自己制御、創造性、社会性、動機付け、レジリエンスのような個人の心理特性(パーソナリティ、非認知特性等)は、パフォーマンス・成功等にも関与の大きな個人要因として、国際的に注目されています。たとえばいわゆる非認知特性は、長期的な成功や適応、組織の円滑な運営等に貢献する要因と考えられており、その簡便かつスケーラブルな測定法が求められています。
心理特性を測定するために標準的に用いられる方法は、段階的選択肢から当てはまる程度を選択させるリッカート法の自己報告式テストです(下図A)。しかしこの方法では、たとえば「行動力がある」ほうが、ないよりも好ましいだろう、といった形で、設問にどう回答すれば他者から好ましく見られるかが想像しやすいです。そのため、自分がよく見られる目的で本来とは異なる回答をできてしまいます。これは社会的望ましさバイアスの問題と呼ばれ、長年この種のテストの根源的問題と考えられてきました。
構造化面接や他者評定、センシングデバイスを用いる方法などの代替法もありますが、実施コストや実用性の点で小さくない課題があります。
そこで注目される方法に、比較型測定法があります(下図B)。この方法では回答者に、左右に提示される、異なる特性次元に対応する1対の項目間での比較による回答を求めます。この際、左右の項目要素間の望ましさを等しく統制しておくことにより、上記バイアスの影響を原理的に除くことが可能になります。
比較型測定では、心理特性次元間の相対的選好に関する回答データが得られますが、各選択枝に得点を付与した単純な得点化を行うと、合計得点が全回答者で一定になってしまいます(イプサティブデータの問題)。これでは、回答者内の比較はできても、回答者間に存在する量的な個人差を定量化できず、この転がLikert法と比較した比較型測定法の大きな問題でした。
しかし、心理統計学においてテストの標準的な統計モデルである項目反応理論モデルを、比較型測定へと拡張した統計モデル、たとえばサーストン型項目反応理論モデルを用いて適切にテストを構成すれば、イプサティブデータの問題を解消し、実用的な精度で特性の得点化を行うことが可能です。このことから、比較型測定は、バイアスに頑健な次世代の非認知特性テスト法として有望だと考えられます。
そこで本研究室では、神戸大学の分寺先生らの共同研究者とともに、比較型心理測定を実用化するための、統計学・心理学・自然言語処理/機械学習の知見を統合的に活用した研究を進めてきました。2025年度からはJST AIP加速課題の支援を受け、研究を加速しています。
岡田 謙介・分寺 杏介・丹 亮人・野村 圭史・清水 裕士・小杉 考司 (2024). 比較型心理測定の統計モデルと尺度構成技術. 日本行動計量学会第52回大会 特別セッション
Bunji, K. & Okada, K. (2022). Linear ballistic accumulator item response theory model for multidimensional multiple-alternative forced-choice measurement of personality. Multivariate Behavioral Research, 57(4), 658-678. https://doi.org/10.1080/00273171.2021.1896351 [Preprint] [Open Science Framework]
Okada, K. & Bunji, K. (2021). Increase of reliability by incorporating response time into the paired-comparison psychological measurement. Behaviormetrika, 48, 169-177. https://doi.org/10.1007/s41237-020-00109-5 [Preprint] [Open Science Framework]
分寺杏介・岡田謙介 (2020). 現代的なパーソナリティ測定のためのベイズ統計モデリング. 社会と調査, 25, 22-30,
Bunji, K. & Okada, K. (2020). Joint modeling of the two-alternative multidimensional forced-choice personality measurement and its response time by a Thurstonian D-diffusion item response model. Behavior Research Methods, 52, 1091–1107. https://doi.org/10.3758/s13428-019-01302-5 [Preprint] [Open Science Framework]
Bunji, K. & Okada, K. (2019). Item response and response time model for personality assessment via linear ballistic accumulation. Japanese Journal of Statistics and Data Science, 2, 263–297. https://doi.org/10.1007/s42081-019-00040-4 [Open Science Framework]