研究テーマ
Research Interests
私たちの研究室では、教育学・心理学をはじめとする社会科学のための統計的方法を開発し、評価し、また応用して問題解決に役立てるための研究を行っています。とくに、ベイズ統計学の考え方と方法を積極的に活用しています。また、学内外・国内外のいろいろな研究者たちと共同して研究を行っています。
心理統計学の研究分野には、古典的テスト理論・項目反応理論に代表される正確な心理・教育測定のための体系である計量心理学・心理測定学(psychometrics)と、心的機能の法則性を数理モデル化し,実験や行動データに基づいて検証する数理心理学(mathematical psychology)があります。私たちの研究室では,両者を架橋し,融合した統計的方法の開発と実証研究を行っているところが、国際的に見てもユニークと言えると思います。
近年は、JSTさきがけの研究領域「信頼されるAIの基盤技術」に研究課題「透明性の高い達成度テスト運用基盤の開発」で参画し、自然言語処理をはじめとする情報科学分野とのコラボレーションを深めています。同研究課題の概要については公開資料をご覧ください。
また招待講演等ではPI岡田の最近のトークで用いたスライドを複数掲載しております。当研究室で対象とする分野や我々の研究について知っていただく上で役立つかと思います。
岡田はハイ・ステークスなものから日常的な学習場面まで、様々な心理・教育測定(テスト)の現場に携わりながら研究を進めています。企業等との共同研究や、アドバイザー業務等も複数実施しております。ご関心をお持ちいただけました方はお気軽にメールでお問い合わせください(連絡先はHomeページの最下部にあります)。
教育テスト・心理テストへの応用のための項目反応理論(item response theory)モデルの研究
項目反応理論(item response theory, IRT)モデルは、カテゴリカル変数に対する因子分析とも位置づけられ、多くの達成度テスト・心理テストを支えている統計モデルです。
現在研究室で行っている研究には、大規模データに対する多次元項目反応理論モデルの高速なベイズ同時推定法の開発や、自然言語処理技術を活用した自動項目生成法の開発などがあります(IMPS2024で発表予定)。
また、解答時間を項目反応理論モデルに取り入れる一連の研究を行ってきました。
論文例:Bunji & Okada (2022), Okada & Bunji (2021).
診断分類モデル・認知診断モデルによる形成的評価のためのテストの研究
診断分類モデル(diagnostic classification model, DCM)もしくは認知診断モデル(cognitive diagnostic model, cdm)は、多次元の認知的能力・スキル習得状態を診断し、形成的に評価し、次の学習に役立てるための統計モデルです。
研究室では、大規模データに対する高速な変分ベイズ推定法の開発・同Rパッケージ開発や、多肢選択型項目の選択肢情報を有効に活用するモデル開発などの様々な研究を行ってきました。]
論文例: Oka & Okada (2023), Fukushima & Okada (2023), Yamaguchi & Okada (2021)
Rパッケージ: variationalDCM
ヒトの認知や行動のメカニズム・法則性をモデリングし、明らかにする数理心理学の研究
数理心理学は、数学的方法を用いた心理学的諸問題の研究であり、とくに本研究室では学習・認知・行動のメカニズムをモデル化する認知モデリング研究に取り組んできました。
発表してきた研究では、Q学習モデル等の強化学習モデルや遅延価値割引モデル等の意思決定モデル、そして理解や判断等の認知モデルなどがあります。
論文例:Fujita, Katahira, &Okada (2023), Fujita, Okada, & Katahira (2023), 島津・岡田 (2022), 若井・岡田(2022)
回答バイアスを防ぎ、調査の質を向上させるための研究
非認知能力や職業適性、精神医学的症状、パーソナリティ等の測定は、5件法などのLikert(評定尺度)型の自己報告式尺度によって行われるのが標準的です。しかし、この回答方式では自分をよく見せようとする傾向などの回答バイアスの混入が問題になります。
そこで本研究室では、比較型測定、係留ビネット、誠実な回答に対するインセンティブの付与といった、従来の課題を克服する回答方式による尺度作成の数理的モデル開発と、自然言語処理技術も活用した実用化に取り組んできました。
これらのほか、比較的最近の研究成果の例には、次のようなものがあります(以下の記述は「最近の...」といいながらやや古くなりつつありますが、Publicationsページに各論文のひとこと内容紹介をつける作業を行っていますので、より新しい成果についてはそちらをご覧ください)。
回答者個々人に適した項目を提示し,高精度な心理・教育測定を実現する適応型テストの研究。[論文1] [論文2] (統計モデルの拡張・評価)
研究間の比較可能性を担保する効果量の統計的性質を明らかにする研究。 [論文1] [論文2] [論文3] (分散説明率の効果量の性質評価)
教育実践や臨床研究から得られる一事例・少数事例のデータに基づき、介入や条件の効果を評価する研究 [論文1]
最近の共同研究実績
Classi株式会社
株式会社マクロミル
日本電信電話株式会社(NTT)
日本漢字能力検定協会
心理学をはじめとする諸分野において、「統計改革」が進んできました。
一昔前までは、利用される統計分析法というのはいくつかの限られた種類でしかなく、データの方を○○分析の形にあわせて利用していました。たとえば「上位群・下位群分析」に代表されるように、データが元々持っている情報を捨ててまで分散分析のできる形に変換し、ソフトウェアで数クリックして定型的な分析を行う、という時代がありました。
こうした枠組みは、いちど分散分析のような「お作法」を覚えてしまえば、それ以降覚えることが少なくてすみます。みんなが分析法を知っている安心感もあります。しかし、大きな問題もあります。それはデータを無理やり既存の分析法という「型」にねじ込むために、データが、そして研究者が本来持っている情報の多くを無駄にしてしまうことです。こうした分析では、データに合わない統計モデルを無理に用いているために、定量的な議論をすること、そしてデータに基づいた予測をすることが困難です。
この問題を解決するにはどうすればよいでしょうか? 一つの答えは、データの生成メカニズムを反映した、より現実に即した統計モデルを作り、それを用いて推定や予測を行うことです。データを統計分析に合わせるのではなく、統計分析の方を柔軟にデータに合わせていこうという発想です。そして、ベイズ統計学はこういったアイディアと、非常に相性がよいです。マルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法の発展によって、データの持つ階層性・集団差と個人差・顕在変数と潜在変数といったさまざまな特徴を考慮した、豊かな統計モデルを使っての推定と予測―それも点ではなく分布による―が可能になっています。これは、せいぜい最近10-20年の、とても大きな変化です。
『伝えるための心理統計』では仮説検定のロジックや利用法に対するアンチテーゼとしてのベイズ統計学の隆盛について書きましたが、もう一つの大きな流れは上記のような、モデリングにおける優位点に基づくものです。私たちは、この両方に関心を持って研究を進めています。