岩田産業株式會社におけるSDGsの取り組み事例
- SDGsと岩田産業株式會社 代表取締役社長 岩田章正 氏へのインタビュー-
岩田産業株式會社におけるSDGsの取り組み事例
- SDGsと岩田産業株式會社 代表取締役社長 岩田章正 氏へのインタビュー-
【本資料に関するお願い】
引用にあたっては、以下の参考資料の明記をお願いいたします。
岩田章正・杉本宏幸(2026).「岩田産業株式會社におけるSDGsの取り組み事例」.URL https://sites.google.com/fukuoka-u.ac.jp/sugimotoh/research/interviews/iwatasangyo_co_ltd
1.イントロダクション
(杉本) よろしくお願いします。
岩田社⻑と御社グループ皆様には、2024年のSDGsコンテストより大変お世話になっております。岩田産業の事業、新しく取り組まれている農業支援事業に関してお聞きできればと思います。
まず、簡単に御社についてご説明いただけますでしょうか。
(岩田社長) よろしくお願いします。
岩田産業は、九州・山口で25,000軒の外食・中食業態と取引し、50,000品目を扱う食品卸売企業として、長年にわたり九州の、地域の食の流通を支えてきました。卸売企業としてどのような価値を創造できるかが重要と考えています。
(杉本) 食品卸売企業として、私たちの食生活を支えてくださっていますね。卸売企業として新しい価値を創造しようとなさる背景についてお話しいただけますでしょうか。
2. 一つ目の危機感:コロナ禍での経験とSDGs
(岩田社長) 私たちは、コロナ禍での経験から「お客様に商品が提供できなくなるかもしれない」という危機感を抱き、SDGs(Sustainable Development Goals)(注1)を経営の中心に据えることを決意しました。
注1:持続可能な開発目標。世界の人々がよりよく生きられる社会を2030年までに実現するための共通目標。
(杉本) コロナ禍でのご経験、危機感とはどのようなものでしょう?
(岩田社長) 危機感には二つあります。
コロナ禍で飲食店が休業し、弊社の卸売事業にも大きな影響を受けました。売上が半減したり、ほぼゼロになる部門が出るなど通常では考えられないダメージを受けました。
(杉本) 福岡県では2020年4月7日から出た緊急事態宣言による外出自粛要請ですね。
(岩田社長) そのなかで、賞味期限がせまった商品を販売しようとすると、「コロナ禍で店が開けられない状況で、安くても商品を買えるわけがない」と厳しいお叱りを受けました。ロックダウンされ、商売ができないのは、飲食店をはじめとするお客様も同じです。いくら安くされても商品を買える状態にありませんでした。
そこで初めて、自分たちが「お客様の繁盛を支える」という理念を掲げながら、実際には自社の都合を優先していたことに気づかされ、深く反省しました。
(杉本) 「取引先の繁栄が自社の繁栄につながる」(e.g., 宮下1992)ことは卸売企業のビジネスの根幹にありますし、「お客様繁盛のお手伝い」は御社ミッションの一つでもあります。私もこれらを支持する研究結果を得ています(杉本・中西2002)。取引先の繁盛をつくるのが難しくなったのがコロナ禍だったのですね。
(岩田社長) 食品には賞味期限があります。コロナ禍では、仕入れた商品を売ることができず、廃棄せざるを得なくなる事態を目の当たりにしました。
そうした時、「食品を取り扱う企業として何かできることはないか」と社内から声があがりました。フードバンクなどと連携し、食材を提供する取り組みをしました。SDGsというキーワードが社内で出てきたのはこの頃です。
(杉本) いまもフードバンク福岡さまのサポーター企業として名を連ねておられますね。
(岩田社長) 食品を扱っている岩田産業が何に取り組むべきか模索した結果でした。
当初、そうした社内からの声をよくわからないでいましたが、改めてSDGsの目標を見てみると、ビジネスのアイデアや種がたくさんあります。岩田産業の事業はSDGsの目標に直結しています。「飢餓をゼロに」(SDGsの目標2)、「働きがいも経済成長も」(SDGsの目標8)、「つくる責任、つかう責任」(SDGsの目標12)などです。
SDGsの実践は弊社にとって持続可能な経営戦略そのものであり、社会とともに成長するための道筋です。
(杉本) コロナ禍、SDGs、卸売事業、全ては御社でつながっているのですね。
(岩田社長) 岩田産業にとってSDGsは、単に社会へ良いことをするものではありません。SDGsの推進は、社会課題の解決を通じて社会の持続可能性、企業の競争力、事業の持続性を確保し、向上させるための戦略的投資です。
これによって、社会的な価値と経済的な価値の双方である共通価値(Creating Shared Value: CSV)の創造プロセスを取りいれようとしています。
(杉本) 利益を削った社会貢献や企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility :CSR)としてSDGsをなさるのでなく、まだニーズがみたされていない社会課題を扱おうとなさるのですね。卸売企業による戦略的な投資が売上、市場シェア、マージンを高めること等は最近の研究(Ganapati 2025)でも指摘されています。
3. 二つ目の危機感:商品がなくなるかもしれない
(杉本) 一つ目の危機感はお客様との接点、流通の川下から生じたものでした。二つ目の危機感はどのようなものでしょう?
