LECTURE
【前期Sセメ・総合科目】アドバンスト理科IIIα
アドバンスト理科とは、新興分野における最先端の研究成果を含む高度な内容を、単なる話題提供ではなく、基礎から積み上げてシステマティックに教える新しい講義です。 受講者を20名程度の意欲あふれる学生に制限することで、演習や討論を含めたインタラクティブな授業を行ないます。そのため、ガイダンス時に行われる選抜試験に合格する必要があります。【連絡事項】 ガイダンス後の選抜結果は、1週間以内に 先進機構HP と シラバス に掲載されます。
【科目名】アドバンスト理科 IIIα 【講義題目】物理学による生命の記述
【開講時限】2023年Sセメ、金曜2限(10:25-12:10)※Aセメは本年度より新規開講する「研究入門」のため開講しません
【講義室】21KOMCEE West K402
【講義形式】オンライン授業等におけるグッドプラクティス総長表彰を受賞しました!(2021年3月)
本オンライン講義は、授業前までに予め録画された講義動画を視聴し、授業時間中にはその内容に関する質疑や学生間での議論・発表を行う反転授業形式で実施しています。併用するSlackでは、授業内容だけでなく、関係する論文やセミナー情報についてもやりとりします。さらに、Slackにはこれまで本講義を受講した約90名の学生も継続して参加しており、横と縦のつながりもできます。
【講義の概要・目標】「生命の神秘」を見たとき、それを物理学で説明できたならば、その「神秘さ」は失われてしまうでしょうか。あるいは、「物質の神秘さ」をもたらすでしょうか。皆さんの答えがそのどちらであったとしても、生命現象の根底には数多くの物理法則が存在しています。例えば、細胞運動ではタンパク質溶液の液体-固体相転移(ゾル―ゲル相転移)やタンパク質の反応拡散波が鍵となっています。また近年、細胞内ではタンパク質や核酸が会合した液滴を形成し、それが膜を持たないオルガネラとして機能することが分かってきました。相分離と呼ばれるこの現象の原理は、ドレッシングにみられる水と油の分離と同じものです。しかし、理論的に記述できる試験菅中での相分離や相転移と細胞内での振る舞いには違いがあり、説明できない点も多く存在します。こうした溝を埋めるべく、生物学と物理学が協力して研究を展開してきています。本講義では、物理学で説明できる(はずの)物質と生物の境界を明確化することで、現在の物理学で説明できる「物質の神秘さ」や説明できない「生命の神秘さ」を味わうことを目指します。そのため、物理学は得意ではないけれど好きな生物学を極めたい、あるいは、生物学は得意ではないけれど物理学を極めたい、という学生さんを歓迎します。異なる視点から議論することで、新たな面白さを知ると共に、(進フリに重要な)自身の興味を明確化できるはずです。
【講義の内容】本講義の前半では、複雑な細胞を物理的に捉えるための見方について説明します。その後、細胞・分子・生物組織とスケールを変えながら、力学や熱力学、統計力学の知識を総動員して、生命を特徴付ける「生物の形、物質の移送、運動」といった現象について物理的に表現します。さらに、物質である人工細胞と生細胞を実際に観察したり、マイクロキャピラリーと呼ばれる非常に細いガラス管やレーザーピンセットを用いて人工細胞を直接操作したりすることによる、生物らしさの体験も行います。
【履修者へのメッセージ】(物理が好きな人)複雑な生命現象や、細胞を構成する柔らかな材料系(ソフトマター)にも、一貫性を追求する 物理学的な面白さがあること、(生物が好きな人)物理学の対象であった物質間の相分離が細胞内において生じるだけでなく生命機能においても重要となることが最近分かるなど、物理学を知ることで生命科学を切り開く新たな視点を得られることを、知って頂きたいです。
【履修者からのメッセージ1】私は入学当初、生物物理についてほとんど何も知りませんでした。その中でこのアドバンスト理科の授業案内を見て、生命現象が物理的に理解できるということに興味をそそられました。授業はただ説明を一方的に聞くものではなく、予め配信される説明動画を見て授業当日は質疑や議論を主に行うもので、一般的な授業よりも主体的に学ぶことができたと思います。この授業を通して、特に私は細胞内相分離に興味を持ち、将来的にも生物物理の分野の研究をしたいと思うようになりました。コロナ下ということでオンライン授業が多いとは思いますが、双方向的に生物物理について知ることのできる、私の一推しの授業です。(2020年Sセメ受講:理科一類1年 増田和俊)
【履修者からのメッセージ2】細胞分裂や分子輸送をはじめとして、「イキモノらしさ」をもたらす現象は様々な物理法則によって支配されています。この授業では、近年注目を集めている相分離や非平衡物理学にフォーカスを当て、生物と非生物を隔てるものを探ります。オンライン授業の特徴を活かし、事前に40分程度の短いビデオで予習した後、授業時間は疑問点の解消や発展的な内容に取り組みます。優三割規定も存在しないため、ストレスなく満足いく学習が可能です。(2020年Sセメ受講:理科一類2年 (2021年4月現在, 理学部物理学科3年) 王方成)
