ー学校制度の内外の動きに注目してー
公教育が揺さぶられている。
学校では、不登校の子どもが増え続け、その一部はフリースクールに通うことを選択している。教育機会確保法の成立以降、自治体によるフリースクールへの支援も強化され、新たな事業者も参入している。その実態が多様であることは前提としつつ、「ポスト教育機会確保法」期のフリースクールの現状と課題、公教育のあり方へのインパクトの解明が急がれる。
また、高校段階では、通信制高校に通う生徒が急増を続けている。近年の通信制高校は、広域展開やサポート校との連携強化、「通学型」通信制の登場など、新たな展開を見せている。これまでの学校の堅い枠からはみ出すことで、生徒や保護者のニーズに応えている側面もある。すでに実態が学校制度の建前を食い破っている状況があり、この現実をどう捉えるのかは、研究的にも大きな課題であろう。
不登校や通信制高校の隆盛は、学校制度の内外において、子どもが既存の公教育を揺さぶっている象徴的な事例である。さらに、公教育は、民間教育産業が教育サービスを学校に提供するルートの普及と拡大によっても、大きく揺るがされている。GIGAスクール構想と経産省の「未来の教室」事業の展開によって顕著になった事態である。公教育の「市場化」といった批判的見方も成立はするが、公教育の揺らぎの内部に実際には何が生じているのかを、ステレオタイプな思考に陥ることなく見すえていく必要があろう。
今年度の課題研究では、学校内外における以上のような動きに注目しつつ、揺らぐ公教育の問題状況を掘り下げ、教育政策上の課題がどこにあるのかを考えたい。これは、第11期の課題研究の統一テーマ「変容する公教育と教育政策/統治」(2024年~26年)の一環に位置づくものである。報告者として、森直人氏には、教育機会確保法以降の公教育をめぐる問題状況や課題について、俯瞰的な視点から論じていただく。山田朋子氏には、通信制高校の新たな展開について、調査結果等も踏まえて問題提起をいただき、福島創太氏には、公教育に関与する民間教育事業者の立場から見える現在の問題状況や課題について積極的に発信していただく。
発表1 森 直人(筑波大学)
「教育機会確保法の歴史的位置ー『教育の機会均等』のパラドックスとテクノロジー」(仮)
発表2 山田 朋子(女子美術大学)
「学校制度と拡大する高等学校教育の実態ー『全日型』通信制課程の事例から」
発表3 福島 創太(株式会社教育と探求社)
「民間教育事業者からみる学校教育の外部連携の実態と可能性」
研究推進担当:横井敏郎、児美川孝一郎、仲田康一