(岩田社長) 二つ目は、「お客様に提供する商品がなくなるかもしれない」という危機感です。
農家は高齢化して平均年齢が70歳に近づきつつあり(注2)、就農人口も減少しています。日本の食料自給率はカロリーベースで38%となりました(農林水産省HP)。日本で農産物を生産することができなくなり輸入のみになってしまった場合、そこで有事が起こると日本から食料が消えることになるかもしれません。
注2 令和6年 農業構造動態調査によれば、農業経営体の経営主の平均年齢は69歳。
(杉本) 二つ目の危機感は商品の調達先である農業、流通の川上からのものですね。
(岩田社長) コロナ禍の「まさか」という状況は、「食料安全保障」(注4)と同じかもしれませんし、「令和の米騒動」(注5)も同じことかもしれません。
「食料安全保障」の観点からも、生産の現場で起こっている様々な課題を今から少しずつでも変革していかなければなりませんし、変革していくのは私達食品に関わる業者の役割だと思います。
注4 「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ、国民一人一人がこれを入手できる状態」(食料・農業・農村基本法(平成11年法律第106号) 第2条)を指す。
注5 2024年(令和6年)から各地で米の品薄が発生し、その価格が高騰している現象。
(杉本) コロナ禍のようなパンデミックだけでなく、気候変動による自然災害、地政学的な紛争リスクの高まり等も有事となりそうです。
(岩田社長) 「お客様に提供する商品がなくなるかもしれない」という危機感は現実的な課題として捉えていくべきです。食料自給率が低下すると海外依存が増し、価格や品質は不安定になりやすくなります。農業の人手不足にとどまらず、原材料供給が不安定になる恐れがあります。
(杉本) 今回の取り組みは、農業に焦点をあてておられますね。
(岩田社長) 農業従事者の減少や高齢化がもたらす社会環境や市場変化に対しては、従来の在り方では対応できなくなるかもしれないと考えています。
(杉本) 御社は卸売業としてどのような役割を果たしてこられたでしょうか?
(岩田社長) 岩田産業は、卸売業として「川上(農家)」と「川下(飲食店・消費者)」をつなぐ重要な役割を担っています。
卸売業は流通の中間に位置し、供給網を安定させることに事業の根幹があります。単に自社の物流管理でなく、企業間・部門間の連携を通じて、原材料の調達から製品の製造、流通、販売、消費に至るまでの一連の流れ(サプライチェーン)全体を最適化させます。
(杉本) 二つ目の危機感は、従来の在り方では対応できないのかもしれません。岩田産業さまはどのような対策をとっておられますか?
(岩田社長) コロナ禍では、さまざまな分野で大きな構造変化が生じました。こうしたとき、従来の事業やサプライチェーンの構造そのものを見直す「再構築」の必要があります。
(杉本) 卸売業は、流通の中間でさまざまなパートナーをコーディネートする位置にあります。
このため、環境や構造変化に左右されやすい側面(e.g.,田村 1986; 高宮城 1997)があるとされます。この特徴が顕著にあらわれているのですね。
(岩田社長) 商品を仕入れて卸すのは従来型の流通業です。こうした流通業の在り方は仕入先を外部の存在と捉えています。
(杉本) そうですね。仕入先を自社と異なる「外部の存在」「外部資源」(e.g, Barney 1991)としてみると、流通業に求められてきたのは流通コストの削減になりやすいです
(Hall 1948; Balderstone 1958; Baligh and Richardz 1967; Stern & El-Ansary 1992)。
(岩田社長) こうした従来の在り方に対し、岩田産業は、サプライチェーンの「川上」にまで踏み込み、構造的な課題を自社の力で解決しようとしています。自ら農業支援に乗り出して供給を安定化させ、地域課題の解決を担う「共創型企業」へ進化しようとしています。
(杉本) 「構造的な課題」の捉え方によって戦略が変わりますね。パートナーとの課題共有・解決等を通じた共有/共通価値(CSV (Porter and Kramer 2011))の創造が新しい役割になりそうです。
4. 変わる卸売企業の役割:パートナーシップと持続可能性
(杉本) 「農How」は、担い手が不足する農家、働いてみたい人をマッチングさせる仕組みだとお聞きしています。御社ではどう活用なさっているでしょうか?
