人工知能は、人間の知能を機能的に理解する理学的探求と、その知能の機能を応用してよりよい社会に展開していく工学的探求の、2つの側面を持つ学問です。その研究領域は機械学習や生成モデルだけでなく、論理的推論・マルチエージェント技術・知識表現など多岐にわたっています。
当研究室では、この人工知能技術の社会応用という工学的探求を軸に、それを軸に、知能とは・社会とはなにかという理学的問いも追求する研究を進めています。
具体的な研究テーマとしては、マルチエージェント社会シミュレーションと自然言語処理を柱として取り組んでいます。
マルチエージェント社会シミュレーションとは、人間やロボット・AIが複数活動している時に、どのように相互作用し、全体としてどのように振る舞うかを実験的・理論的に探求する方法論です。これにより、社会やサービス・システムの最適化や持続的発展のための手法やシステム設計を目指す研究になります。
自然言語処理では、近年急速に発展してきている大規模言語モデルを核として、因果関係や専門的知識などに踏み込んで、正確で的確な処理ができる情報技術の構築を目指しています。
知能ソフトウェア研究室は,この2つの技術を両輪として研究・教育を行っています。このような研究室は全国的にあまり多くはなく,「異分野の融合による新研究領域の創出」や「幅広く総合的な高等教育」を標榜している北海道大学情報科学院の特徴の1つでもあると言えるでしょう。
コンピュータの扱う情報の種類は,当初の数値や文字から始まり,画像,音声,映像と多様化してきました.これからは,知識を取り扱う知能的な機能や応用を中心に発展すると考えられています.
そのための基盤技術が人工知能です.細かな指示を与えなくても,大まかな制約条件と目標を与えれば,人や環境にうまく適合して,自律的かつ合理的に意思決定し,適切に行動するようなシステム(エージェント)の設計方法が研究の中心です.また,行動結果の評価に基づき,今後の意思決定方法を変えて自らを進化させる学習の機能も特徴的です.
これからの人工知能は,人間の脳や認知に関する数理モデルのほか,ソフトウェア技術,メディア技術,ネットワーク技術などを結び付ける総合技術として発展するでしょう.そして,人々の知的活動やコミュニケーションを支えるエンタープライズ系のソフトウェアシステムや,知的工業製品の中核を占める組込み系のコンポーネントを供給する最も先端的な情報技術として産業を支えていくことになるでしょう.
つぎのような分野で,独創的で社会に役立つ研究成果を目指します
マルチエージェント社会シミュレーション: 交通システムや自動倉庫などを題材に、大きなシステムや社会が効率的に機能するための最適化手法・持続的発展手法を、人工知能とエージェントシミュレーション技術で探求します。
ビッグデータ解析: マルチエージェント社会シミュレーションの基盤となる、社会の構成要素の挙動を統計的に分析する方法を確立します。
因果知識と大規模言語モデル: 応用領域に特化した大規模言語モデルと、それにより抽出された因果知識に基づく推論を組み合わせることで、より実用的で正確な人工知能システムを構築する方法を探求します。
ゲームとAI: 人狼知能を題材として、不確実で不正確な情報から人間的に意思決定をするメカニズムを探求します。
知能ソフトウェア研究室は,人工知能(AI)の理学的・工学的探求に関わる研究と教育を通じて,北海道大学の4つの基本理念すなわち「フロンティア精神」,「国際性の涵養」,「全人教育」及び「実学の重視」に沿った教育を実践します.
フロンティア精神
研究室の過去の研究成果に必ずしもとらわれることなく,やってみたいと思う各自の研究テーマを自立的に設定することを基本とします.それにより,クラーク博士が唱えた「高邁なる大志」という言葉に始まり,世紀を超えて北海道大学を揺るぎなく支えてきた基本理念である「フロンティア精神」をはぐくみ,新しい学問や新たな人類的課題に応え得る研究にチャレンジする人材を育成します.
国際性の涵養
海外からの研究者・研究生との交流の機会をもうけ、言語のみならず考え方を含めた国際的交流を推進します.また博士後期課程の学生には,英語による論文執筆や海外交流を指導し,国際会議等において英語で講演する能力と意欲を養います.それにより,学生の国際性をはぐくみ,外国語コミュニケーション能力を高め,国際的に活躍できる人材を育成します.
全人教育
各自の専門研究領域に留まらず,AIの理論と応用の両方およびその周辺分野の知識も積極的に身に付け,その研究が人類や社会にとってどのような意味を持ち得るのかを合わせて討論・研究する態度を養います.それにより,専門的知識を活用するための総合的判断力と高い識見を備えた全人的な魅力を備えた人材を育成します.
実学の重視
現実世界と一体となった普遍的な科学の創造を目指すほか,基礎研究のみならず応用や実用化を重視した工学的な研究を実施します.それにより,社会や産業界で活躍できる高度な職業人を育成するほか,社会人を大学院生として受け入れてその専門性の向上に貢献します.
情報科学研究科(情報エレクトロニクス学科)には,各専攻(コース)1名ずつの就職担当教授から構成される進学・就職支援室という組織があり,進路指導は基本的にその組織で一元的に行われます。したがって,特定の研究室に所属した結果,進路に有利・不利が生じたり,制限を受けたりすることはありません。
しかし,各研究室の研究分野の特色に応じて学生が集まってくるので,就職先も自ずと研究室毎に特徴が出るようです。知能ソフトウェア研究室の場合,修士課程学生の一部が博士後期課程に進学し,学部学生のほとんどが修士課程に進学します。残りの学生は,電気・情報通信関係の企業における研究開発の職種や,ソフトウェア(ソリューション)開発関係の企業におけるシステムエンジニア(SE)の職種に就くケースが多いようです。
過去数年間の就職先は以下のとおりです
(2025/4/8更新)。
リコーITソリューションズ
KDDI
東洋エンジニアリング
日経新聞社
日本IBM
NTT docomo
NTTデータ
ミラノ工科大学(修士課程進学)
ソニー
日鉄ソリューションズ
野村総合研究所
DATUM STUDIO
ベース株式会社
パナソニックITS
パーソナルキャリア
Yahoo
東京大学(修士課程進学)
キーウォーカー
CIJ
トランスコスモス
テクノプロ
(2020以前)
NTT(研究所)
NTTコミュニケーションズ
NTTコムウェア
アイ・システム
アジェンダ
インテック
コーエーテクモゲームス
スクウェア・エニックス
ダイテック
テクノフェイス
フューチャーアーキテクト
ほくでん情報テクノロジー
産業技術総合研究所
調和技研
東工大(修士課程)