令和6年1月の、奈良県域における Google Workspace for Education の利用状況は以下のとおりである。
令和6年1月に奈良県の教員に対して実施した意識調査では、「教員の働き方を変えたい」と考えている教員は88.0%、「授業の準備に力を入れたい、もっと時間をかけたい」と考えている教員は87.2%であった。(令和6年3月時点での速報値)
教育情報の管理についてはすべての自治体の教育委員会及び学校に導入済みの県域公用アカウント「いいネットなら」で利用できる汎用クラウドプラットフォームである Google Workspace for Education(以下「公用クラウド」)を活用する。
現在はネットワーク環境をクラウド化する過渡期にあり、情報の伝達経路は自治体によって様々な形態をとっているため、教育に関するデータが異なるネットワークにあって共有することができない。デジタルデータを紙に印刷し、それを受けとってからデジタルで入力するという無駄な業務を増やし、データを閉じられたネットワーク間で移動するために、公用USBを利用してデータ移動をするなど、セキュリティが不十分になっている状況を、より望ましい状況に改善することを目指す。
過渡期の運用
これからの運用
奈良県教育委員会では教育情報を安全に扱うため、奈良県域で扱う教育データは公用クラウドに閉じ込め、必要なユーザーにのみアクセス権を付与して活用することを原則とする。このため従来行われてきた以下の過渡期の運用を、教育環境整備状況に合わせ、公用クラウドを使ったこれからの運用に置き換えていく。
過渡期の運用
LGWANのメールにて県教育委員会から市町村教育委員会へ公文書データを送る。
教育委員会から学校へLGWANのメールにて公文書データを送る。
教育委員会から学校へ校務支援システムのグループウェアのメール及び保存領域にて公文書データを送る。
指導案や大会資料等をWordや一太郎で作成し、メール添付でやり取りをする。
これからの運用
公用アカウント(いいネットなら)を使い、メール、チャット、Classroom 等のクラウドアプリによる連絡を行う。
データはドライブに保存し、連携相手にアクセス権を付与し、メールやチャットでURLを伝える。又はそれと同様の処理となるClassroom 等での共有を行う。
指導案指導等においても原則ファイル共有を行い、公用クラウド上でコメントや共同編集を行う。
各自治体で教育情報セキュリティポリシーを策定し、公用クラウドの適切な運用方法を記述することにより、利便性と安全性の両方を兼ね備えた運用が実現可能となる。
児童生徒と向き合う時間を確保するため、紙媒体を扱うことで発生する時間を削減し、教職員の勤務時間を短縮させる。具体的には以下のとおりである。
県域公用アカウント「いいネットなら」で、公用クラウドを活用することを原則とする。例えば、県が取りまとめる必要のある調査等は Google Classroom の機能や Google フォームを利用することなどが考えられる。また、電話などのコミュニケーションに変わるツールとして、相手の都合に合わせてコミュニケーションができる Google チャットを利用することも有効である。
県域公用アカウント「いいネットなら」で、公用クラウドを活用することを原則とする。
学校内で扱うデータは、学校共有ドライブに置くことによって誤って児童生徒と共有するなどのミスを防止し、異動に伴う引継ぎ等の作業も簡単になるため、これを有効に活用する。例えば、職員会議や各種ミーティング等を Googleカレンダーに予定を設定し、資料を貼り付け、議事録はドキュメントを共有して参加者全員で記録できる状態にするなど、児童生徒が授業中に行う共同作業と相似形となる方法を用い、教職員の校務での経験を授業の高度化に生かせるようにする。長期休業中や出張中でもいつでもオンラインで参加できる体制とするため、Google Meet の活用も考えられる。
学校や教職員間の連絡や交流は、相手の時間を縛る電話や形式的なやりとりになってしまうメールを多用せず、Google サイト、Classroom、Google チャットスペースなどを積極的に活用する。
学級や各教科で Google Classroom を活用でき、課題の配布や提出、回収に慣れさせておくことが重要である。また、チャットスペースなどのオンラインコミュニケーションツールは教員が積極的に利用して児童生徒とのコミュニケーションに活用することで、児童生徒が安全に効果的にICTを扱えるように練習させることも必要である。これらの取組は、緊急時の休校にも特別な準備をすることなく対応できるようになるなど、どこでもいつでも学べる姿につながることが期待できる。なお、個人で契約しているメッセンジャーやSNS等での教員と児童生徒とのやり取りは原則禁止とし、県域公用アカウント「いいネットなら」で利用できる公用クラウドのツールを利用することとする。