(岩田社長) 「農How」アプリを導入し、農家と生活者、企業をつなぐ仕組みを構築しました。農業支援事業、「農How」は川上(生産者)から川下(消費)までの価値連鎖(注7)を持続可能なものへ再設計し、変える取り組みです。これはCSV投資の一つで、サプライチェーンを再構築するための戦略的な取り組みです。
注7 バリューチェーン(価値連鎖):購買、製造、物流、マーケティング、サービスといった一連の流れで生み出されていく価値を積み上げていくプロセス(Porter 1985)
(杉本) CSVの実践には、商品・サービスや市場、バリューチェーン生産性の再定義などが指摘されています(Porter and Kramer 2011)。
持続可能なサプライチェーンにするには、取引基準の遵守や不祥事防止が優先されそうですが(Carter and Rogers 2008)、CSV投資では、取引先が競争力を高める支援が重要になりそうです。
(岩田社長) テックの導入で農業を進化させられればSDGsの多くの項目につながります。減り続ける就農者を増やすことができれば、「働きがいも経済成長も」(SDGsの目標8)にもつながるでしょう。SDGsの「つくる責任・つかう責任」(SDGsの目標12)にも通じる先進的な取り組みと考えています。
(杉本) 御社のCSV投資は、SDGsの方向性と合致しているわけですね。
(岩田社長) そうです。就農者を増やし、多くの作物をつくることができると「貧困をなくす」(SDGsの目標1)、「飢餓をゼロに」(SDGsの目標2)にもつながるでしょう。
ただし、これは農業の構造を変える大きな課題です。当社1社だけでは出来ないので、多くの企業とパートナーシップを組み、連携を図っていかなければなりません。
(杉本) こうしたパートナーシップやビジネスネットワーク(Ford and IMP group 1998)による課題解決は、流通の中間に位置する卸売企業の強みだといえます。
(岩田社長) パートナーとの関係は岩田産業が独占しようとするわけではありません。例えば、「農How」は、岩田産業が福岡県でフランチャイズに加盟しています。岩田産業が成功事例となれば、他地域でも同様の取り組みが広がっていき、農業に関する課題が解決されていくと考えています。
(杉本) 農業という大きな問題だけに、御社単独で解決しようとはなさらないのですね。卸売企業の強みであるネットワーク、パートナーシップを活かそうと。
(岩田社長) 農業の衰退が及ぼす影響は、我々の事業だけにとどまらないからです。農業生産量が減り、農業所得が減少することは地域経済や食の安全保障にも直結するため、こうした課題の認識や解決に対して新しい仕組みやパートナーシップの導入が必要です。これは、「パートナーシップで目標を達成しよう」(SDGsの目標17)につながるわけです。
(杉本) ここまでのお話を整理しますと下表のようになりそうです。
5. SDGsの社内的な位置づけ
(岩田社長) そうです。
主体的に参加できる場をつくり、社員が「自分の仕事が社会に貢献している」と感じることで、仕事への誇りとやりがいを高めたい。社員が自社の取り組みを誇りに思うきっかけとしてもらいたいです。
(杉本) 場をつくり、さまざまな経験を共有することでSDGsが浸透していくという意味での「共通言語」なのですね。
(岩田社長) SDGsアイデアコンテストだけでなく、コカ・コーラさんとの寄付型自販機のラッピングなどもそうです。「食を通じて九州を元気に!」を社員が体感できるよう、「SDGsの実践、農業の日」や「自販機ラッピング」を実施しています。
(杉本) コカ・コーラさまの寄付型自販機は、西日本新聞と御社HPでも拝見しました。御社内に設置された自販機で購入すると、農業支援に寄付される応援消費(注8)ですね。「食を通じて九州を元気に!」という御社のスローガンを共有しやすくなりそうです。
注8 「誰かや何かを応援するために消費すること」を指す(水越 2021)
(岩田社長) 社員が企業の理念やビジョンを「自分ごと」として捉え、社内の一体感を高めてもらい、社員に自社の取り組みを誇りに持ってもらうためのものです。
(杉本) 同じく西日本新聞で拝見しましたが、社員の⽅が農業に従事する「SDGsの実践、農業の⽇」の取り組みもおありですね。
(岩田社長) 「SDGsの実践、農業の日」を年2回設けています。社員が実際に農作業に従事することで、社内の意識は徐々に変化しています。現場に出ることで、農業の大変さや食のありがたさを肌で感じることができ、社員一人ひとりが「自分たちの仕事が社会課題の解決につながっている」という実感を持つようになりました。
