多様な他者と協働し、豊かな未来を切り拓く力を育む特別活動
1 社会背景
少子高齢化、人口減少、異常気象など地球規模での課題、低い労働生産性、国や社会に対する意識の低下、AI 技術の急速な発達など、社会を取り巻く現状は目まぐるしく変化している。将来の予測が困難な VUCA の時代において、持続可能な社会の創り手の育成のために、これからの時代を生きる子供たちには、多くの情報から何が重要かを主体的に判断し、自ら問いを立ててその解決を目指し、他者と協働しながら新たな価値を生み出していく力が不可欠である。そして、日本の社会・文化的背景を踏まえ、自己肯定感や自己実現などの要素と、人とのつながりや利他性、社会貢献意識などの協調的な要素を調和的・一体的に育み、日本社会に根差したウェルビーイングを、教育を通じて向上させていくことが求められる。令和6年度の全国学力学習状況調査の質問紙調査では、「学校に行くのは楽しいと思うか」の質問に「当てはまる」と答えた児童は昨年に続き5割を切る低い結果となった。令和6年度の小中学校の不登校児童生徒数は前年と比べ約5万人増加し29万9千人と過去最多となった。これらの一因としては、4年間にわたるコロナ禍が学校にもたらした大きな影響も考えられるだろう。コロナ禍において、日々の授業や学校行事での子供同士の学び合いや、関わり合い、触れ合いが制限、もしくは削減されることが余儀なくされてきた。これらの社会背景の中、多様な他者と協働し、関わり合い、つながり合いながら互いのよさを認め合う力を育み、明るい未来を自らの力で切り拓く子供を育んでいくことが、より一層求められる。
2 社会で期待される特別活動の価値
将来の変化を予測することが困難な時代において、特別活動が果たす役割は大きい。特別活動では、様々な集団活動の意義や役割を理解し、集団や社会の形成者として多様な他者と協働しながら、集団における生活上の諸課題を解決し、よりよい生活をつくろうとする態度を育成する。また、多様な他者の価値観や個性を受け入れ、助け合ったり協力し合ったりして、よりよい人間関係を築こうとする態度を養っていく。こうした集団活動を通して自治的能力や自己指導能力、自己有用感を育み、児童が互いのよさや可能性を発揮し、よりよく成長し合えることに特別活動の価値がある。教育振興基本方針では、主体的に社会の形成に参画する態度の育成・規範意識の醸成を目標に掲げ、学級生活をよりよくするために学級会(学級活動)で話し合い、互いの意見のよさを生かして解決方法を決めていると答える児童生徒の割合の増加を指標としている。これは学級活動の中で育成される力であり、今後さらなる活動の充実が求められていることにつながる。また、第3期奈良県教育振興大綱においても、自ら学び、考え、意見を述べる力を育む教育の推進が柱の一つとして挙げられている。
これからの時代を生きる子供たちに、多様な他者と協働し、豊かな未来を切り拓く力を育むには、「集団活動」と「実践的な活動」を特質とする特別活動が果たすべき役割は非常に重要といえる。
3 本県の児童の実態
本県の児童の実態としては、令和6年度の全国学力・学習状況調査の児童生徒質問調査から、「あなたの学級では、学級生活をよりよくするために学級会で話し合い、互いの意見のよさを生かして解決方法を決めていますか」や「学級活動における学級での話合いを生かして、今、自分が努力すべきことを決めて取り組んでいますか」という質問において、肯定的な回答をする児童が8割いる事が分かった。一方で、2割の児童は否定的な回答をしていることから、学級活動の確かな実践やよりよい学級・学校生活の実現に向けて特別活動に取り組んでいく必要がある。本研究会では、昨年度まで特別活動を推進するにあたり、「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」の3つの視点を大切にし、具体的な活動内容を示しながら研究を進めてきた。その成果として、主体的に課題を見いだし、活動を通して新たな課題を次に生かす PDCA サイクルが確立されてきたことや、一連の活動を通して、互いのよさを発見したり自己有用感を高めたりすることができたことが挙げられる。その一方課題として、コロナ禍を経て、様々な学校行事等が縮小され、他者と協働してよさを発揮できる機会が減ってきていることから、自分たちで考え、創意工夫し、実践する力が弱いことが考えられる。以上のことから、社会の現状や特別活動の価値を踏まえ、本研究会が捉える課題などを鑑み、研究主題を「多様な他者と協働し、豊かな未来を切り拓く力を育む特別活動」と設定した。
4 育てたい子供像
① 望ましい集団活動を通して、主体的に課題を見つけ、自主的・実践的に課題解決に取り組む子供
② 多様な他者と協働し、よりよい人間関係を形成しようとする子供
5 研究主題の内容について
「多様な他者と協働する」とは、多様な他者との違いを認め合い、互いのよさや可能性を発揮しながらよりよい学校生活を築いていくことと捉える。自己有用感や自己効力感などと同様に、自分のよさは自分一人で感じる事が難しいため、多様な他者との関わりや集団の中で役割を担って果たすなど、互いに協力し合い認め合う中で、自分が役に立つ存在であることを実感できるのである。
また、「豊かな未来を切り拓く力」とは、多様な他者と協働する体験活動を通して、なりたい自分や豊かな学級・学校生活の姿を思い描き、それに向けて実践していく力と捉える。これからの予測困難な VUCA の時代を子供たちがたくましく生きていくためには、一人一人が自分の思いを自分の言葉で発言し、多様な他者と協働し、創意工夫を生かしながら主体的に課題を見いだし解決する力が重要である。
多様な他者と協働し、豊かな未来を切り拓く力を育てるために、本研究会では2つの視点を大切にして研究を進めていく。
<研究の視点>
① 自主的・実践的な活動を通して、多様な他者と協働するための指導の工夫
・多様な集団による活動
・合意形成の図り方
・児童の主体的な活動の充実 など
② よりよい人間関係を形成しようとする取組における評価の工夫
・めあての明確化
・振り返りの充実
・年間指導計画の作成 など