◆免荷療法活用促進のための教育プログラム(プログラム概要)
東京大学医学系研究科医学教育国際研究センター 医学教育国際協力学では、「免荷療法活用促進のための教育プログラム」を開発しています。
【対象】下肢創傷治療に関わる医師・看護師・理学療法士・作業療法士・義肢装具士などの医療専門職
【受講形式】施設単位の多職種勉強会
【学習時間】1ヵ月あたり平均1時間半~2時間程度
【受講期間】3~4か月程度
【学習内容】本教育プログラムは、以下の3つのパートから構成されています。
I. 総論編(全職種共通): 免荷療法についての共通知識・認識の獲得を目的とした、全職種対象のオンデマンド教材と確認テスト
II. 実践編 (業務別選択) : 職種や施設のニーズに合わせて選択が可能な、免荷療法業務についてのオンデマンド教材と個別ワーク
III. 多職種連携実践編 (全職種参加型ワークショップ) : 自施設で免荷療法を円滑に活用するための多職種連携実践能力の向上を目的としたワーク*
*双方向型オンラインワークと、講師がモデレーターとしてご施設を訪問して実施する対面式ワークの実施を予定しています。
【プログラム全体像】
本ホームページで公開している講義資料は【I. 総論編】のものです。
【II. 実践編】は、個別ワークの確認が必要であること、また【III. 多職種連携実践編】は、講師がモデレーターとして施設に訪問して行う対面式ワークショップが含まれるため、プログラム効果検証研究に参加し、全編の受講登録をして頂いたご施設にのみの提供となります。
※プログラム内容は2024年8月時点のものです。各種フィードバックの反映および参加施設の状況によって一部変更となる可能性がございます。
本教育プログラム全編を 受講頂けるご施設さまを募集しています。
(募集期間:本プログラムの第1回募集は締め切らせて頂きました)
本教育プログラムは、日本フットケア・足病医学会の補装具委員会が実施した「下肢創傷処置・管理業務と免荷療法に関する意識・実態調査」と「義肢装具事業所における足部創傷用免荷装具に関する意識・実態調査」のデータ二次利用申請を行い、貸与されたデータを用いて開発したものです。
※補装具委員会による調査および調査結果、およびデータの二次利用については、日本フットケア・足病医学会のホームページをご覧ください。
◆患者のニーズに対応できていないと感じる業務No1は「免荷療法」
令和5年の日本フットケア・足病医学会補装具委員会の調査において、下肢創傷処置管理料加算における治療計画チェックリストに含まれる業務のうち、患者ニーズに対応できていないと感じる業務としてもっとも多くの医師・その他の医療専門職が選んだ業務が「免荷療法」でした。
免荷療法提供の障壁としては、装具の価格や保険制度など、多くの是正困難な要因が挙げられていた一方、対象患者さんへの指導の重要性や医療専門職の認識・知識不足など、教育によって是正可能とみられる要因も挙げられていました。
それでは、教育によって免荷療法の活用を促進するためには、どのような教育プログラムが必要なのでしょうか?
◆免荷療法に対する施設メンバーの認識が不均一、関与が足りない
免荷療法に関する意識調査では、以下のような回答が多く認められました。
自分は免荷療法に積極的に取り組みたいと思っているものの、自施設内の他の職種や医師が免荷療法に積極的ではない
より免荷療法を円滑にするためには自施設内のPT/OT、看護師等、他の施設内メンバーにもっと積極的に免荷療法に関与してもらうことが必要
学会や研修会など、さまざまな免荷療法について学ぶ機会があるものの、施設の一部の人が学ぶだけでは、この溝は埋まりにくいことが想定されます。
かといって施設メンバー全員で一緒に研修会や学会に参加することは非常にハードルが高く、また研修会で学んだ先生が、メンバー1人ひとりに教えることも労力的に難しいことでしょう。
そのため、免荷療法に関わる施設メンバー全員が、統一した認識・知識を「簡単に」、「一緒に」学べる教育プログラムが必要と考え、すべての職種を対象としたオンデマンド教材「I. 総論編」を作成し、今回、本サイトで公開する運びとなりました。
◆チーム構成が一様でないため、提供できる免荷療法は施設によって異なる
施設単位の実態調査からは、下肢創傷処置に携わるチームメンバーの専門や職種、人数は施設によってさまざまであることがわかりました。
また、義肢装具士が在籍している施設はわずか4割にとどまっていたことから、実施可能な免荷療法の種類は施設によって異なっていることが想定されました。
さらに実際の免荷療法提供においては、職種による担当業務の違いもあるため、必要とされる知識や技術は「施設ごと」に、そして「職種ごと」に違うことが考えられます。
そのため、業務レベルの知識や実践については、自施設に必要な業務だけを、また各職種の担当業務だけを選択して学ぶことができるようにすることで、受講効率を向上させることができると考えました。
そこで、免荷療法提供の流れを細分化した業務別の「ジョブ型」とし、施設や職種のニーズに応じて選択できる「II. 実践編」の教材を現在作成中です。
◆「円滑な免荷療法提供」と「高い多職種連携実践能力」に関連の可能性が
そして複数の専門・職種で免荷療法に関わる業務を分担するためには、業務連携が必要となります。
