研究室の概要
概要
ソフトウェアは,人類がこれまでに作り出した人工物のうちで,もっとも複雑かつ大規模なものです。多様な機能を持ち,設計が困難で,多くの技術者を必要とし,ビジネス的にもICT(情報通信技術)市場の大きな部分を占めています。
ソフトウェアの研究開発上の課題は,「より高機能」のソフトウェアを,「より簡単・確実」に設計するということです。
人工知能(AI)の技術は,人間の知能を工学的に模倣する研究成果に基づいて,「より高機能」のソフトウェアを創出する技術と言えるでしょう。
ソフトウェア工学(SE)の技術は,複雑かつ大規模なソフトウェアシステムを,「より簡単・確実」に設計するための技術です。
知能ソフトウェア研究室は,この2つの技術を両輪として研究・教育を行っています。このような研究室は全国的にあまり多くはなく,「異分野の融合による新研究領域の創出」や「幅広く総合的な高等教育」を標榜している北海道大学情報科学院の特徴の1つでもあると言えるでしょう。
ソフトウェア工学とは
コンピュータソフトウェアは,人類が生み出した,もっとも複雑な人工物となりました. ソフトウェアの不具合のために,人命が失われたり,社会に混乱を引き起こしたりする事件が起きています.また,高度な情報システムをつくるとき,ソフトウェアがもっとも高価なコンポーネントとなっています.
ソフトウェア工学は,この問題を解決するために,安全できちんと動くソフトウェアを,できるだけ簡単に開発・維持するための技術です.「安全できちんと動く」のは,高信頼・高品質という社会的責任の側面です.「できるだけ簡単に」は,開発者に負担をかけないという人間への優しさの側面と,短期間・低コストという企業経営的な側面をもっています.
これからのソフトウェア技術は,単にスキルを磨いて実践を目指すだけではすみません.理論や事例にもとづく高度な知識を処理する知能ソフトウェア技術等を活用し,大学と企業が協力して,人間の作業をできるだけ自動化することによって問題を解決する方向に進歩するでしょう.
人工知能とは
コンピュータの扱う情報の種類は,当初の数値や文字から始まり,画像,音声,映像と多様化してきました.これからは,知識を取り扱う知能的な機能や応用を中心に発展すると考えられています.
そのための基盤技術が人工知能です.細かな指示を与えなくても,大まかな制約条件と目標を与えれば,人や環境にうまく適合して,自律的かつ合理的に意思決定し,適切に行動するようなシステム(エージェント)の設計方法が研究の中心です.また,行動結果の評価に基づき,今後の意思決定方法を変えて自らを進化させる学習の機能も特徴的です.
これからの人工知能は,人間の脳や認知に関する数理モデルのほか,ソフトウェア技術,メディア技術,ネットワーク技術などを結び付ける総合技術として発展するでしょう.そして,人々の知的活動やコミュニケーションを支えるエンタープライズ系のソフトウェアシステムや,知的工業製品の中核を占める組込み系のコンポーネントを供給する最も先端的な情報技術として産業を支えていくことになるでしょう.
研究目標
SEとAIのうち,つぎのような分野で,独創的で社会に役立つ研究成果を目指します
ソフトウェアシステム: 多数のマシンが通信しながら協調するソフトウェアシステム
プログラミングとAI: ソフトウェアの開発を知的に支援する理論とツール
WebとAI: Web上に知識をうまく蓄え、柔軟に利用するソフトウェアシステム
情報メディアとAI: 人の感性にはたらきかける画像や音声を扱うAIシステム
認知科学とAI: 心理や知覚のメカニズムに基づいた、人に優しいAIシステム
機械学習とAI: 実データから普遍的な知識を獲得して応用に活かすAIシステム
教育目標
知能ソフトウェア研究室は,ソフトウェア工学(SE)および人工知能(AI)に関わる研究と教育を通じて,北海道大学の4つの基本理念すなわち「フロンティア精神」,「国際性の涵養」,「全人教育」及び「実学の重視」に沿った教育を実践します.
フロンティア精神
研究室の過去の研究成果に必ずしもとらわれることなく,やってみたいと思う各自の研究テーマを自立的に設定することを基本とします.それにより,クラーク博士が唱えた「高邁なる大志」という言葉に始まり,世紀を超えて北海道大学を揺るぎなく支えてきた基本理念である「フロンティア精神」をはぐくみ,新しい学問や新たな人類的課題に応え得る研究にチャレンジする人材を育成します.国際性の涵養
先端的な学術を外国語文献によって学習することを基本とします.特に博士後期課程の学生には,英語による論文執筆を指導し,国際会議等において英語で講演する能力と意欲を養います.それにより,学生の国際性をはぐくみ,外国語コミュニケーション能力を高め,国際的に活躍できる人材を育成します.全人教育
各自の専門研究領域に留まらず,SEとAIの両方およびその周辺分野の知識も積極的に身に付け,その研究が人類や社会にとってどのような意味を持ち得るのかを合わせて討論・研究する態度を養います.それにより,専門的知識を活用するための総合的判断力と高い識見を備えた全人的な魅力を備えた人材を育成します.実学の重視
現実世界と一体となった普遍的な科学の創造を目指すほか,基礎研究のみならず応用や実用化を重視した工学的な研究を実施します.それにより,社会や産業界で活躍できる高度な職業人を育成するほか,社会人を大学院生として受け入れてその専門性の向上に貢献します.
進路
情報科学研究科(情報エレクトロニクス学科)には,各専攻(コース)1名ずつの就職担当教授から構成される進学・就職支援室という組織があり,進路指導は基本的にその組織で一元的に行われます。したがって,特定の研究室に所属した結果,進路に有利・不利が生じたり,制限を受けたりすることはありません。
しかし,各研究室の研究分野の特色に応じて学生が集まってくるので,就職先も自ずと研究室毎に特徴が出るようです。知能ソフトウェア研究室の場合,修士課程学生の一部が博士後期課程に進学し,学部学生のほとんどが修士課程に進学します。残りの学生は,電気・情報通信関係の企業における研究開発の職種や,ソフトウェア(ソリューション)開発関係の企業におけるシステムエンジニア(SE)の職種に就くケースが多いようです。
過去数年間の就職先は以下のとおりです(五十音順)(2023/4/7更新)。
NRI 札幌
NTT(研究所)
NTTコミュニケーションズ
NTTコムウェア
Yahoo!
アイ・システム
アジェンダ
インテック
コーエーテクモゲームス
スクウェア・エニックス
ダイテック
テクノフェイス
パーソルキャリア
パナソニックITS
フューチャーアーキテクト
ほくでん情報テクノロジー
産業技術総合研究所
調和技研
東京大学(修士課程)
東工大(修士課程)