【履修者からのメッセージ3】最初は名前のかっこよさと生物系への興味で参加し、“生物物理”という分野への知識は全くありませんでしたが、講義を通してその分野の面白さを痛感し、生物物理若手の会という生物物理学会の学生団体に参加したり、2022Aセメでは自主的に柳澤研究室にて研究をしたりするようになりました。また、講義を聞いて質問を考え、ディスカッションもするという形式は、講演会・学会などでもすごく役立っています。ぜひ、積極的に参加してください。(2022年Sセメ受講:理科三類1年富澤新太郎)
【参考書】細胞の物理生物学,Rob Phillips 他, 共立出版 [リンク] (※教科書ではないので購入不要)
【参考サイト】シラバス, 先進科学研究機構のHP
【前期Aセメ・基礎科目】研究入門
2021年Aセメスターより、新たに基礎実験I, II (物理)に対応するアドバンスト科目として開講します。【科目名】基礎実験I(物理)α, 基礎実験II(物理)α 【講義題目】研究入門
【開講時限】受講者と相談して実施します
【歴代受講者のテーマ】
2021Aセメ:1名
マイクロ流路デバイスを用いた人工細胞の大量作製と膜タンパク質再構築と細胞間輸送2022Aセメ
リポソームの膜内濃縮機構の解明マイクロ流路デバイスを用いた細胞内相分離の再現と原理解明【前期Aセメ・総合科目】生物物理学
【開講時限】2021年Aセメ・月曜5限(17:05-18:35)
第1回~第3回 新井宗仁 (タンパク質の立体構造形成や機能発現機構、タンパク質の理論的研究や病気との関わりなどの理解を通して生命を理解する)
第4回~第6回 矢島潤一郎 (バイオナノマシンを例にとり、タンパク質の物性や振る舞いから生命らしさを理解する)
第7回~第9回 石原秀至 (流れや拡散の背後にある力学や確率性をベースとして、細胞や細胞集団が示す様々な生命現象の理解を目指す)
第10回~第12回 柳澤実穂 (細胞膜の構造や形態変化、相分離に伴うパターン形成に対し力学や熱統計力学の観点から理解し、定量的測定法や構成論的な生命現象へのアプローチ法を学ぶ)
【後期Sセメ・総合科目】バイオ・ソフトマターの物理
理論(石原先生・池田 先生)と実験(柳澤)の両面から、生物を含む柔らかな材料系(ソフトマター)の面白さを伝えます。【開講時限】2021年Sセメ・火曜1限(8:30-10:00)
【担当者】池田昌司 ・石原秀至 ・柳澤実穂
【講義の概要・目標】ディスプレイに使われる液晶や食品に含まれるゲル、我々自身を含む生物は、共通して柔らかな(ソフト)性質を持つ。こうしたソフトな物質を構成する高分子やタンパク質などを、一般にソフトマターと呼ぶ。本講義では、ソフトマターが示す多様な相転移や物性を物理的に理解するための理論的枠組みについて解説する。またソフトマターは我々の身の周りに多く存在することから、その理論を適応可能な実例とその限界について紹介する、というスタイルで講義を進める。
講義の前半では、はじめに液晶を取り上げる。液晶とは、細長い高分子が同じ向きに揃っている状態(相)であり、相転移によって現れる。液晶を用いたディスプレイの動作原理の背後には、フレデリクス転移という現象がある。これらの転移現象を、対称性や熱力学に基づいて理解することで、ソフトマターの基本的な考え方を学んでいく。続いて、高分子(棒状/紐状分子)や高分子集合体である膜の物性について、その変形や力の釣り合い(Young-Laplace則)、弾性的性質、座屈現象について学ぶ。これらは、例えば液滴や泡などの安定性や、生物細胞の形態やDNAの折り畳みなどを考えるときにも重要な要素となる。
講義の後半では、相転移・相分離の物理を議論する。我々の身の回りでは、水が氷になるなど、様々な一次相転移(不連続な相変化)が起こっている。講義の前半で学ぶ液晶の配向相転移もその一例である。一次相転移による系の変化は、時間的に一瞬で終わるものではなく(水は一瞬では氷にならない)、実際には徐々に新しい相が形成されてゆく。この過程で相がドメイン構造をなし、魅力的なパターンが出現する。この講義では、統計力学の初歩的な知識から出発して、この相転移・相分離の動力学過程がいかに物理的に理解されるかを解説する。その後、水や高分子溶液の液体-固相転移、高分子混合系や近年注目されている細胞質の液液相分離などを例に、こうした物理的枠組みが適応できる領域と、できないが故に解決すべき課題について紹介する。
【前期SAセメ・総合科目】UBI全学ゼミ:生命の普遍原理に迫る研究体験ゼミ
2019年Aセメ(1名受講:細胞サイズでの液液相分離現象)
2020年Sセメ(コロナウィルス感染症のため開講せず)
2020年Aセメ(1名受講:人工細胞中でのクマムシ・タンパク質の相分離)
2022年Aセメ(2名受講:イカ神経の液晶性)
その他の担当講義
【Sセメスター・Aセメスター】
UBI 全学自由研究ゼミ「生命の普遍原理に迫る研究体験ゼミ」
【Aセメスター】
2019A,2020A:生命科学概論(オムニバス講義)
2019A,2021A:物質科学概論(オムニバス講義)
2019A,2020A,2021A:統合生命科学実験II
2021A:物質科学セミナーII(輪読の予定)
アウトリーチに関するセミナー等
2023年3月30日:物理学会Jrセッション授賞式,講演
2020年9月19日:KEK理系女子キャンプオンライン企画