我々のグループでは、中間赤外線による天体観測、特に地上望遠鏡による中間赤外線モニタ観測によって、宇宙に漂う個体微粒子(ダスト)を観測し、物質輪廻や星惑星系形成の様子を明らかにしていきます。
宇宙空間では水素・ヘリウム以外の重い元素の大半は個体微粒子の形で存在します。これらは惑星の原材料であり、原始惑星系円盤の中で様々な変性進化を受け、惑星へと進化すると考えられています。したがって原始惑星系円盤(残骸)での個体微粒子を詳しく調べれば、そこには惑星形成の歴史が刻まれているはずです。実際、個体微粒子の詳細な研究から惑星誕生史を知る試みは、地球惑星科学の分野で盛んに行われており、太陽系形成史の解明に役立てられています。
近年、多くの惑星が太陽系外に見つかっています。驚くべきことに、このような系外惑星たちは見慣れた太陽系の惑星とは大きさや位置が大きく異なっています。系外惑星の成り立ちを知り、その多様性を理解するには、太陽系内と同じく物質的進化の理解が欠かせません。遠く離れた惑星系の物質は直接手にとって研究することはできませんが、高精度の赤外線観測を行うことによりそれが可能となります。
また、惑星形成での個体微粒子の変性を知る上では、その元となった宇宙のダストの成り立ちを理解することも欠かせません。宇宙のダストは恒星の進化末期に形成すると考えられていますが、その量や物質的特徴も多くの謎に包まれています。
これらを総合的に理解し、個体微粒子の観点から地球、ひいては我々の成り立ちを知る、これが我々の研究の最終目的です。
[中間赤外線での天体観測]
中間赤外線(熱赤外線ともいう)は100-1000Kあたりの温度領域をよくトレースし、また個体微粒子起源のフィーチャが多数存在するため、星の周りを観測するのに適した波長帯です。しかしながら、この波長で地上から宇宙を見ると、大気の放射が非常に明るく、天体観測は容易ではありません。そのため、より短波長な光である可視光や近赤外線と比べて観測は立ち遅れています。
中間赤外線の観測で最も問題になるのは大気透明度です。東京大学ではチリアタカマに赤外線天文台TAOの建設を進めています。TAOは世界最高標高にある天文台であり、赤外線での大気透明度も世界最高です。我々のグループでは、このTAO望遠鏡用の中間赤外線観測装置の開発を進めています。この装置は3-38ミクロンという中間赤外線の広い領域をカバー可能です。特に28-38ミクロンは地球上でTAOだけが観測可能な波長となります。
[時間変動観測]
天体の時間変動を記録するモニタ観測は、通常のスナップショットでは得られない情報を得ることが可能で、現在最もホットな観測研究分野の一つです。従来モニタ観測は主に可視近赤外線波長で活発に進められており、電波やX線でも多くの成果が挙げられています。一方、中間赤外線でのモニタ観測はあまり行われてきていませんでした。これは上述の通り観測体制が未整備であることに加え、大気の影響が激しく、地上望遠鏡では精度の点で不安があったからです。(衛星望遠鏡では3-5ミクロンでは時間変動観測が進んでいますが、10-40ミクロンでは観測機会の観点からあまり研究例はありません)
我々は、この状況を打開すべく、2視野同時観測システムを開発しました。これを用いれば大気変動の影響をリアルタイムで除去できるため、従来の数倍の精度が達成可能となります。またTAO望遠鏡は大学望遠鏡であり、モニタ観測や突発天体観測のようなイレギュラーな観測にも対応が可能です。我々はこれらを用い、世界に先駆け「中間赤外線時間軸天文学」を切り開いていきたいと考えています。
これら研究に興味がある方はこちらまでご連絡ください