補装具委員会調査のデータを用いたサブ解析の結果から、免荷のニーズに対応できていると回答した施設の方が、ニーズに対応できていないと回答した施設よりもチーム内の連携が十分にできていると回答した割合が高いことが明らかとなりました。
また別に実施された義肢装具士の多職種連携実践能力調査においても、下肢創傷分野に関わっている義肢装具士の方が、下肢創傷分野に関わっていない義肢装具士よりも多職種連携実践能力のスコアが高いことが認められています。
そのため、免荷療法提供を円滑に行うためには、専門職の知識や技術の向上だけではなく、個々の多職種連携実践能力の向上も必要であることが推察されたことから、今後は「III. 多職種連携実践編」の作成を予定しています。
東京大学医学系研究科医学教育国際研究センター 医学教育国際協力学では、免荷療法の活用を促進するための教育プログラムに必要な要素を以下の3つと仮定し、免荷療法活用促進のための教育プログラムを作成しています。
【仮定1】:施設の一部の人だけではなく、同じ施設の免荷療法に関わるすべての職種が一緒に学べるものであること。
【仮定2】:施設や職種の担当業務のニーズに応じて、取捨選択できるものであること。
【仮定3】:専門職としての知識・技術の習得に加え、多職種連携実践の知識・技術の向上を図ることができるものであること。
プログラム効果検証研究の一環として
本教育プログラム全編を 受講頂けるご施設さまを募集しています。
(募集期間:本プログラムの第1回募集は締め切らせて頂きました)
◆本教育プログラムで採用した多職種連携教育のフレームワーク
さいごに、本教育プログラムで採用した多職種連携教育のフレームワークについて、ご紹介します。
イギリスの多職種連携教育の大家であるHugh Barr は、専門職間の連携協働が円滑に機能するためには、以下の3つの基盤(コア)コンピテンシーが必要と述べています。
全ての専門職が必要とする共通能力 (Common)
他の専門職を補完できる専門職能力(Complementary)
他の専門職種と協働するために必要な協働的能力(Collaborative)
Barr H. Informa UK Ltd UK; 1998;12(2):181–7
本教育プログラムでは、免荷療法活用のために必要と仮定した教育要素を、Barrが定義したコンピテンシーに沿って構成しました。
Common=【I. 総論編】免荷療法提供に関わるすべての職種の方々に共通して必要と考えられる知識・認識を学ぶオンデマンド教材
Complimentary=【II.実践編】各職種/業務/役割に応じて、選択して学習できる選択式オンデマンド教材
Collaborative=【III.多職種連携実践編】これらの業務を複数の職種で円滑に提供するための多職種連携ワーク
各パートの詳細は本ページの上部に記載していますので、ご参照ください。
さいごまで、お読みいただきまして有難うございました。
これらの3つのパートから構成された教育プログラムに、免荷療法活用促進の効果があるのか、今後の検証が必要です。
免荷療法に取り組みたい、免荷療法の提供についてより改善したいと願っているご施設の方は、ぜひ、本教育プログラム全編の受講し、効果検証研究へのご協力をご検討頂きますようお願い申し上げます。
SPECIAL THANKS
本教育プログラムは、令和5年「下肢創傷処置・管理業務と免荷療法に関する意識・実態調査」と「義肢装具事業所における足部創傷用免荷装具に関する意識・実態調査」データから個人情報を削除したデータの貸与を受けて作成しています。
調査に参加して頂いた日本フットケア・足病医学会、および日本義肢協会の会員のみなさま、ならびに、調査を実施した補装具委員会の皆さまに感謝申し上げます。
日本フットケア・足病医学会補装具委員会
委員長:菊池恭太(Dr)/ 副委員長:上口茂徳(PO)/ 担当理事:門野邦彦(Dr)委員:木下幹雄(Dr)/ 泉有紀(米国足病医)/ 久保和也 (PT) / 柿花隆昭 (PT) / 大塚未来子(PT)/ 坂井一浩 (PO) / 砂田和幸(PO) / 田村知之(PO)
また【I.総論編】の作成に際し、以下の皆さまのご協力を頂きました。心より感謝申し上げます。(敬称略)
下北沢病院:久道勝也理事長(Dr) / 菊池恭太院長(Dr)/ 菊池守(Dr)/長﨑 和仁(Dr) / 富田益臣(Dr)/ 高田研(Dr) / 高岡聡美(Dr)/ 岡本貢一 (PT) / 坂下真(PT)/ 栗原千晶(OT)/ 奈良麻衣子(Ns)
春日部中央総合病院:寺部雄太(Dr)/ 榊聡子(PT)
日本フットケアサービス株式会社:大平吉夫(PO)/ 上口茂徳(PO)/ 名和大輔 (PO)
アルケア株式会社:佐藤弘子(Ns)/ 須田衣里(Ns)
Dr:医師 / PT:理学療法士 / OT:作業療法士 / PO: 義肢装具士 / Ns:看護師
本教育資材は、東京大学医学部・研究科倫理委員会の承認を受け(承認番号:2023095NI)、「足潰瘍に対する免荷療法活用促進を目的とした多職種連携教育プログラムの開発とその効果検証」を目的として開発されたものです。
東京大学医学系研究科医学教育国際研究センター 医学教育国際協力学(ICME)ホームページへ