(杉本) 社員の方々の意識や御社の雰囲気などに、変化があるようですね。
(岩田社長) 社員は農業体験を通じて「食の大切さ」「社会課題の現場」を実感できます。農業に参加することで企業の社会的使命を肌で感じてもらえるでしょう。結果として、社員が自社のブランド価値を誇りに思ってもらえるようになります。行動に反映されることを目指す理念共有の社内研修、社内報、ポスター、動画活用、社員参加型のプロジェクト農業の日、家族での柿狩り、家族での田植え、稲刈りなど実施しています。
(杉本) SDGsに関する取り組みが既に多くあるのですね。
6. 企業文化の醸成
(岩田社長) SDGsの取り組みは「インナーブランディング」(Internal Branding)(注9)や「エンゲージメント」(Employee Engagement)(注10)を向上させると思っています。理念を体験に落とし込み、インナーブランディングとエンゲージメント向上の実現を目指しています。
注9 企業が外部に向けて発信するブランド価値を、社員一人ひとりが理解し、共感し、体現できるようにすること
注10 企業に対する社員の愛着や信頼
(杉本) 企業が従業員を支援し、その能力を引き出すインナーブランディングは、効果的に実施すると、企業に対する愛着や信頼(エンゲージメント)を向上させることが指摘されています(e.g. Burmann and Zeplin 2005; Punjaisri, Wilson and Evanschitzky 2009; Löhndorf and Diamantopoulos 2014; Du Preez and Bendixen 2015)。
(岩田社長) 農業の日、家族での柿狩り、家族での田植え、稲刈り等の体験はインナーブランディングの取り組みでもあります。ブランド価値の社内浸透、理念やスローガンの共有、社員が「らしさ」を体現することをインナーブランディングでは重視しています。
(杉本) 御社では、インナーブランディング実践とエンゲージメント向上が同時に起こっているようにも感じます。
エンゲージメントが高い社員の方が率先して行動なさったり。それがインナーブランディングとなっていたり。そうした方々が経営理念への理解が深くありそうです。エンゲージメント向上は業績向上と連動していそうです。
(岩田社長) エンゲージメントが向上すれば、自発的に貢献しようとする意欲が高まるでしょう。
自分の仕事に意味を感じている、会社の目標に共感している、チームや上司との関係が良好になる、自ら改善や提案を行うなどの効果が期待されます。
それは、顧客対応や商品開発等にブランド価値が反映されるということでもあります。意欲意義ある仕事へ共感し、社員が「自分ごと」として行動し、社員の自発的な貢献が期待できます。
(杉本) SDGsSDGsへの理解が深まると、御社の理念が共有されやすくなりそうです。経営陣と現場の意識の共有ができやすくなりそうですね。
ここまでお聞きしてみると、卸売企業である御社にとって「SDGsの実践」が「持続可能な経営戦略そのもの」であるのが理解できてきます。
(岩田社長) 社員一人ひとりが「自分たちの仕事が社会課題の解決につながっている」と実感をもつようになれば「働きがいも経済成長も」(SDGsの目標:8)も達成もできます。社員の意識改革は、企業文化の変革につながり、結果として顧客対応や商品開発にも良い影響を与えるようになるでしょう。これを認識することで社員は意識が変わり、企業文化の醸成にもつながっています。
(杉本) SDGsを掲げたものの、何をして良いのかわからなくなることもあるとお聞きします。
それに対し、岩田産業さまでは、卸売企業の事業と密接に関わっていることがよくわかりました。岩田社長の会社への思い、そして社員の皆さまへの思いが伝わってきます。
(杉本) 卸売企業が社会で果たす役割は大きいと考えます。社員の皆様にはますます誇りをもっていただければとお話お聞きしながら感じておりました。
岩田社長自ら、岩田産業さまの取り組みに関する貴重なお話をいただき、誠にありがとうございました。貴重な機会をいただきましたことに心より感謝申し上げます。
「農How」の運用については、岩田産業株式會社のご担当者様にお聞きする予定です
参考文献・参考資料
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参考資料
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