本研究領域において公募研究は、(C01)多様な生体アセンブリ現象について「機能と進化」の関連を開拓して領域が扱う現象の幅を広げること、(C02)多様なアセンブリの「機能と進化」の関連を紐解く理論や情報技術、更には計測・操作技術を構築して領域の技術的な基礎を築くこと、そして(C03)領域の知見を生物工学や情報工学などの他分野へ活用して応用展開を拡大することの、3つを目的として設置する。
本分野を国内外の研究コミュニティに広く普及・定着させるには、次世代を担う学際的研究者の育成や多様な研究者の参画が重要であると考え、自らの手を動かして研究を推進できる若手や、様々な研究バックグラウンドを持つ方の積極的な応募を推奨する。また本研究領域に資する独自の実験系や理論、情報技術を有し、計画研究及び他の公募研究とも連携・協調して領域の研究を推進できる提案を歓迎する。実験と理論が融合している提案はもちろん望ましいが、生体アセンブリに関わる実験系の提案で、本研究領域の理論や情報技術などと有機的に組み合わさることで「機能と進化」の謎に迫れるものや、逆に本研究領域の実験現象に適用することでその真価が発揮される理論モデルや情報解析技術、計測・操作技術の提案もぜひ応募いただきたいと思う。
アセンブリは分子・回路・細胞の3つに分類されているが、これら以外の重要な生体アセンブリも公募のスコープに入る。ただし「機能と進化」の関係はおさえてほしい。
情報技術は、バイオインフォマティクスからモデル推定、深層学習なども広く含む。加えて、アセンブリを直接扱わなくても、一般性を持つ数理や情報工学技術で、例外的な事象の予測や探索、更にはその応用に資するものも重要であると考えている。
タンパク質の折りたたみなど平衡状態が機能や進化にも重要な現象もあるので、非平衡に過度にこだわる必要はない。
以下、バイオインフォマティクス学会で領域のワークショップを開催します。
日時・会場:9月4日13:50-15:20・第2会場(200名)OR 9月4日15:30-17:00・第2会場(200名)
概要:生物は分子から個体に至る多様なスケールで、洗練された機能を発現するシステムを構築している。こうした機能がどのような物理的・進化的過程を経て出現し、複雑化・高度化してきたのかに焦点をあてる。その理解の鍵として、我々は「アセンブリ(Assembly)」という概念を提案する。アセンブリとは、異種の構成要素が組み合わさることで新たな性質や機能が創発するプロセスであり、タンパク質、細胞、発生、進化といった生命の主要な階層に共通して見られる現象である。
本ワークショップでは、「複雑な生命機能がいかに構成されるか」という根本的問いに立ち返り、多体系数値計算・相分離理論・発生ダイナミクス解析・進化系譜解析といった多角的なアプローチに注目し、生命の構造化と機能創発の過程を物理と進化の視点から探る。この問題に挑む若手研究者をお招きし、最新の理論と技術を紹介し、生命情報学の新展開を議論したい。
講演者情報:
梅津 大輝(A03 細胞アセンブリ班) 大阪大学大学院理学研究科
川口 喬吾(A01 分子アセンブリ班) 東京大学大学院理学系研究科
斉藤 稔(B01 物理理論班) 広島大学統合生命科学研究科
鈴木 誉保(B02 数理情報班) 順天堂大学大学院医学系研究科
また領域の最新情報などは以下のXおよびblueskyのアカウントからも配信します:
本領域は「高度な生命機能がいかにして現れ、洗練されてきたのか、その創出の原理」をターゲットとします。
生命系の領域の多くは、現存のすでに高度化が進んだ生命機能のメカニズムの解明を進めてきました。我々はむしろ、それがどのようにして現れ、複雑化し、そして機能を高度化してきたのか、という問題を主眼とします。
