、長期的影響の検討が必須です。そこで、国内の研究者と共同して、森林の管理手法の違いが、炭素貯留とそこに生息する生物に及ぼす長期的影響を評価しています。特に、1959年の伊勢湾台風で生じた風倒木が操作された亜高山帯をフィールドとして研究しています。


関連研究

Tsunoda, T., Hyodo, F., Sugiura, D., Kaneko, N. & Suzuki, S.N. (2019) How can we quantitatively study insects whose larvae live beneath the forest floor? A case study at an experimental long-term log-removal site in Japan. Entomological Science, 22, 275-282

Suzuki, S.N., Tsunoda, T., Nishimura, N., Morimoto, J. & Suzuki, J.-I. (2019) Dead wood offsets the reduced live wood carbon stock in forests over 50 years after a stand-replacing wind disturbance. Forest Ecology and Management, 432, 94-101


4. 全球的な生物多様性や生態学の課題解決を目指した共同研究

 日本国内の生物にどのような特徴があるか理解するためには、海外との比較も不可欠です。そこで、かつて博士研究員をしていたドイツ生物多様性研究センターがまとめる幾つかのプロジェクトに日本から参加し、国際共同研究を進めています。


関連研究

https://conyzaiconnect.wixsite.com/iconnect

https://www.idiv.de/en/soilfauna.html

Christoph Rosche, Isabell Hensen, Adrian Schaar, Uzma Zehra, Marie Jasieniuk, Ragan M Callaway, Damase P Khasa, Mohammad M Al‐Gharaibeh, Ylva Lekberg, David U Nagy, Robert W Pal, Miki Okada, Karin Schrieber, Kathryn G Turner, Susanne Lachmuth, Andrey Erst, Tomonori Tsunoda, Min Sheng, Robin Schmidt, Yanling Peng, Wenbo Luo, Yun Jaeschke, Zafar A Reshi, Manzoor A Shah (2019) Climate outweighs native vs. nonnative range‐effects for genetics and common garden performance of a cosmopolitan weed. Ecological Monographs, 89, e01386