学校からの配布物は、学級通信や学校通信などを含めて、デジタル化を進める。Google サイトを活用して学校ホームページを作成し、お知らせ等を掲載することが考えられる。単に紙の資料をPDFにしただけではなく、デジタル化のメリットを生かすため、資料の構成を工夫することが期待される。また、通知に関しては、各自治体で導入している保護者連絡ツールの活用が考えられる。
なお、個人で契約しているメッセンジャーやSNS等での教職員と保護者とのやり取りは原則禁止とし、県域公用アカウント「いいネットなら」で利用できる公用クラウドのツールを利用することとする。
学校DXを実現するための整備内容については、各種データの連携を考慮して、県域の協議会が提案するものを基準とし、各学校設置者が決定すべきものである。基本的な考え方としては、学校教育においてインターネットをより安全安心に活用し、教育の質の向上を促すために積極的にLTE回線を導入するなどの「ネットワーク構成」、端末とその周辺機器を含んで快適な学習活動、学力向上、将来の社会生活にも生きるタッチペンなどの周辺機器を含めた「デバイス」、教室で指導者と学習者が楽しみながら深い学びを促進するための、従来、大型提示装置や電子黒板と呼ばれてきた「コミュニケーションボード」、自動採点や紙資料削減により学習活動の充実や校務における教員の業務改善を促しながらより経費を節減できる最新型の「カラー複合機」、校外と繋がって交流学習や外部人材に指導を受けることが可能になるカメラ機能などにも対応した「ブラウザベースのWeb機材」、自分にとって最適な活用ができるようにするための「入出力支援装置」、バッテリー消耗、学校や家庭における充電の利便性にも配慮した「充電設備」などは、公教育を行う学校のインフラとして整備されるべきである。それらの選定に当たっては、利用者の実態を明確に把握し、教職員や専門家とも十分に意見を交わしながら検討しなければならない。
また、インクルーシブ教育を推進し、多様な学習者が学びやすい環境を整えるため、UDフォントを積極的に採用して活用することが望ましい。さらに、IPAmj明朝を採用することにより、調達時にベンダーロックの誘因となる外字を廃止し、システムの開発及び運用や教職員の事務負担を軽減することは、極めて重要である。
整備内容の検討は、ムリ、ムダ、ムラを省くことになっているか、教職員がより働きやすい環境になっているか、より学びやすい環境になるか等の課題をエビデンスに基づいて可視化し、学校の教育環境を質的に向上させる学習基盤となっているかという視点で十分に検討しなければならない。
急速な情報技術の進展により、学校教育も高度情報化社会に対応しなければならない。GIGAスクール構想は、ブラウザを通したクラウドへのアクセスが基本であり、ローカル環境にアプリを入れて利用する環境の中に学習者を閉じ込めるべきではない。特に教員は、指導者であるだけではなく、自らが学習者でもあることを忘れてはならない。生成AIを校務や学習活動で適切に活用すること、ロケーションフリーでいつでもどこでも個人の都合に応じて学べる環境を整えること、教科書や各種教材のデジタル化やクラウドコンテンツの適切な選定、職場だけに縛られない働き方を実現するデバイスの整備、教育活動で活用できる公用の携帯端末(公用スマートフォン等)の導入、災害時には避難所として情報を確保できるトータルでの学校づくりが必要となる、導入後の適切な活用を見据えて、一部の人の好みや思いに流されることなく、ますます複雑かつ多様化する教材や学習スタイルにも対応できる環境整備が必要である。その場合、技術の進展を柔軟に教育に取り入れるため、長期で定めた計画やコンセプトが、後々の教育活動の制約にならないようにする視点が極めて重要である。
スマートフォンやSNSの利用が日常になり、学校教育にもクラウドコンテンツが導入されるなど、今やインターネットは私たちの生活のインフラとなった。その利用は低年齢化が進み、高齢者の利用も広がっていく中、利用を巡るトラブルが増大することを懸念しながら、よりよい整備内容を検討しなければならない。また、不適切な利用による健康問題については、子供たちの学校内外の生活全般で考えなければならない課題であり、学校が関わる時間や責任の範囲だけで判断した整備内容や運用にならないよう、子供たちのよりよい成長を願っている学校関係者が十分な議論を重ね、丁寧かつ正確な情報交換と対話を不断に続けていくことが肝要である。