生命機能の高度化や複雑化には様々なメカニズムが考えられますが、特に階層を横断してみられる普遍的な基盤として我々は「アセンブリ」という概念に着目しています。アセンブリとは、ヘテロな素子が組み上がってできるシステムを意味します。生体であれば、タンパク質はアミノ酸配列が組み上がった分子アセンブリ、細胞内反応や神経回路は化学物質や神経が反応や神経接続で組み上がった回路アセンブリ、そして多細胞体は細胞が組み上がった細胞アセンブリです。アセンブリはその組み合わせ的な性質から、オープンエンドに複雑化が可能であるという点で、進化的な機能探索に重要な基盤構造であると考えます。
しかし同時に、可能なアセンブリは構成要素が増えるに従って指数的に増え、その膨大な組み合わせからより機能的なアセンブリを生命はどう探索し得ているのか、が問題となります。我々は、様々なアセンブリが非平衡的なプロセスにより機能を発露しているという実験事実と、近年の生成モデルは非平衡的なプロセスを学習することで、自然画像などの画像全体の中では統計的に例外的な集合を効率的に生成しうる、という理論的な知見にも着目しました。そしてこれらをもとに、生体アセンブリにおいても「非平衡的なアセンブリプロセスの制御」とその「進化的な選択(最適化)」が組み合わさる(共役する)ことで、様々な機能が効率的に探索できているのではないかという仮説を設定しました。この新規機能の萌芽・発展・複雑化に対する非平衡ダイナミクスと進化ダイナミクスの寄与を理解することが課題となります。
この課題に対し、領域ではイメージングなどの計測技術と最新の進化解析技術を統合します。タンパク質の反応や相分離(分子アセンブリ)、細胞内反応系や感覚系のシグナル伝達(回路アセンブリ)、そして細胞集団や多細胞の動態は、近年のイメージング技術で詳細な計測が可能です。一方で、各アセンブリの構成や進化は分子情報から解読できます。タンパク質であればアミノ酸の部分配列の組み合わせ、反応回路は受容体などの構成分子群の組み合わせ、そして多細胞は相互作用認識分子の組み合わせをみることで、どんな組み合わせが相関しつつ進化してきたのかを追跡できます。多形質の相互進化を扱う最新の系譜解析技術により進化過程を復元するだけでなく、得られた祖先型を実際に再構成して、イメージングなどでその機能を検証することも視野に入れています。
そして理論面では、分子・回路・細胞のアセンブリのそれぞれで、その非平衡ダイナミクスと進化ダイナミクスの両面を捉える理論を構築し、相互作用推定や画像解析、時系列解析などの情報技術で実験と理論を接続します。最終的に、情報、非平衡、進化に共通する変分構造やその構造に密接に関わる大偏差理論(レアイベントの理論)を介して、生命機能とその創出における非平衡と進化、そして情報の普遍的役割を明らかにすることを目指します。
本領域で生命機能の創出原理の理解を目指して開発される実験・情報・理論技術は、液滴反応システム、生体情報伝達系、そして多細胞体のオルガノイドなど多様な生体システムの設計に応用されるとともに、情報工学的にも情報と進化・非平衡を繋いだ新しいアルゴリズムや知的システムの構築に寄与すると期待されます。
より詳しくは領域の狙いについての詳細な解説「EPIC Assemblyとはなにか?」もご参照ください。
X01:総括班
A01: 分子アセンブリ班
代表:川口 喬吾(東京大学大学院 理学系研究科 知の物理学研究センター)
分担:瀧ノ上 正浩(東京科学大学 情報理工学院)
A02: 回路アセンブリ班
代表:青木 一洋(京都大学 大学院生命科学研究科)
分担:戸田 安香(東京科学大学生命理工学院)
A03: 細胞アセンブリ班
代表:梅津 大輝(大阪大学 大学院理学研究科)
分担:澤井 哲(東京大学 大学院総合文化研究科)
B01: 物理理論班
代表:斉藤 稔 (広島大学統合生命科学研究科)
分担:花井 亮 (東京科学大学 理学院 物理学系)
分担:杉村 薫(東京大学 理学系研究科)
B02: 数理情報班
代表:小林 徹也(東京大学 生産技術研究所)
分担:鈴木 誉保(順天堂大学 大学院医学研究科)
分担:細田 一史(情報通信研究機構(NICT) 未来ICT研究所 脳情報通信融合研究センター(CiNet))